10話 DV保護施設でみた現実④ それぞれの覚悟
第13章 DV保護施設でみた現実④ それぞれの覚悟
DV保護施設での生活は、思っていたよりも居心地が良かった。
同じ悩みを抱えた人たちと、私たちを守ってくれる優しい職員さん。
私の傷を、無遠慮に抉ってくる人は、ここには誰もいなかった。
携帯電話のない生活も、苦だと思わなかった。
その中で、私は一人だけ、心から気を許せる年上のお姉さんと出会った。
風通しのいい性格をした人で、年中さんくらいの女の子のお母さんだった。
たくさんの人と話をした。
多くの人が、元恋人や元旦那に、まだ未練を残していた。
けれど、その人だけは違った。
私と、同じ目をしていた。
「もう、過去には戻らない」
そう、はっきり決めている人だった。
「壱果はさ、ここを出たらどうするの?」
そう聞かれて、
私は「うーん、どうしよう」としか答えられなかった。
DV被害者の多くは、
過去の幸せな思い出や、ここを出た後の不安を口にする。
でも、その人は違った。
「私は離婚調停をして、離婚するんだ。
田舎だけど、実家に帰ろうと思ってる」
みんなが不安を抱えている中で、
その人だけは、前を向いていた。
そして、その直後に、あの出来事が起きた。
物心がついた子どもを置いて出ていった母親の姿を見たあと、
私は、ひとつの決心をした。
もうこれ以上、悲しいものを見たくない。
そう思ったからだ。
DV保護施設で見た現実は、
どんなホラー映画よりも、ずっと怖かった。
「全部、作り話だったらよかったのに」
そう思ってしまうほど、
この一か月で私は、
見てはいけないものを、あまりにも多く見てしまった。
小さな子どもの気持ちも、
心に深い傷を負った女性たちも。
傷つけられた側の傷は、
きっと、二度と完全には消えない。
私は職員さんに話し、
「ここを出たい」と伝えた。
そして、私は実家に帰ることを選んだ。
心を許した女性に、
携帯電話の番号を書いた紙を渡した。
「また会おうね」
そう約束して、
私はDV保護施設を出ることにした。
そのときは、
ここから先で、また同じような気持ちを抱えることになるなんて、思いもしなかった。




