12手
「私の…性別ってどちらに見えていましたか?」
突然の問いかけに、心肺が停止しそうになりかけた。
頭に過ぎるのは、あのビデオの男だった。
自らを実験台にするために、この世に怨念を残し、自殺した男が言っていたセリフと見事に一致していた。
しばらく静寂が続き、彼女はもう一度穴に向かって尋ねた。
「 どちらに見えていましたか?」
一瞬言い淀んだ。しかし、答えなくとも彼女はずっと同じ質問を繰り返すだけだろうと察知した俺は、素直に答えを口にした。
「女に見えてますが…」
彼女は少しの間、無言だった。だが、張り詰めた次の瞬間には、これまでに無いほどの声音で甲高く笑い始めていた。
「あははははははははははそうですか、そうですか。そうですよね、そういう結果になっちゃいますよね、そりゃあ」
彼女は意味深げに発言した後に、今度は穴から手を向き出した。
その手はファミレスで見た時と変わらず、でも少し日が経過しているからか、ネイルと自爪の間に若干余白が余っていた。
その綺麗な手元からは、男性らしさは感じられなかった。
穴から俺の部屋に向かって黒いビデオテープのようなものが部屋の中に落とされた。それと同時に手元はすぐに戻され、黒いビデオテープが呆然と部屋に置かれているだけだった。
「そちらのビデオを次の住民さんに見せてください。不動産会社に渡すのは絶対にダメです。見せる人を間違えるなど、隠蔽などする可能性がありますので」
愕然としていた。更に驚くのは、自分自身だった。
穴の真下に置かれていた、ビデオテープを手にし、ビデオデッキのスイッチを入れ、再生したと同時に彼女の声は一切、聞こえなくなった。




