表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死にたがり聖女は最強騎士団長(狼)に拾われる   作者: うる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/42

15.レイの本音

……なんだ、これは。


 俺はレイに抱きつかれたまま、目を見開いていた。


 今夜、俺がこの「銀狼」の姿になっていたのは、 自主的な巡回のためだ。レイとはじめてこの狼の姿で会った夜は、久しぶりに魔力が高ぶり、意図せず狼の姿になってしまったが…


 王家では、先祖返りで稀に狼への変身能力を持つ者が生まれる。  この姿になれば、聴覚や嗅覚は人間の比ではない。  レイを狙う不届き者がいないか、屋敷の結界にほころびはないか。それを確認するには、この姿になるのが一番確実だった。


 ――だが、代償はある。


 人一人の器には収まりきらない膨大な魔力を、この姿で維持し続けるのは、常に全身を万力で締め上げられるような重い負荷がかかるのだ。  魔力が血管の中で軋み、頭の芯がジリジリと焼けるような「魔力酔い」。  普段の巡回なら、この不快感に耐えながら短時間で済ませるのだが……。


 今はどうだ。


 レイの小さな掌が俺の背中を撫でるたびに、常に感じていたあの忌々しい頭痛や倦怠感が、嘘のように引いていく。  まるで、泥水が濾過されていくように。  軋んでいた歯車に、極上の潤滑油が差されたように。


 魔力の流れがスムーズになり、体が羽根のように軽い。


(……ああ、やはりそうか)


 俺は、ある一つの「答え」に辿り着き、戦慄した。


 思い返せば、森で初めてこいつと会った夜――俺がこの狼の姿で遭遇したあの時も、そうだった。  いつもなら苦痛を伴う変身状態が、あの夜だけは妙に楽だった。  その時は、森の瘴気が薄れたせいか、あるいは偶然だと思っていた。


 だが、違う。  今、こうして再び彼女に触れ、俺は確信した。


(こいつだ。こいつの「浄化」の力が、俺の過剰な魔力を安定させているんだ)


 どんな高位の魔導師に調整させても、どんな魔道具を使っても取り除けなかった、変身時の慢性的な苦痛。  それが、この少女がただ「撫でている」だけで、完全に消滅している。


 俺は、思わず喉を鳴らして目を細めた。  心地いい。  こんなに何の負荷もなく、クリアな感覚でいられるのは、生まれて初めてかもしれない。


「ねえ、ワンちゃん」


 レイが俺の耳元で囁く。その吐息すらも、今の俺には心地よい安定剤だ。


「貴方は、ずっとここにいてくれる?」 『……』 「明日も、明後日も……私が死ぬまで。  団長さんは優しいけど、やっぱり人間だから、いつか私を嫌いになるかもしれない。  でも、貴方なら……ずっと友達でいてくれる気がするの」


 馬鹿な奴だ。  俺とお前を処刑しようとしている(と勘違いしている)団長は、同一人物だというのに。  むしろ俺の方こそ、お前がいなければ、この慢性的な苦痛から解放されないというのに。


(……手放せるわけがない)


 俺は悟った。  俺が一方的に彼女を守るのではない。  俺たちは互いに、互いを必要としているのだ。  彼女は孤独を癒やす温もりを。俺は魔力を鎮める安らぎを。


 ならば、今は甘んじて「ペット」でいてやろう。  彼女の側こそが、今の俺にとって世界で一番、魔力の効率が良い「休息地」なのだから。


『ウォフ(仕方ないな)』


 俺は短く鳴いて、彼女の頬をざらりとした舌でひと舐めした。  涙の味がした。


「……あ、舐めた。くすぐったいよ」


 レイが涙声で、けれど嬉しそうに笑った。  その笑顔を守れるなら、狼の血筋も悪くないかもしれない。


「……ふわぁ」


 しばらく撫でていたレイが、大きなあくびをした。  緊張の糸が切れたのか、瞼が重そうに落ちてきている。  夜風が冷えてきた。これ以上外にいると風邪を引く。


 俺は立ち上がり、鼻先で彼女の背中をグイグイと押した。  「部屋に戻れ」という合図だ。


「え? もうおしまい? ……そっか、貴方も眠いよね」


 レイは素直に立ち上がると、ふらつく足取りでテラスの窓へ向かった。  そして振り返り、月明かりの下で微笑んだ。


「おやすみなさい、ワンちゃん。また明日ね」


 窓が閉まり、カーテンが引かれる。  部屋の明かりが消えるのを見届けてから、俺は大きく息を吐いた。


『…………』


 俺はテラスを飛び降り、自室のベランダへと着地した。  いつもなら変身を解く際、反動で酷いダルさに襲われるのだが、今は驚くほどスムーズに人間の姿へと戻ることができた。  体も軽い。まるで質の良い睡眠をとった後のようだ。


「……これでは、本当に手放せんぞ」


 俺は自室の窓ガラスに映る、妙にスッキリとした自分の顔を見つめながら、  「明日はもっと美味い肉を用意してやろう」と、もはや餌付けが趣味になりつつある思考で寝床についた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ