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死にたがり聖女は最強騎士団長(狼)に拾われる   作者: うる


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6.聖女召喚失敗

主人公たちは登場しません。

「――それで? 『聖女は消えました、申し訳ありません』で済むと思っているのか!!」


 ドンッ!!  重厚な執務机が拳で叩き割られそうな音を立てる。  国王であり、ジルベルトの兄であるアルフォンスは、額に青筋を浮かべて目の前の神官長と宮廷魔導師長を怒鳴りつけていた。


 部屋には、王太子のエドワードも青ざめた顔で控えている。  彼らの足元には、本来なら「聖女召喚成功」を知らせるはずだった羊皮紙が、くしゃくしゃに丸められて落ちていた。


「へ、陛下の仰る通りでございます……! し、しかし、儀式そのものは成功したのです! 異界の魂を呼び寄せることには成功しました!」 「ならばその魂の器となる娘はどこにいる! 召喚の間には誰もいなかったではないか!」 「そ、それが……座標の固定に僅かなズレが生じまして……」


 神官長が滝のような脂汗を流しながら、震える声で弁明する。


「魔力干渉により、聖女様は召喚陣の上ではなく、別の場所へ転移してしまったようなのです……」 「どこだ! 王都の中か!?」 「いえ、それが……」


 宮廷魔導師長がおずおずと地図を広げた。  彼が震える指で差したのは、王都から遥か北。  人間が生存するにはあまりに過酷な、死の領域。


「魔力痕跡を追跡した結果……落下地点は、『魔の森』付近かと……」


 その言葉に、部屋中の空気が凍りついた。  アルフォンス国王は絶句し、その場に崩れ落ちそうになるのを必死で堪えた。


「魔の森だと……? あんな、魔物が跋扈し、瘴気が充満する場所に、か弱い異界の娘が放り出されたというのか?」 「……生存確率は、限りなくゼロに近いかと」 「馬鹿者があぁぁぁッ!!」


 国王の怒号が再び響く。  この国は今、強まる瘴気の影響で作物が枯れ、魔物の活性化に悩まされている。  聖女の「浄化」の力は、国家存亡に関わる最後の希望だったのだ。  それを、よりによって一番危険な場所に落とすなど、失態で済む話ではない。


「父上、落ち着いてください」


 今まで沈黙を守っていた王太子エドワードが一歩進み出た。冷静さを装っているが、その声は硬い。


「嘆いていても事態は好転しません。魔の森付近ということは……まだ、希望はあります」 「希望だと? あんな場所で、丸一日生きていられる人間など……」 「一人だけ、います」


 エドワードは地図の一点を指し示した。  魔の森の最深部付近。  聖女の落下予測地点のすぐそば。


「ジルベルト叔父上です」 「……あっ」


 国王が目を見開いた。


「そうだ……! ジルベルトは今、魔の森の異常発生の『調査』に向かっている最中だったな!」 「はい。予定通りであれば、調査を終えて砦に戻り、あと数日で王都へ帰還するはずです」


 エドワードの言葉に、絶望に沈んでいた室内に一筋の光が差した。  この国最強の騎士であり、唯一無二の魔眼を持つジルベルト。  彼が今、まさにその現場にいるのだ。


「叔父上の感知能力なら、異界から来た聖女様の魔力に気づくはず。もし遭遇していれば、保護して連れ帰ってくる可能性が高いです」 「おお……! そうか、ジルベルトか! あやつなら魔物など恐るるに足らん!」


 国王は祈るように手を組んだ。  だが、すぐにその表情が別の不安で曇った。


「だ、だがエドワードよ。あやつは極度の人間嫌いだぞ?  もし聖女を見つけても、『怪しい不審者だ』と切り捨てたり、あるいは『弱すぎて邪魔だ』と森に置いてきたりしていないだろうか……」 「……」


 エドワードが沈黙した。否定しきれないのだ。  あの叔父は、強すぎるがゆえに弱者への配慮が壊滅的に欠けている。


「召喚された聖女様の特徴は?」 「は、はい! 召喚の瞬間に観測された魔力波長から推測するに……」


 神官長が慌ててメモを読み上げる。


「年齢は二十歳前後。髪と瞳の色は、夜のように深い黒色。  そして体格は……魔力消費の影響か、かなり『小柄』で『幼く見える』可能性が高いです」


「黒髪黒目の、小柄な娘か…」


 国王と王太子は顔を見合わせた。


「頼む、ジルベルト。  もし奇跡的にその娘がお前の元に辿り着いていたなら、どうか保護していてくれ。  決して、不審者として斬り捨てたり、魔物と間違えて討伐したりしないでくれよ……!」


 彼らは知らなかった。  彼らが案じているその「最強の騎士」が、すでにその娘を保護していることを。  そして、「聖女」ではなく「違法召喚の哀れな失敗作(子供)」だと盛大に勘違いし、全力で餌付けしていることを。


「叔父上が戻られるまで、あと二日か三日……。胃が痛いな」 「戻ってきたらすぐに確認せねばならん。我らも出迎えの準備をするぞ!」


 王都での聖女行方不明の混乱は、ジルベルトの帰還によって、さらにややこしい方向へと加速することになる。

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