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死にたがり聖女は最強騎士団長(狼)に拾われる   作者: うる


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43/44

43.おうちに帰ろう。

「ひっ、あ……あぁ……」


 クラウスは、喉の奥から引きつった音を漏らした。  目の前に立つ男から放たれる圧力が、物理的な重さとなってのしかかる。それは魔法障壁などでは防げない、純粋な「死」の気配だった。


「ま、待て……! 話せば分かる!  私はただ、彼女の才能を惜しんで……こ、国家間の問題になるぞ!?」


「国家間?」


 ジルベルトは、冷徹に鼻を鳴らした。


「我が国の聖女を誘拐し、洗脳し、あまつさえ心を傷つけた。  その時点で、貴様に外交特権などない。あるのは『害獣』としての処分だけだ」


 ブンッ!!


 ジルベルトが剣を一閃させる。  刃はクラウスの首の皮一枚を残してピタリと止まったが、その剣圧だけで背後の壁が大きく抉れ、轟音が響いた。


「ヒィィィッ!!」


 クラウスは腰を抜かし、無様に床を這いずった。  高慢だった魔導師の面影は微塵もない。


「私のレイに『価値がない』と言ったな」


 ジルベルトが一歩踏み込む。


「その言葉、貴様自身に返してやる。  人の心の痛みが分からぬ貴様ごときに、生きている価値などない」


 剣が振り上げられる。  クラウスは絶望に目を見開き、悲鳴を上げようとした――その瞬間。


「――はい、ストップストップ!」


 軽い口調と共に、ダリウスがジルベルトの腕をガシッと掴んだ。


「団長、そこまでだ。こいつを殺したら、レイ様が『人殺しの原因になった』ってまた気に病むぜ?」


「……チッ」


 ジルベルトは不満げに舌打ちをしたが、その言葉は効果てきめんだった。  彼は剣を鞘に納めると、代わりに硬く握りしめた拳を、クラウスの顔面へと叩き込んだ。


 ドゴォッ!!


 鈍い音が響き、クラウスは白目を剥いて吹き飛び、壁に激突して動かなくなった。


「……ふん。手加減はしてやった」


「いやいや、鼻の骨、完全に逝ってるからね?」


 ダリウスは呆れつつも、手際よくクラウスを拘束し始めた。


「こいつの身柄と、この研究所の証拠は俺が押さえる。  団長はさっさとレイ様を連れて帰ってくれ。……これ以上、当てられちゃ敵わん」


 ダリウスに促され、ジルベルトは振り返った。  そこには、へたり込んだまま、涙に濡れた目で彼を見上げるレイの姿があった。


「団長、さん……」


 ジルベルトの表情から、修羅のような険しさが消え失せる。  彼はレイの前に跪くと、壊れ物を扱うようにそっと彼女を抱き上げた。いわゆる「お姫様抱っこ」だ。


「きゃっ!?」


「帰ろう、レイ。俺たちの家に」


 その腕の中は、あの狼の時と同じように温かくて、安心感に満ちていた。  レイは、恐る恐るジルベルトの胸に顔を埋める。


「……本当に、いいんですか?  私、本当に面倒くさいし、ネガティブだし……それに、団長さんをペット扱いして……」


「まだ言うか」


 ジルベルトは苦笑し、少しだけ意地悪く囁いた。


「言っただろう。俺は、お前が俺をペット扱いして無防備に甘えてくるのが大好きだと。  ……城に帰ったら、またあの時のように撫でてくれないか?」


「ッ~~~!!」


 レイの顔から火が出た。  この人は、騎士団長としての威厳を持ちながら、中身はあの甘えん坊の狼そのままだ。  そして、私の「重い」愛を、それ以上に「重い」愛で受け止めてくれる、唯一の人。


「……はい。覚悟しておいてください」


 レイは涙を拭い、精一杯の強がりと、ありったけの愛情を込めて言った。


「私、一度懐いたら離れませんから。  一生、撫で回してあげます!」


 その言葉に、ジルベルトは今日一番の、とろけるような笑顔を見せた。


「望むところだ」


   月明かりの下。  崩壊した『黒鉄の離宮』を背に、銀色の巨狼――ではなく、一人の騎士が、大切な聖女を腕に抱いて歩き出す。

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