7都会の喧騒
電気ケトルで水を沸かしながら、入社祝いに貰ったティーバッグを開封した。
お湯をマグカップに注ぐと、ベルガモットの柑橘系の香りがふわりと鼻腔を抉った。
その事から、自分の嗅覚がおかしくなったのでは無いことを実感することが出来た。
一体全体、自分の身に何が起きているのか、状況を理解する事が難儀であった。
ソファーに腰を下ろそうと、中腰になったところで、座ることを辞めた。
何故なら、俺はとてつもなく臭うらしい。
「お前、臭うぞ」上司に言われたその一言が全身にフグを刺したかのように毒々しく脳内を汚染していた。
もし、彼が言っていた事が本当ならば今朝の電車内で数々の人に注目を浴びせられていたことも、会社内の女性の軽蔑のような眼差しもどこか納得ができるし、収拾がついてしまう。
爪の垢は何だったのだろうか。毎日湯船にも浸かっているし、手洗いはよりも普通の人よりも、こまめにしている。
まるで、不動産会社から見せられた、あのビデオの男のような...。いや、科学的にそんな事は有り得ないし、あの男は自殺して死んだんだ。この世にもう居ない。
手元に視線をやるも、今や垢ひとつ見当たらない。
「なあ、正直に言って欲しい。俺の事、臭いとか不潔とか思ったことある?」
「久しぶりに電話かかってきたと思ったら、どんな内容やねん。ところで都会どんな感じなん?もう慣れた?俺も早くこんな田舎出てぇよ。コンビニ徒歩15分とかバグだろ」
相変わらず快活そうで、いたって凡庸な地元の唯一の友人勝場は、話題を見事に逸らした。俺が悩んでいることも知らずに能天気に愚痴をこぼし始め、つい、口調が荒くなる。
「こっちは真剣なんだよ。真面目に答えてくれ」
電話越しに勝場が喉を鳴らした音が微かに聞こえた。毛布の中にいるのか、声が少し籠っている。
「におい?逆にお前、俺が風呂キャンした時、近づこうとしなかったやろ?不潔どころか異常者レベルに潔癖症やん、お前」
「ほんまに?」
「…ほんまやって。そっちでなんかあったん?」
「……いや、特に何もない」
勝場が何か言葉を発する前に、通話を切った。会社で臭いが原因で軽く説教をされたなんて言えば、地元で笑いものにされるに違いない。
真っ黒だった画面が、ピロンッという通知音と共に、白く発光した。画面を除くと勝場からのメッセージだった。
『なんやねん』
いきなり夜中に電話してくだらない話に付き合ってもらったのに、既読無視は出来ず、猫がスイカを食べて目を見開いているスタンプを送信すると、少し経った頃に既読がついた。
『相談あるならいつでも乗るから』
地元で、唯一の友達だった。過度な潔癖症で周りから白い目で見られる中、勝場だけがいつも傍にいてくれた。
「神城はただ不潔が苦手なだけやろ?温泉が無理やったら別の場所行かへん?」
勝場が言ってくれたそのたった一言で俺の中の何かが、救われていた。
初、ネトコン14事故物件参加させて頂きましたm(_ _)m
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