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死にたがり聖女は最強騎士団長(狼)に拾われる   作者: うる


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9.誤解だ兄上!!

 腕の中で、規則正しい寝息が聞こえる。  王都への空路、数時間の旅の間に、レイは俺の腕の中で眠ってしまった。


 ……軽い。  風除けのマントごと抱えても、まるで羽毛布団でも運んでいるかのような軽さだ。  彼女は言っていた。『前の家では、掃除をしないとご飯がもらえなかった』と。  どこの誰かは知らんが、保護者の風上にも置けないクズどもだ。この小さな子供を、ここまで追い詰めるとは。


(詳しい事情は知らんが、二度とその「前の家」とやらに戻すつもりはない)


 俺は眠る彼女の顔を見下ろし、決意を新たにした。  この子を国に渡せば、「聖女」としてまた別の籠(王城)に閉じ込められるだけだ。  俺が引き取る。俺の私邸なら、誰にも邪魔されず、ただの子供として養えるはずだ。


 俺は空の上で考えを巡らせていた。  本来なら、飛竜は王城のテラスに着陸し、国王への帰還報告を行うのが決まりだ。  だが、そんなことをしていれば、マントの中身が「黒髪黒目の少女」であることが露見してしまう。


 王城の裏手にある騎士団専用の昇降口に降りよう。  そこなら人目は少ない。副団長に報告を任せ、俺はそのまま裏口から抜け出し、レイを屋敷へ……。


「よし、完璧だ」


 俺は隠蔽計画を立て、飛竜の手綱を引いた。  高度を下げる。雲を抜けると、眼下に白亜の王都が広がった。


 騎士団専用の昇降口を目指し、飛竜を旋回させる。  だが。


「……チッ」


 俺は思わず舌打ちをした。  裏手の昇降口には、すでに大量の兵士と、煌びやかな衣装を纏った集団が待ち構えていたからだ。


(兄上……! 暇なのかあの人は!)


 国王アルフォンス。そして王太子エドワード。  国のトップ二人が、仁王立ちで俺の帰りを待っている。  聖女の捜索結果が気になって、居ても立っても居られず出迎えに来たのだろう。


 逃げられない。  俺は覚悟を決め、飛竜をテラスへと着陸させた。


 ◇


 ズシン、と地響きを立てて飛竜が降り立つ。  俺はレイが目を覚まさないよう、そして顔が見えないよう、マントを深く被せ直し、彼女を「荷物」のように抱えて鞍から飛び降りた。


「ジルベルト!」


 俺の足が地面につくかつかないかのタイミングで、兄上が駆け寄ってきた。  その顔は必死そのものだ。


「無事に戻ったか! 調査はどうだった!?」 「ただいま戻りました、陛下。……調査は完了しました」


 俺は努めて冷静に、事務的な口調で答えた。


「森の異変は鎮静化しています。詳細は後ほど、報告書にて提出いたします」 「いや、そうではない! 余が聞きたいのは……!」


 兄上が言い淀み、周囲の兵士たちをチラリと見た。  そして声を潜め、俺に詰め寄る。


「『例の件』だ。……見つかったのか?」


 聖女のことだ。  俺は表情筋を鉄のように固め、即答した。


「いいえ。何も」 「……なっ」 「森は広大です。魔獣の痕跡はありましたが、それらしき人物の影も形もありませんでした。  ……残念ですが」


 嘘だ。  今、俺の腕の中にその「人物」がいる。  だが、言えるわけがない。言えば最後、この子は政治の道具にされる。


「そ、そうか……。お前でも見つからなかったか……」


 兄上は目に見えて落胆し、肩を落とした。隣のエドワードも天を仰いでいる。  良心が痛まないわけではない。だが、これは必要な嘘だ。


「では、私は旅装を解きに失礼いたします」


 俺は会話を切り上げ、足早に立ち去ろうとした。  このまま強引に突破すれば、なんとかなる。


 だが、兄上は伊達に国王をやっていない。  俺の不自然な挙動と、腕の中の「違和感」を見逃さなかった。


「……待て、ジルベルト」


 呼び止める声。  俺の背中に冷や汗が流れる。


「なんだ、その腕に抱えている大きな荷物は」 「……遠征先で手に入れた、珍しい『魔獣の毛皮』です」 「毛皮? 妙に丸っこいが」 「繊細な素材なので、厳重に包んでいるのです」


 苦しい言い訳だとは分かっている。  だが、兄上は訝しげに目を細め、俺の正面に回り込んだ。


「……動いていないか? その毛皮」 「気のせいです」 「いや、今動いたぞ。ピクリと」 「風のせいです」


 その時だった。  俺の腕の中で、レイが身じろぎをした。  マントの隙間から、寝起きの、少し掠れた声が漏れる。


「……んぅ……団長さん……? ついたの……?」


 最悪のタイミングだ。  静まり返ったテラスに、鈴を転がしたような少女の声が響き渡る。


 兄上の目が点になった。  エドワードが口をあんぐりと開けた。


「……女の声?」


 兄上の視線が、俺と、腕の中の「毛皮」を行き来する。  そして、とんでもない結論を導き出したようだった。


「ジルベルト。……貴様、まさか」 「……」 「遠征先で現地の娘に手を出して、子供まで作っていたのか!?」


 は?(あんな、魔物がわんさかいる森に娘なんているはずないだろ、それに、遠征期間はたったの1か月だぞ!!)  俺が呆気に取られている間に、兄上は「隠し子か!?」と騒ぎながら、俺が抵抗するよりも早くマントの端を捲り上げた。


 ――さらり、と。  夜の闇を溶かしたような黒髪がこぼれ落ちた。  そして、眠たげに瞬く、黒曜石のような瞳。  痩せ細ってはいるが、あどけなさの残る少女の顔が、白日の下に晒された。


「……っ!?」


 兄上が息を呑んだ。  エドワードが悲鳴に近い声を上げる。


「く、黒髪黒目!!」 「小柄な女性!!」 「隠し子じゃない! 報告にあった聖女の特徴と完全に一致しているではないか!!」


 終わった。  俺は天を仰いだ。  完璧な隠蔽計画が、到着から五分で崩壊した。


「ジルベルト! 貴様、見つからなかったと嘘をついたな!?」 「……陛下。これには事情が」 「これが聖女だろう! どう見ても!」


 兄上が歓喜と怒りの入り混じった顔で叫ぶ。  もはや誤魔化しは効かない。  ならば、押し通すしかない。


 俺はレイを抱く腕に力を込め、兄上を威圧するように睨み返した。


「違います」 「は?」 「これは聖女などではありません。私が森で拾った、ただの『迷子』です」


 俺の理不尽な主張に、兄上が目を白黒させる。


「い、いや、黒髪黒目だぞ? 魔力も感じるし……」 「偶然です」 「そんな偶然があるか!」 「とにかく! この子は私が個人的に保護します! 国の管理下には置きません!  こんなボロボロになるまで放置されていた子供を、これ以上おもちゃにされてたまるか!」


 俺が声を荒らげた、その時だった。  状況を理解していないレイが、キョトンとした顔で兄上を見上げ、とんでもない爆弾を投下した。


「……はじめまして。  あの、あなたが処刑の執行人の方ですか? 偉そうな服を着てますけど」


「「…………は?」」


 兄上とエドワードの声が綺麗にハモった。


「しょ、処刑……?」


 兄上が震える指で俺を指差す。


「おいジルベルト。貴様、聖女に何を吹き込んだのだ?  まさか、『お前は罪人だから処刑される』などと脅して、連れ帰ってきたのではあるまいな?」


「ち、違います! 勝手に勘違いしているだけで……!」


 弁明しようとする俺の言葉など耳に入らない様子で、レイは淡々と続けた。


「大丈夫です、覚悟はできています。  団長さんが『苦しまないように俺がやる』と言ってくれましたし、最後の食事も美味しかったので、思い残すことはありません」


 レイの言葉を聞いた瞬間、兄上の目からスゥッと光が消えた。  彼はエドワードに向かって静かに命じた。


「エドワード。近衛騎士団を呼べ」 「はい、父上」 「ジルベルトを捕縛しろ。この大馬鹿者は、国の希望である聖女を『自分専用の玩具』として監禁し、脅迫し、洗脳しようとしているようだ」


「待て!! 違う!! 誤解だ兄上!!」


 俺の叫びも虚しく、わらわらと集まってきた近衛兵たちに取り囲まれる。  腕の中のレイは、「わあ、すごい人数。やっぱり公開処刑って一大イベントなんですね」と他人事のように感心している。


 こうして、俺の「聖女隠蔽作戦」は失敗に終わり、王都到着早々、俺は「聖女を私物化しようとした変態誘拐犯」の汚名を着せられることになったのだった。

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