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死にたがり聖女は最強騎士団長(狼)に拾われる   作者: うる


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21/42

21.お花はいかが?

ここ最近、騎士団の演習場は異様な空気に包まれていた。


 ドォォォォン!!


 轟音と共に、訓練用の強化ゴーレムが粉々に砕け散る。  砂煙が舞う中、騎士団長ジルベルトは額の汗を拭いもせず、どこかスッキリとした――もっと言えば、キラキラと輝くような笑顔で振り返った。


「次だ。かかってこい」


 その場にいた騎士団員全員が、恐怖で震え上がった。  この「絶好調」状態が、もう何日も続いている。


 ◇


 休憩時間。  連日のしごきでボロ雑巾のようになった騎士たちが、木陰でヒソヒソと緊急会議を開いていた。


「……おい、今日もかよ。団長のあのテンション」 「ああ。ここ最近ずっとだ。肌艶も良すぎるし、何より魔力が桁違いに安定してやがる。  昨夜も屋敷に暗殺者が出たって噂だぞ? 普通なら不機嫌マックスだろ。なんで鼻歌まじりに俺たちをボコれるんだよ」


 騎士たちが青ざめる中、一人の騎士が「ああ、そういえば」と軽く手を打った。


「まあ、理由は明白だろ。  まえに、魔の森の調査中に俺たちが拾った、あの『お嬢さん』のおかげだよ」


 その言葉に、周囲の騎士たちも「あー」と納得したように頷いた。


「ああ、あの時の。 ……あの子か」


その子が、最近騎士団へ顔を出した時の衝撃は凄まじかった。


「あの美少女っぷりだもんなぁ」 「昨日も差し入れを持ってきてくれたけど、誰かと思ったよ。磨けばあんなに光る玉だったとは」 「あんなに元気に笑ってるのを見ると……保護した甲斐があったってもんだ」


 騎士たちは、自分たちが保護した少女の劇的ビフォーアフターに、驚きつつも親しみを抱いていた。  だが、問題は――。


「あんな可愛い子を屋敷に囲い込んでおいて、団長の言い草ときたら……」 「ああ。『ただの保護者だ』『育ち盛りの子供だ』の一点張りだからな」


 騎士たちは深い、深いため息をついた。  誰がどう見ても、団長は彼女に惚れている。溺愛している。  しかし、本人だけがそれを認めようとしないのだ。


 そこへ、当のジルベルトがドカドカと歩いてきた。  手には剣ではなく、分厚い『王都スイーツ特集』の雑誌を持っている。


「おいダリウス。貴様、甘いものに詳しいな」 「はあ。まあ人並みには」 「この『季節限定・桃のパルフェ』というのは、持ち帰り可能か?」


 最強の騎士団長が、真顔で「桃のパルフェ」について尋ねている。


「団長……それは、レイ様のためですか?」


 騎士の一人が尋ねると、ジルベルトは眉をひそめ、心外だと言わんばかりに答えた。


「当たり前だ。俺がこんな甘ったるいものを食うわけがない。  あいつは……最近肉付きが良くなってきたとはいえ、まだまだ効率よくカロリーを摂取させる必要がある」


「カ、カロリー……?」


「そうだ。桃は栄養価が高い。  あいつをもっと太らせて、健康的な肉付きにさせねばならん。これは保護者としての『管理義務』だ」


 ジルベルトは胸を張って断言した。  騎士たちの心が一つになった。


 (……だから、それを『溺愛』と呼ぶんだよ!!)


 美少女に美味しいものを食べさせたい。喜ぶ顔が見たい。  それは立派な恋心だ。だが、この戦闘マシーンにはそれが「管理」や「義務」という言葉で変換されてしまうらしい。


 ダリウスがこめかみを押さえながら突っ込む。


「団長。言い方が悪すぎます。  レイ様はもう十分健康的ですし、何より年頃の女性です。  『太らせる』なんて言葉、絶対に本人の前で言わないでくださいよ? 嫌われますよ?」


「嫌われる? なぜだ。  俺はあいつの健康を第一に考えているというのに」


 ジルベルトは心底不思議そうに首を傾げた。


「それに、あいつは俺を信頼している。  昨日も『団長さんがくれるものなら、毒でも食べます』と言っていたぞ」


「「(それ信頼じゃなくて、何か致命的な誤解をしてる発言では!?)」」


 騎士たちは戦慄したが、団長本人が幸せそうなので何も言えなかった。


「……団長」


 一人のベテラン騎士が、意を決して進言した。


「パルフェもいいですが……たまには、『花』などを贈られてはいかがです?  レイ様ほどの美しい女性には、花がよく似合います。  あの子が、花を持って笑ってくれたら……現場の士気も上がりますし」


「花? 食えんぞ」 「食うとか食わないとかじゃなくて!! 彩りです!! 心の栄養です!!」 「ふむ……心の栄養、か」


 ジルベルトは顎に手を当てて考え込んだ。


「確かに、あいつの部屋は殺風景かもしれん。  よし、分かった。花だな。  ……栄養価が高くて、薬草としても使えて、いざという時に非常食になる花を探してくる」


「「だから違う――ッ!!!!」」


 騎士団員たちの魂の叫びが、演習場にこだました。


 ◇


 そんな日々が続く中、とある日の夕方。  ジルベルトは「部下たちが五月蝿いから」という理由で、花屋に立ち寄っていた。


 店員に「一番栄養価の高い花をくれ」と注文し、困惑されながらも、結局は店員のおすすめである深紅の薔薇の花束(トゲは全て丁寧に抜かせた)を購入した。


「(……まったく。食えもしないものを)」


 そう文句を言いながらも、彼の足取りは軽い。  これを渡した時、レイがどんな顔をするか。  驚くか、笑うか、それとも「最後の儀式用ですか?」とまた斜め上の勘違いをするか。  それを想像するだけで、口元が緩んでしまうのを止められなかった。


 ――その緩みきった団長の背中を、街角の影から見守る騎士たちがいた。


「……見ろよ、あの幸せそうな顔」 「完全に恋する乙女じゃねーか」


 上司の不器用すぎる恋路を、生温かい目で見守っていた。


「ま、本人が『保護者』だと言い張るうちは、我々が全力でサポート(ツッコミ)してやるしかないな」 「そうだな。レイ様のためにも、団長には早く自覚してもらわないと」


 ダリウスが苦笑しながら呟いた。


 こうして、最強騎士団長の「無自覚な恋」は、部下たちを連日やきもきさせつつも、騎士団全体の結束(団長の恋路応援)を強める結果となっていたのである。

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