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死にたがり聖女は最強騎士団長(狼)に拾われる   作者: うる


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30/44

30これは.デート?

それから数日後の週末。  私は、団長さんと一緒に王都のショッピング街に来ていた。


「わぁ……すごい賑わい!」


 石畳の大通りには、色とりどりの店が並び、たくさんの人々が行き交っている。  私は懐の中にある、ずっしりと重い革袋を服の上からそっと押さえた。


「(ふふ、今日はお財布も温かいし、お買い物日和だなぁ)」


 実はこのお金、国から支給された『聖女手当』なのだ。  私が日々、無自覚に放出している浄化の力が、王都の瘴気対策に多大な貢献をしているとして、正式な報酬が出ることになった。  神殿での勉強のおかげで、この国の貨幣価値もバッチリ学んだ。今の私はもう、ただ守られるだけの迷子じゃない。自分の稼ぎで買い物ができる、自立した大人の女性なのだ(多分)。


「はぐれるなよ、レイ」


 隣を歩く団長さんが、自然な動作で私の手を取った。  彼の手は大きくて温かい。


「はい! 今日はエリスさんへのお礼だけじゃなくて、私のポケットマネーで色々買いますからね!」 「……あまり無駄遣いするなよ。詐欺にも気をつけろ」 「もう、心配性なんだから」


 私たちは手を繋ぎながら、活気ある街へと繰り出した。


 ◇


 まずはエリスさんへのお礼だ。  団長さんの案内で、この国一番の銘酒を扱う店へ行き、高級ワインを購入した。もちろん私の手当でのお支払いだ。


 店を出たところで、私は団長さんに切り出した。


「あの、団長さん。  ここからは少し、別行動をお願いしたいんですけど」


「なに? 別行動だと?」  団長さんの眉がピクリと動いた。


「ダメだ。お前を一人にするなど言語道断だ。また変な虫がついたらどうする」 「で、でも! ここからは『秘密の買い物』なんです!」 「秘密?」 「はい。屋敷の皆さんへ、日頃の感謝を込めてサプライズでプレゼントを買いたくて……中身を見られたくないんです」


 本当は、その「皆さん」の中に団長さんも含まれているから、絶対に見られたくないのだ。


「お願いです、団長さん。この通りのベンチで待っていてください。  お店はこの目の前の雑貨屋さんですから! 絶対に遠くには行きませんから!」


 私が必死に拝み倒すと、団長さんは渋々といった様子で頷いた。


「……分かった。この店の前だけだぞ。俺はここから一歩も動かずに、鷹の目でお前を見張っているからな」


 私は急いでお店に飛び込んだ。


 ◇


 店内には素敵な小物がたくさん並んでいた。  私は教わった金銭感覚を頼りに、真剣に品定めをした。  侍女さんたちにはハンカチ、執事さんにはペンケース、ワンちゃんには高級干し肉とブラシ。


「よし。あとは……団長さん」


 私は男性用の装飾品コーナーへ向かった。  ふと、一つのネクタイピンに目が留まった。  銀細工のシンプルなデザインで、中央に小さな黄水晶シトリンが埋め込まれている。  その透き通った黄金色は、団長さんの瞳の色にそっくりだった。


「(……これだ)」


 いつもの冷徹な眼差し。でも私を見る時だけは、蜂蜜みたいに甘く溶ける、綺麗な金色の瞳。  私は迷わずそれを手に取り、レジへ向かった。  店員さんに中身が見えないようラッピングしてもらい、店を出る。


 すると、団長さんが腕組みをして、仁王像のように店の入り口を凝視していた。私が出てきた瞬間、その険しい表情がふっと緩む。


「……遅い」 「ごめんなさい。でも、いいものが買えました!」


 私が袋を掲げると、団長さんは「そうか」と短く言い、また私の手を取った。


「では、帰るぞ」


 帰り道。夕暮れの街を、二人で手を繋いで歩く。  私の片手には大切な人たちへのプレゼント。もう片方の手には、団長さんの温もり。


 ……あれ? なんだろう、この感じ。  男女が二人で街を歩いて、買い物をして、夕日の中を帰る。これって、まるで……。


「(デート……みたい?)」


 ふと浮かんだ言葉に、私は慌てて首を振った。


「(い、いやいや! 何考えてるの私!  団長さんはあくまで保護者として、私の『初めてのおつかい』を見守ってくれただけだよ!  小娘と騎士団長じゃ、釣り合うわけないし!)」


 私が一人で赤面してブンブン首を振っていると、団長さんが不思議そうに金色の目を細めて覗き込んできた。


「どうした、レイ? 顔が赤いぞ。歩き疲れたか?」 「な、なんでもないです! ちょっと夕日が眩しいだけで!」


 私は誤魔化すように先を急いだ。  でも、繋いだ手はずっと離さなかった。


 ◇


 屋敷に戻り、サロンでお茶をいただいた後。  私は買ってきたプレゼントをみんなに配った。みんなすごく喜んでくれた。


 そして、最後に。


「あの、団長さん。これ……」


 私は隠していた小さな包みを差し出した。


「え? 俺に?」 「はい。いつも助けてくださって、ありがとうございます。  これは、私のお金で買いました。……よかったら、使ってください」


 団長さんは驚いた顔で包みを開け、中から出てきた銀と黄色のネクタイピンを見て、息を呑んだ。


「……俺の瞳の色か」 「はい。その、綺麗な金色が、団長さんに似合うと思って……」


 団長さんは、それを愛おしそうに指でなぞると、ゆっくりと私を見た。  その金色の瞳は、宝石よりもずっと熱っぽく、優しく輝いていた。


「ありがとう、レイ。  ……一生、大切にする。毎日身につけよう」


「そ、そこまでしなくても! たまにでいいですよ!」


 重すぎる感謝に私が慌てていると、ワゴンを片付けていたメイド長のマチルダさんが、やれやれといった様子で口を開いた。


「……坊ちゃま。顔が緩みっぱなしですよ」 「……ふん。悪かったな」


 団長さんは悪びれもせず、ネクタイピンを眺めている。


「街でも、レイ様と手を繋いで歩き回っていたそうですね。  先ほど、目撃した街の者が噂していましたよ。『美男美女のカップルがいた』と」


「なっ……!?」  私がギョッとして顔を上げる。


「そ、それは人混みではぐれないように、保護者としての引率であって……!」 「へぇ。保護者ねぇ。  世間一般では、着飾った男女が手を繋いで買い物をして、贈り物をし合う行為を何と言うかご存知ですか?」


「…………」 「『デート』と言います」


 マチルダさんの直球すぎるツッコミに、私は「ひゃあ!」と変な声を上げた。


「デ、デートだなんて! 違いますよマチルダさん!  これは社会科見学みたいなもので……決してやましい気持ちとか、恋人ごっことかじゃなくて!」


 私は顔を真っ赤にして必死に手を振った。  団長さんに迷惑がかかっちゃう!


「ねえ、団長さん! 違いますよね!?」


 私は助けを求めて団長さんを見た。  きっと彼も「バカなことを言うな」と否定してくれるはず――。


 しかし。


「……まあ、そうだな」


 団長さんは、紅茶を優雅に一口飲むと、さらりと言った。


「レイが楽しかったのなら、デートでも構わんよ」


「えっ……?」


 私は思考が停止した。  え? 今、なんて? 構わない?


「俺は楽しかったぞ。レイと二人で歩けて、こんな素敵な贈り物まで貰えてな。  これをデートと呼ぶなら、俺にとっては最高のデートだった」


 団長さんは、ネクタイピンを愛おしそうに握りしめながら、私を見てニッコリと――いや、大人の男の色気たっぷりに微笑んだ。  その金色の瞳に、私が映り込んでいる。


「な、ななな……ッ!?」


 ボンッ! と私の頭から湯気が出た。  顔が熱い。心臓がうるさい。  団長さん、なに平然と言ってるの!?


「あ、あらあら。これはこれは」


 マチルダさんが口元を手で隠し、楽しそうに目を細めた。


「坊ちゃまも、ようやく『攻め』の姿勢に入られましたか。  レイ様、真っ赤で可愛らしいこと」


「ち、違いますぅぅぅ!」


 私は両手で顔を覆い、その場にうずくまった。    否定する私と、余裕の笑みでそれを眺める団長さん。  お互いに「デートみたい」と感じていたことに変わりはないけれど、その意味の重さに気づいているのは、まだ団長さんだけのようだった。

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