表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮面を被ったまま生きていた部屋  作者: 巳ノ星 壱果


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/17

11話 私に名前がついた日

 第14章 私に名前がついた日


 DV保護施設を出たあと、私はいくつもの手続きをした。

 けれど、この頃の記憶はほとんど残っていない。


 接近禁止命令を出した。

 だから、もう元彼に会うことはなかった。


 普通なら、


「あの人、今頃どうしているのかな?」


 そんなことを一度くらいは思うのかもしれない。


 でも、私は一ミリも思わなかった。

 情なんて、これっぽっちも残っていなかった。


 共通の知り合いから、彼が私に未練を残しているという話を聞いた。

 けれど私は、長いあいだ、雑に扱われたペットのような存在だった。


 あの部屋で過ごした時間の代償は、

 私が思っていたより、ずっと大きかった。



 DV保護施設の職員さんに言われた。


「一度、病院に行った方がいいよ」


 恐る恐る、私は病院の扉を開けた。


 待合室には、どこか重たい空気をまとった人たちが座っていた。

 その中にいる自分を見て、ふと思った。


 仮面を外したつもりだったのに、私はまだ、外せていなかったのだと。


 県内でも有名な医師に診てもらった。


 そして言われた。





「あなたは、双極性障害です」




 その瞬間、

 頭の中に浮かんだのは


「なにそれ?」


 という、想いだった。



 名前がついた。

 説明がついた。


 それなのに、


 私は、自分に「不完全」というラベルを貼られたような気がした。


 精神疾患のある方を傷つけたいわけでは決してない。けれど、これまで辛そうな人たちを数多く見てきた私にとって、自分に病名がつけられたという事実は、すぐには受け入れられるものではなかった。


 DV保護施設では、あんなに元気だった私が、

 日常に戻ると、また暗い自分に戻っていく。


 それが、いちばん信じられなかった。


 私は、この一ヶ月で、

 私よりもずっと苦しんでいる人を何人も見てきた。


「他の人は、なんて診断なんだろう」


 そんなことを考えてしまう自分が、少し嫌だった。


 実家に戻った私は、ほとんど寝て過ごしていた。


 十二時間以上眠る日もあった。


 生きているのに、どこか生き地獄のようだった。


 みんなが免許を取って、

 楽しそうに遊び、未来に進んでいく中で、


 私だけが、時間の止まった場所に

 取り残されている気がしていた。


 もうすっかり元気になったと思っていたのに、どうやら私は“普通”ではないらしかった。

 日常に戻った瞬間、一気に現実へ引き戻された。


 薬を飲んで眠った。

 誰にも何も言わない日々が続いていた。

 仕事にも行けなかった。


 嫌なこともたくさん見てきたはずなのに、

 あれほど笑えていたDV保護施設での日々が

 いつの間にか、私にとって幻の夢の国のように見えてしまった。


 そして私は、あの居心地が少しだけ良かったDV保護施設に戻りたいと、そんなふうに思えてしまった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
繊細で感受性が強いがあまり生きるのが疲れてしまうのでしょうか。だんだん苦しめられてDV保護施設で保護されてからの希望、他者との距離感が共感できてしまう作品でした。エッセイとのことなのでちゃんと自分と向…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ