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死にたがり聖女は最強騎士団長(狼)に拾われる   作者: うる


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31/42

31.素晴らしい飼い主。

翌日、私はエリスさんに会うために、騎士団の休憩所を訪れていた。


「おっ、レイじゃないか! どうした、また迷子か?」 「違いますよぅ。今日はエリスさんにプレゼントを持ってきたんです」


 休憩中のエリスさんは、私の姿を見つけるとパッと顔を輝かせた。  私は昨日買った高級ワインの包みを差し出した。


「これ、先日助けていただいたお礼です。  団長さんに『一番いいお店』を教えてもらって選んだんです」


「マジで!? うわー、これ高かっただろ? ありがとな!」


 エリスさんは包みを開け、ラベルを見るなり「ひゅう!」と口笛を吹いた。  喜んでもらえてよかった。


 私たちはベンチに並んで座り、そのままお喋りタイムに突入した。  話題はもちろん、昨日の「買い物」での出来事だ。


「……でね、エリスさん聞いてくださいよ!  マチルダさんったら酷いんですよ。私と団長さんが買い物に行っただけで、『デートだ』ってからかうんです!」


 私は頬を膨らませて訴えた。


「私たちが手を繋いでいたのは、単なる引率と迷子防止のためなのに。  それを『カップルに見える』だなんて……団長さんに迷惑ですよね?」


 私が同意を求めると、エリスさんはニヤニヤしながらワインの瓶を撫でていた。


「いやぁ、それはマチルダさんが正しいわ。  旗から見りゃ、おしゃれして買い物して贈り物交換して……どう見てもデートだろ」


「エリスさんまで!」


「で? 団長はなんて?」


「それが……団長さんまで変なんです」


 私は昨日の、あの心臓に悪かったシーンを思い出した。


「否定してくれると思ったのに、『レイが楽しかったならデートでも構わん』とか、『俺にとっては最高のデートだった』とか……。  あの綺麗な金色の目で、すっごく真剣に見つめてくるんです!」


 思い出しただけで顔が熱くなる。  あの時の団長さんの色気は、本当に反則だった。


「私みたいな子供扱いされている相手に、あんな……大人の余裕みたいな冗談を言うなんて。  心臓が持ちませんよ、もう……」


 私が両手で熱い頬を冷やしていると、エリスさんは「ぶっ」と吹き出し、お腹を抱えて笑い出した。


「あはははは! 最高だな団長!  『攻め』の姿勢ってやつか。あの堅物が、必死にアプローチしてんのに『大人の余裕』で片付けられてるとか、傑作すぎる!」


「え? アプローチ?」


「なんでもない、こっちの話」


 エリスさんはひとしきり笑った後、スッと真面目な顔になり、私の方を向いた。


「なぁ、レイ」 「はい?」


 エリスさんは、探るような、でも優しい瞳で私を見据えた。


「茶化すのは抜きにして、聞くけどさ。  ……結局、お前は団長のこと、どう思ってるんだ?」


「え……?」


 直球の質問に、私は瞬きをした。


「どうって……それはもちろん、感謝していますよ?  命の恩人だし、私の保護者だし……」


「そういう『肩書き』はナシだ」


 エリスさんがピシャリと言った。


「保護者とか恩人とか抜きにして。  『ジルベルト』という一人の男として、お前はどう思ってる?」


「男として……」


 私は言葉に詰まった。  そんなふうに考えたことはなかった。  だって、彼は雲の上の人で、私はただの迷い込んだ異邦人で。


「……優しくて、頼りになります。  手が大きくて温かくて、握ってもらうと安心します。  怒ると怖いけど、私のことを一番に考えてくれてるって分かるから……」


 言葉にすればするほど、胸の奥がキュンと切なくなる。


「一緒にいると、幸せだなって思います。  ずっとこのまま、そばにいられたらいいなって……」


「ほうほう。それはつまり?」


 エリスさんが期待のこもった目で身を乗り出す。  しかし、私は首を横に振った。


「……素晴らしい『飼い主』さんだなって」


 ガクッ!!  エリスさんが盛大にズッコけた。


「か、飼い主……お前なぁ……」


「だってそうでしょう?  ご飯をくれて、寝床をくれて、頭を撫でてくれて。  私は団長さんに拾われた、幸福なペットみたいなものですから」


 そう。恋愛感情なんておこがましい。  私はこの温かい居場所にいさせてもらっているだけで十分なのだ。


 私が自嘲気味に笑うと、エリスさんは呆れたように、でもどこか憐れむように溜息をついた。


「はぁ……。お前も大概、重症だな」 「え?」 「まあいい。一つだけ質問を変えよう」


 エリスさんは意地悪く口角を上げた。


「もし、明日。  団長が『飼い主』をやめて、別の綺麗な女性と手を繋いで、そのネクタイピンをつけてデートしてたら……お前、どう思う?」


 ――ドクン。


 心臓が、嫌な音を立てた。


 想像してしまった。  団長さんの隣に、私ではない誰かがいる姿。  あの温かい手が、別の女性の手を包み込む光景。  私に向けてくれたあの甘い金色の瞳が、他の誰かに向けられるところ。


 胸が、ギュッと締め付けられるように痛んだ。  息が苦しい。嫌だ。  そんなの、絶対に見たくない。


「……嫌、です」


 私が蚊の鳴くような声で答えると、エリスさんは「だよな」と満足げに頷いた。


「ま、今はその『モヤモヤ』を大事にしとけよ。  答えは急がなくていいさ。……団長には悪いけどな」


 エリスさんはポンと私の肩を叩いた。


「さあ、休憩終わり!  私は仕事に戻るから、お前も気をつけて帰れよ。  ……あの大事な『飼い主』さんが心配して迎えに来る前にな」


「あ、はい! ありがとうございました!」


 私はエリスさんに手を振り、休憩所を後にした。


 帰り道。  胸の中に残った、正体不明の「モヤモヤ」を手で押さえながら。  私は、昨日団長さんがくれた「最高のデートだった」という言葉を、何度も何度も反芻していた。

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