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死にたがり聖女は最強騎士団長(狼)に拾われる   作者: うる


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24/42

24.誤解の解消

腕の中のレイが、子供のように泣きじゃくっている。  俺は彼女の背中をさすりながら、ようやく落ち着いてきた心臓の鼓動を感じていた。


「……落ち着いたか?」


 俺が問いかけると、レイは俺の胸に顔を埋めたまま、小さく頷いた。


「……団長さん」 「なんだ」 「私……生きたい、です」


 レイが、消え入りそうな声で言った。


「処刑されるのは怖い。死ぬのは嫌です。  たとえ許されなくても、最後の一秒まで……貴方のそばで、美味しいものを食べて、笑っていたいと思ってしまいました」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の胸に熱いものが込み上げた。  生きたい。  彼女がついに、明確に「生」を望んでくれた。


 俺は彼女の頭を撫で、噛み締めるように答えた。


「ああ。それでいい。  そう思ってくれるのを、俺はずっと待っていたんだ」


 これでいい。  彼女が生きたいと望むなら、俺はその全てをかけて守るだけだ。


「でも……」


 レイは俺の服をギュッと握りしめたまま、震える声で続けた。


「私の処刑、いつなんでしょうか?  『生きたい』って願ってしまったから……その日が来るのが、怖くて仕方ないんです」


 ――ああ。ついに、その質問が来たか。


 俺はバツが悪そうに視線を逸らした。  驚きはしない。彼女がそう思い込んでいることは、最初から知っていたからだ。


「……レイ。怒らずに聞いてくれ」 「は、はい?」


 俺は大きく息を吸い込み、覚悟を決めて告げた。


「処刑などない。 最初から、そんな予定は一ミリも存在しない」


「……え?」


 レイが鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。  俺は頬を掻きながら、気まずさに耐えて言葉を継いだ。


「兄上……陛下からの命令は『聖女の保護』だ。処刑ではない。  大神官様に会いに行ったのも、教会に目をつけられないように『俺が預かる』と仁義を切るためだ」


「えっ、あ……でも、それならどうして今まで……?」


 レイの問いに、俺は更に視線を泳がせた。  ここが一番、言い出しにくいところだ。


「それは……その……お前の勘違いに、乗っかっていた方が都合が良かったからだ」


「都合……?」


「ああ。ここに来た当初、お前は遠慮ばかりして、俺が出した食事にも手を付けようとしなかっただろう?  だが、『最後の晩餐だ』と勘違いしてからは、出されたものを残さず食べるようになった」


「あ……」


「服もそうだ。『死装束』だと思えば、どんな高価なドレスも着てくれた。  だから……俺はあえて否定しなかった。  お前を太らせて、健康にするには、その勘違いを利用した方が手っ取り早いと思ったんだ」


 そう。俺は知っていて黙っていたのだ。  彼女が「明日死ぬかもしれない」と怯えながらタルトを食べている時も、「これが最後」とドレスを着ている時も。  「まあ、食ってくれるならいいか」と、訂正するのを先延ばしにしていた。


 ……まさか、ここまで深刻に悩ませることになるとは思わずに。


「すまん。俺が悪かった」  俺は深く頭を下げた。 「お前が怯えているのを知りながら、俺の『管理義務』を優先させてしまった。  ……騙すような真似をして、すまなかった」


 沈黙が落ちる。  怒られるだろうか。泣かれるだろうか。  俺が身構えていると、レイの手が、そっと俺の頬に触れた。


「……団長さん」 「……なんだ」 「じゃあ、全部……私が元気になるための、嘘だったんですか?」


「嘘というか……まあ、方便だ」


「ふふっ」


 レイが吹き出した。  見上げると、彼女は涙を拭いながら、呆れたように、でも愛おしそうに笑っていた。


「ひどいです。私、本当に死ぬ覚悟をしてたんですよ?」 「……分かっている。本当にすまん」 「でも……そのおかげで、今の私があるんですね」


 レイは自分の腕や、ふっくらとした頬に触れた。


「『最後の晩餐』だと思って必死に食べたから、元気になれた。  団長さんの不器用な優しさに、まんまと乗せられていたわけですね」


「……結果オーライと言ってくれると助かる」 「はい。結果オーライです」


 レイは俺の胸に頭を預け、安堵の息を吐いた。


「よかった……。生きてていいんだ……」 「ああ。ずっと、ここにいていい。俺が許す」


 誤解は解けた。  俺の小狡い「作戦」も、彼女の優しさに免じて許されたようだ。


 俺は彼女を横抱きにし、ベッドへと運んだ。  レイを抱き上げているという事実に、心臓が跳ねる。  軽すぎる。やはり、勘違いを利用してでも、もっと食わせるべきだったか。


「今日はもう寝ろ。泣きすぎて目が腫れているぞ」


 布団をかけてやると、レイが俺の袖を掴んだ。  その瞳が、不安げに揺れている。


「あの、団長さん」 「なんだ」 「寝るまで手をつないでくれますか?」



 レイが嬉しそうに微笑み、目を閉じた。  その無防備な寝顔を見つめながら、俺は深く息を吐いた。


 勘違いに乗じて餌付けをしていた負い目はある。  だが、そのおかげで彼女はこうして生きている。    これからは「処刑」という嘘ではなく、本物の「愛」で彼女を満たしていこう。  繋いだ手の熱さを感じながら、俺はそう心に誓った。

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