12話 壊れたロボット
第15章 壊れたロボット
「DV保護施設に戻りたい」
何度も、そう思った。
でも、帰る先がある私には、戻れないことも分かっていた。
母から聞いた話がある。
警察に捜索願を出したとき、
「県で保護していますので安心してください」
それだけ告げられたらしい。
私の肉親にさえ、居場所は明かされなかった。
それほどDV保護施設は、徹底して守られた場所だったことを、後から知った。
DV保護施設では、残酷な場面を目にすることもあり、つらいこともあった。
それでも、生活はきちんと整っていた。
夜に眠り、朝に起きる。
当たり前のことが、当たり前にできていた。
私は、普通に戻れたのだと思っていた。
「私には戻れる場所がある」
そう思えたから、実家に戻ることを選んだはずだった。
施設にいた他の入居者の多くは、親を頼れず、
仕方なくDV彼氏やDV旦那の元へ戻っていった。
そんな現実を、私は何度も見てきた。
だからこそ、戻れる場所がある自分は、
まだ救われているのだと思っていた。
けれど外に出て、日常に戻った途端、
私はまた、暗い自分に引き戻された。
周りの目が気になる。
「こんな私を、みんなどう思っているんだろう」
そんなことばかりが、頭の中を占めていた。
私は、守られていた場所の外で、
初めて自分が本当に壊れていることに気づいた。
「そうだ、私は壊れたロボットだったんだ」
そんなことしか、考えられなかった。
好きな服を買ってみた。
誰にも会えないのに。
ご飯も、食べたい時にしか食べなかった。
まるで、生きているのに死んでいるようだった。
何時間眠っていたのだろう。
それとも、薬に眠らされていただけだったのだろうか。
仕事へ行く勇気は、到底なかった。
周りが全部、敵に見えた。
気づけば、ほとんど引きこもりのような生活をしていた。
精神科の先生に会う時だけ、外に出た。
数ヶ月経った頃だっただろうか。
DV保護施設で連絡先を交換した女性から、電話がきた。
「壱果、元気にしてる? 私ね、出て来たよー!」
「うん、元気だよー。娘ちゃんも元気にしてるの?」
私は、その女性にも、また仮面を被り始めていることを言えなかった。
「やっぱりこっちは田舎ですごい不便なんだよね」
「そうなんだ」
「でも、もう元旦那とは縁も切れたしさ、親もいるから、これから働けるかな」
前を向いて明るくなれた女性と、暗いままの私。
比べたとき、自分はやっぱり、失敗作の人間なんじゃないかと思えた。
でも、その女性は、私が施設を出るきっかけをくれた人だった。
だから、その女性に対して僻みの感情は生まれなかった。感謝の気持ちしかなかった。
女性の紹介で、何人かの連絡先も教えてもらい、
同じ悩みを抱えた仲間と連絡を取ることはできた。
話すことはできたけれど、会うことはできなかった。
DV旦那の元に戻ったあと、きっと携帯を奪われたのだろう。
連絡がつかなくなった仲間もいた。
気がつけば私は、これまで我慢していた分の反動のように、貯金を全部使い切ってしまっていた。
親の心配さえ、鬱陶しいと思ってしまった。
誰かに心配されることすら、受け取れないほど、私は壊れていた。




