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仮面を被ったまま生きていた部屋  作者: 巳ノ星 壱果


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14話 サラブレッドの外れ馬

 第17章 サラブレッドの外れ馬


 そんな暮らしを続けていく中で、

 私は、すべてを消すことになった。


 気がつけば、多くのものを手放していた。

 あの会社さえも、捨ててしまった。


 誰もが知る、あの会社。

 よほどのことがない限り、潰れることはないだろうと言われている場所だった。


 高校三年生の秋。

 面接で聞かれたのは、意外な質問だった。


「幼少期の思い出を話してください」


「父の仕事の都合で、小学校四年生から六年生まで海外に住んでいました」


「出席日数が少ないのはなぜですか?」


「他にやりたいことがあって、学校を続けるか悩んでいた時期があり、通学していない期間がありました」


 それだけの面接だった。


 親は大喜びした。

 担任の先生も喜んでくれた。

 クラスで最初の内定者が、まさか私になるなんて、誰も思っていなかったと思う。


 言語だって、日本語しか話せない。

 海外にいたのに、何も身についていない。

 家に来ていたメイドさんも、話の通じない私に呆れていたかもしれない。


 それでも、受かった。

 父の仕事の影響で海外に住んでいた、その経歴のおかげで。


 私は、父のサラブレッドにはなれなかった。

 その思いだけが、ずっと頭の中に残っていた。


 おそらく、あの頃の私は引きこもりだった。


 父は何も言わなかったけど、呆れたような顔をしていた。

 母は、どこか悲しそうだった。


 自分の娘が、こんなふうになるなんて、

 思ってもいなかったのだろう。


 父は何度も言った。


「兄よりも、壱果のほうが頭がいいはずだから」


 きっと父は、私をサラブレッドにしたかったのだと思う。

 自慢の娘でいてほしかったから、

 そう言い聞かせるように、私に言葉を重ねたのだろう。


 父なりの励ましだったのだと、今なら分かる。

 でもあの頃の私には、その言葉はただ重かった。


 ある日、親友から聞いた。


「○○くん、壱果が働いていた会社に入社したらしいよ」


「あ、そうなんだ」

 それしか答えられなかった。


 その男子は、小さい頃からスポーツ少年で、

 性格も良く、成績も良く、いい大学を出た優等生だった。


 その人が入社したことで、

 私がいた場所の価値の大きさを、

 皮肉にも、あとから知ることになった。


 私は、本当に大切な場所を手放してしまったのだと、

 そのとき初めて実感した。


 無駄にしてしまった数年間。

 私は、何もできなかった。


 楽しくゲームをするわけでもなく、

 漫画を読むわけでもなく、

 何をしていたのかの記憶もない。


 ただ、私にとっては空白の時間だった。


 もし自分の価値を物に例えるなら、

 店頭に並ぶことすらない商品。


 そんなことばかり、考えていた。


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