表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死にたがり聖女は最強騎士団長(狼)に拾われる   作者: うる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/44

22.大人ですが何か?

その日の夕方。  俺は片手に、包装された深紅の薔薇の花束を抱え、屋敷の廊下を歩いていた。


 部下たちに唆されて買ったものの、いざ渡すとなると妙な緊張が走る。  柄にもないことをしている自覚はある。だが、店員が「この薔薇はビタミンCが豊富で、花びらはジャムにすると滋養強壮に良い」と言っていた。  つまりこれは、観賞用ではなく非常食(保存食)だ。そう自分に言い聞かせれば、足取りも少しは軽くなるというものだ。


「(……だが、渡せるか?)」


 俺はふと、足を止めた。  最近、俺はある「問題」に悩まされていた。


 それは、レイの成長――いや、変化だ。  ここに来た当初は骨と皮ばかりだった彼女に、俺はせっせと高カロリーな食事を与え続けた。  その結果、彼女は順調に健康を取り戻したのだが……。


 つくべきところに、つきすぎているのだ。


 特に、胸元や腰のくびれ。  最近、マチルダが新調したドレスを着ている姿を見ると、どうも目のやり場に困る。  あどけない笑顔は変わらないのに、ふとした瞬間にドキリとするような色香を感じてしまうのだ。


「(……いや、邪念だ。あいつは子供だ。俺が育てたんだ)」


 俺は自分を強く戒め、応接間の扉を開けた。


「ただいま、レイ。  今日は土産がある……」


 言いかけて、俺は言葉を詰まらせた。


 ◇


 窓際で夕日を浴びていた彼女は、マチルダが新調したという淡い青色のドレスを身に纏っていた。


 逆光に透けるボディライン。  以前はストンとしていたドレスの胸元が、今は窮屈そうに盛り上がり、柔らかな曲線をえがいている。  華奢な鎖骨と、そこから続く白い肌のコントラスト。


「(……ッ、またか)」


 俺は反射的に視線を逸らした。  最近、この「視線逸らし」が癖になりつつある。30歳のいい大人が、保護者としてあるまじき失態だ。


「あ、お帰りなさいませ、団長さん!」


 レイが俺に気づき、花が咲くように微笑んだ。  そして、俺の手元にある花束に気づくと、目を輝かせて駆け寄ってきた。


「わぁ! お花ですか?  すごい、真っ赤な薔薇……!」


 レイは無邪気に俺の目の前まで近づいてきた。  近い。  今までなら何とも思わなかった距離が、今は危険水域だ。  ふわりと漂う風呂上がりの甘い香りと、ドレスの襟ぐりから覗く無防備な谷間が、俺の理性をガリガリと削ってくる。


「(……無防備すぎる。自分が男の部屋にいるという自覚がないのか?)」


 俺が内心で冷や汗をかいているとも知らず、レイは花束を受け取ろうと手を伸ばし、そしてバランスを崩してよろけた。


「あっ……」 「危ない!」


 俺はとっさに彼女の体を支えた。  腕の中に、柔らかくて温かい感触が飛び込んでくる。  重さを感じないほど軽いのに、女性特有の柔らかさだけが強調されて伝わってくる。


「す、すみません! カーペットに躓いちゃって……」


 レイが上目遣いで俺を見上げる。  至近距離で見つめ合う瞳。潤んだ唇。  ドクン、と俺の心臓が早鐘を打った。


 ――これは、本当に「子供」に対する反応か?


 脳裏に、先日兄上(国王)に謁見した時の会話が蘇る。


 『ジルベルトよ。聖女の保護を認めたが……一つ忠告しておこう』  『忠告、ですか?』  『ああ。お前はあの子を「子供」だと言い張っているが……書類上の年齢を見たか?  余の目には、あれはもう立派な「爆弾」に見えたぞ。  ……せいぜい、お前のその堅い理性が焼き切れないよう気をつけることだな』


 あの時は、兄上が何を言っているのか分からなかった。  だが、今なら分かる。


 俺は、震える声で問いかけた。


「……レイ」 「は、はい?」 「念のために聞くが……お前、今いくつだ?」


 俺の腕の中で、レイはキョトンとして、事も無げに答えた。


「え? 21歳ですけど」


 ――時が、止まった。


「……は?」


「21歳です。来月で22歳になります。  ……あ、もしかして、もっと子供だと思ってました?  すみません、チビで痩せっぽちだったから……」


 レイが恥ずかしそうに頬を染める。  だが、俺の耳にはその言葉の余韻だけが木霊していた。


 21歳。  21歳!?  未成年ですらない、完全な大人じゃないか!!


「(俺は今年30歳……9歳差……)」


 9歳差。  それは「保護者と子供」ではない。「男と女」として十分に成立する年齢差だ。  兄上の言っていた「爆弾」とは、こういうことだったのか……!!


 子供だと思っていた。  だからこそ、無防備な姿も「成長記録」として処理できていた。  毎晩、狼の姿で同じベッドに乗って添い寝をしていたのも、「ペットと飼い主」だから許されると思っていた。


 だが、21歳。  それは完全に**「大人の女性」であり、30歳の男がやっていいことのラインを遥かに超えている。俺の行動は「夜這い」**に等しい。


「だ、団長さん? 顔が真っ赤ですよ? お熱ですか?」


 心配したレイが、そっと俺の額に手を伸ばしてくる。  その手が触れた瞬間。


 バチンッ!!


 俺の中で、今まで「保護欲」という蓋で抑え込んでいた何かが、完全に弾け飛んだ。  このままここにいたら、俺は彼女を押し倒してしまうかもしれない。


「……離れろッ!」 「えっ?」


 俺は花束を彼女に押し付け、弾かれたように距離を取った。


「す、すまん! 急用を思い出した!  そ、その花は……ジャムにして食え!!」


 意味不明な捨て台詞を残し、俺は逃げるように応接間を飛び出した。


 ◇


 自室に戻った俺は、扉に鍵をかけ、その場にズルズルと座り込んだ。  心臓の音が、うるさいほどに鳴り響いている。


「……21歳、だと……?」


 俺は自分の顔を手で覆った。  熱い。耳まで熱い。


 今まで俺は、部下たちに何と言い張ってきた?  『ただの子供だ』  『保護者としての義務だ』  『恋愛感情などあるわけがない』


 ――あいつら、影で笑ってやがったな!?  兄上も、大神官も、ダリウスも! 全員気づいていて、俺一人がピエロだったのか!!  30歳にもなって、21歳の娘を「子供扱い」して囲い込むなんて、端から見れば危ない男そのものではないか!


「くそっ……! なんで誰も教えてくれなかったんだ!」


 いや、教えようとしてくれていた。俺が聞く耳を持たなかっただけだ。  「花を贈れ」と言った部下も、「結婚式」と言った大神官も、全て正しかったのだ。


 俺は床に転がり、天井を見上げた。


「……これから、どんな顔をしてあいつに会えばいいんだ」


 子供じゃないと知ってしまった以上、もう以前のような「保護者面」はできない。  触れれば意識する。見れば欲情する。    そして何より――。


「(……今夜、どうする?)」


 毎晩の日課である、狼化しての添い寝。  21歳の、妙齢の女性の寝室に忍び込み、同じベッドで寝る。    ……アウトだ。完全にアウトだ。  騎士団長として、いや30歳の男として、一線を超えてはいけないラインがある。


 その夜。  ジルベルトは、レイの部屋へ行くことができなかった。  隣の部屋から微かに聞こえる、「ワンちゃん、今日は来ないのかな……」という寂しげな声を、壁に耳を当てて聞きながら。  俺は枕を抱きしめ、「行きたい」「行けない」というたうち回る、地獄のような一夜を過ごす羽目になったのである

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ