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経済の話

米価格高騰と財務省解体デモ ~中間マージンが多過ぎる

 2024年の夏。米不足により、“令和米騒動”と呼ばれる米価格の高騰が起こりました。当初、「これは一時的なもので、秋になり米の収穫が始まれば収まる」と予想されていたのですが、その後も米価格は下がらず、2025年3月現在も高値が続いています。

 この原因は「中間流通業者による、買取競争の激化」であると言われていますが、その話を聞いた時、僕は直ぐに「問屋不要論」を思い出しました(“問屋”とは、中間流通業者の一種です)。

 米価格高騰を扱った経済系などの動画チャンネルを複数観てみたのですが、問屋不要論に触れているものは見当たりませんでした。しかし、検索すれば直ぐにヒットするくらいには有名な話です(現在の経済専門家は金融系出身が多いので、恐らくは知らないのではないかと思われます)。なので軽く説明しておきましょう。

 中間流通業者にはメリットもありますが、当然ながらその所為でコストが増え、商品価格が上がってしまいますし、その他にも様々なデメリットが存在します。例えば、消費者と生産者の間に“伝言ゲーム”を多くしてしまう事で、“本当の需要”を生産者側に伝え難くしてしまうといったものがあります。その所為で、多く生産し過ぎてしまったり、逆に少なく生産してしまうといった問題が起こり易くなります。

 今回の「中間流通業者による、買取競争の激化」は、伝言ゲームとは異なりますが、それでも中間流通業者が原因となって起こってしまった問題ではあるでしょう。ならば、中間流通業者のスリム化で改善可能であるはずです。問題は“中間流通を減らせるかどうか”という点ですが、「日本は諸外国に比べて中間流通業者が多い」という指摘があるので、“減らせる”と考えるのが自然でしょう。

 

 2025年3月現在、大手マスコミではあまり報道されませんが、財務省解体デモが頻繁に行われており、しかもその動きが全国に拡大しつつあります。

 「失われた30年」などという言葉に象徴されるように、日本経済は衰退し続けているのですが、その主な“原因及びに責任”は、強い権力を持った財務省にあるとし、財務省の権力の分散を求める声が、国民の間で徐々に高まっているのです。

 (或いは、前述した米価格高騰への不満もその背景にはあるのかもしれません)

 一部のインフルエンサー達はこれを「無意味である」などと批判しています。

 論破王として有名なNさんは、「過激な手段を執らなければ失敗に終わるので、デモ団体側が疲れ、却って状況が悪化する」と主張(これ下手すれば、煽動罪になりかねないと思うのですが……)し、Hさんは「お前らが貧乏なのは財務省の所為じゃない。お前ら自身が努力しろ」などと主張していますが、いずれもおかしな点があります。

 まずNさんは、暴力に頼らなかった“人権擁護法案反対運動”の成功例を無視していますし、更に言うのなら代替案を出してはいません。因みに「このままでは日本は衰退し続ける」と彼は過去に主張してもいます(それともまさか、彼は日本はこのまま衰退するべきだとでも思っているのでしょうか?)。

 そしてHさんに関しては、そもそも何が問題なのかを理解していません。経済には民間部門と公共部門がありますが、今の日本経済の主な病巣は公共部門にあり、民間の努力…… 特に“個人の努力”ではどうにもできない領域にあるのです。しかも、選挙によって政治を変えるのが民主主義ですが、選挙の対象外である官僚が力を持ち過ぎているのでそれもできない状況です(安倍政権の経済政策、アベノミクスの“規制改革・緩和”を潰したのも官僚であると言われています)。その為、デモなどの何らかの運動で改善を後押しするしか方法がないのです。

 因みに、Nさんは数億円以上という損害賠償を踏み倒した経歴があり、「逮捕されないのが不思議」と言われる程であるにも拘わらず何故か逮捕をまぬがれており、しかも金融庁から仕事を貰っていた事があるので、恐らくは官僚と何らかの繋がりがあるのではないかと思われ、Hさんに関してはロケット事業で国から補助を受けている身なので、逆らえません。

 ……もちろん、疑惑に過ぎませんがね。

 

 このように、NさんやHさんの主張に賛同はとてもできないのですが、それでも彼らの「財務省解体は無意味」という主張にも一理はあるのです。

 ただ単に財務省を解体させたり減税するだけでは、現在の日本が置かれた窮地は脱出できないでしょう。

 日本は現在、莫大な借金を抱えています。そして、(国際情勢の影響もありますが)その影響は円安という形になって現れてしまっており、国はそれを増税によって回避しようとしているように見えます。ですから、仮に増税の回避、また、減税に成功したとしても、莫大な“国の借金”という大問題は残り続けてしまうのです。

 要するに、国の借金を減らすなんらかの対策を実施しなければ、窮地を脱する事は不可能なのです。

 もちろん、増税以外にも、国の借金を減らす手段は存在します。

 その一つは“節約”です。

 大手マスコミは、“特別会計”の存在にあまり触れようとしませんが(小泉政権時にはニュース番組などで大きく取り上げられていましたから、これは異常な事態です。マスコミの情報規制がこの国に深刻なダメージを与えている点がよく分かると思います)、日本の特別会計は、一般会計の数倍の規模があると言われており、税金の節約の余地はかなりあると思われるのです。

 例えば、年金ですが、年収1千万円以上の高額所得高齢者にも支払われています。年金の世代間格差は深刻で、数千万円規模の差があると言われているので、この格差を埋める意味でも、年金支給額を大幅に削減する正当性はあります。そしてこれを実施すれば、かなりの節約になるのは明らかです。また、高齢者は一般的に消費意欲が低く、限界消費性向と言って、高額所得者ほど所得に占める消費の割合が低くなる事も知られているので、経済に与える悪影響も低く済みます。

 その為、どう考えても、高額所得高齢者への年金支給額の削減は“国の借金対策”として増税よりも有効なのですが、何故か実施しようという議論さえ上がりません。

 (因みに、民主党政権時代に菅総理は東日本大震災の復興予算をひねり出す案の一つとして、「年収1千万円以上の高齢者への年金支給を削減する」案を出しましたが、何故かテレビのニュース番組ではカットされていました。自民党安倍政権下では、実際に削減されましたが、それも大きくは報道されていません。国民に年収1千万円以上の高齢者へ年金が支払われている事実を隠そうとしているように思えてしまいます)

 ――そして、“税金の節約”以上に、望まれる日本が置かれた窮地の脱出方法が“経済成長”です。

 経済成長すれば、生活者の収入は上がりますし、税収も増えるので、国の借金問題も改善します。

 これを読んで、或いは「それができれば、国だってやっている」と思うかもしれませんが、官僚達(もちろん、全員ではありませんが)は権益の維持や拡大には懸命に取り組みますが、日本の経済成長にはそれほど意欲的に取り組んではいません。いえ、それどころか、既得権益の保護の為に、経済成長を犠牲にしているという疑いすらあります(一部例外はあるのですが)。

 

 ……ここで、冒頭の米価格高騰問題と“問屋不要論”を思い出してください。もし仮に不要な中間流通業者を減らす事ができたなら、消費者は商品が安く買え、生産者は収入が増えます。単純に中間流通業者が減った分のコストが、消費者や生産者の利益になるという理屈ですね。

 お米を例に具体的にどのようにすればそれが実現できるのかを考えてみましょう。

 極端な話を言うのなら、農家から消費者に直接販売するのが最も“中間流通業者を減らした”形なのですが、もちろん、これは難しいです。お米を消費者に売る為には、受注、精米、保管、運送などの作業が必要ですが、これらを全て農家が担うのはほぼ不可能だからです。

 ですから、その為に、これらを委託可能なサービスを作ります。統合販売サイトですね。米農家がこのサービスと契約する事で、その会社が受注、精米、保管、運送などを代わりに行ってくれるのです。こうしておけば、スケールメリットを活かし易くなるので、コストも減らす事ができます。

 ただし、お米の所有者は飽くまで米農家で、統合販売サイトを利用して販売を行っているという形にします。

 そして、消費者はこの販売サイトでお米を買う事で農家から直接お米を買う事ができるようになります。一般消費者とレストランなどの事業者で窓口を分けるというのが良いでしょう。

 これを読んで、“販売サイト”を利用するのなら、中間流通業者を減らせても同じではないかと考えた人もいるかもしれませんが、実はお米の中間流通業者…… 卸売業者は複数の業者が介在するなど、非常に複雑になっているのだそうです。ですから、このようにシンプルにすればコストを減らせるのです(因みに、産地の偽装なども卸売業者が行っているとのこと)。

 これは実質的な“生産性の向上”を意味します。

 そして、このような流通改革を行えば、卸売業者の買取競争でお米の値段が跳ね上がるような現象も起こり難くになります。

 ただし、お米の中間流通業関連の廃業やそれに伴う失業者が発生してしまうという困った点もあります。

 (生産性の向上が起これば、失業者が生まれるのは経済史上の必然なのです)

 が、“失業者の発生”にはネガティブな面があるばかりではなく、言い換えるのなら、それは“新たな労働力が誕生”しているという事でもあるのです。人手不足の業界、或いは新産業の為にその労働力を用いれば経済成長が可能です。対応としては、事前に廃業しそうな企業に声をかけ、従業員のスキルを調べた上で業態転換や業種転換が可能ならばその方向で進め、スキルが不足しているのであれば教育や学習の為の場を設けて、新たな産業で働けるように促します。

 

 ――さて。

 

 当然ですが、このような改革は、個人はもちろん民間企業でも行うのは難しいでしょう。業界の慣習となってしまっている事に逆らうのは極めて難しいですし、“統合販売サイト”の立ち上げも簡単ではありません。ですから、官僚や政治家の役割になるのですが、彼らにはやる気がないのです。いえ、“やる気がない”で済めばまだマシです。中間流通業者が既得権益化していて、官僚や政治家達と繋がっているのなら、積極的にこの改革を妨害さえするでしょう。

 実はこのような状況を打破する為に一部の官僚や政治家達が行おうとしていたのが、“規制改革・緩和”であったのですが(代表例はアベノミクスですが、それ以前の政権から“規制改革・緩和”を行おうとしていました)、潰されてしまったのです。

 アベノミクスが単なる金融緩和政策になってしまい、失敗しまったのもこの所為です。“規制改革・緩和”が成功さえしていたら、少なくとも今よりはずっと状況は良くなっていたはずです。

 経済成長とは、“生産性の向上”と“新産業の育成”がセットで起こります。前述しましたが、“生産性の向上”で余った労働力を、新産業の育成の為に用いるのです。

 国の規制、或いは民間の慣習で発生している実質的な規制は、これらを妨害してしまうのですね。

 日本は他の先進諸国に比べて、生産性が低いと言われています。がしかし、実は国際的に競争している分野では、決してそんな事はないのだそうです。生産性が低いのは、国内で規制に守られている分野らしいのですね。その大きな原因が、“規制改革・緩和”があまり進んでいない点にあるのは明らかですが、では、具体的にはどのような分野で生産性が低いのでしょうか?

 タクシー業界の既得権益を護る為に、日本ではライドシェアリングの普及があまり進んでいません。また、文部科学省の権益を護る為にオンライン授業も進んではいませんし、オンライン診療や薬のインターネット販売も規制されています。これらは日本の生産性を下げる要因にはなっていますが、それでも影響は限定的でしょう。韓国よりも低い順位となっている現状は説明できないように思うのです。

 もしかしたら、ですが、“中間流通業者の多さ”が日本の生産性を下げる大きな要因になってしまっているのではないでしょうか?

 いえ、これは中間流通業者に限らないのかもしれません。いわゆる“中抜き”という本来ならばカットできる無駄な中間マージンコスト全般が、世間で言われている以上に日本経済の足を引っ張っているのかもしれない…… とも思うのです。

 

 僕はシステムエンジニアとして働いていますが、この業界で初めて入社した会社は営業力が低く、結果、開発プロジェクトに参加する場合は他のコネを持った会社を頼らざるを得ませんでした。その所為で、実際に開発プロジェクトに参加するまでに何社も介するような状態になってしまっていたのです。いわゆる“多重派遣”というやつですね。面談を行ったのは3社くらいでも、面談もせずに在籍している場合もあり、実際には5社くらいを介していたなんてケースもあったようです(正確な情報は教えてもらえなかったので推測になってしまいますが)。

 現場でサブリーダーの立場にまで出世して、部下になった中国人と給料の話になったのですが、僕よりも10万円ほど高かったのでショックを受けた事があります(まぁ、健康保険の差などもあったかもしれませんが)。これはその中国人の所属している会社は直契約だったので中抜きがなかったからではないかと思われます。僕の会社の場合、本社に支払われるまでに4~5割ほども中抜きされていたようです。これでは給料が上がるはずがありません。

 ――これがどれだけ馬鹿馬鹿しい話かは簡単に理解できるでしょう?

 本来ならば雇い主の会社はもっと僕を安い契約金で雇う事ができ、僕の会社はもっと高い契約金を貰えているはずなのです。しかも、雇い主は自分が雇っている人間が本当は何処の何者なのか分からないので、リスクも高くなります。もしかしたら、産業スパイかもしれませんし、それ以外の犯罪者である可能性だってあります。僕にはインド人と働いた経験もあるのですが、その人は「入国管理局に行ってきます」と言って休んだきり、二度と出社して来ませんでした(……何があったのでしょうね?)。

 しかも、多重派遣に伴う無駄な事務作業の所為で、その分、生産性は下がってしまっているのです。その事務作業の労力をもっと他の有意義な仕事に向ければ、その分、経済も世の中も良くなります。

 しかも、これはIT業界などの特殊なケースだけではないようです。調べてみると、この多重派遣や中抜きは、どうも日本経済のかなりの範囲にまで蔓延っているようなのです。それは民間企業だけではなく、国関連の組織にもあります。こども家庭庁が中抜きをしている事は有名ですが、他にも様々なサービスで中抜きが行われているようです。嘘か本当かは知りませんが、学校の給食にですら中抜き業者がいるのだとか。

 日本はアメリカと比べて、人口当たりの会社数が19%も多いらしいのですが、この原因の少なくとも一つには、中間マージンを取ることだけを目的とする中間業者の存在があるのだそうです。

 

 ――つまり、中間業者をできる限り削減し、そこで生まれた労働力を人手不足の分野に当てたり、新産業の育成に用いれば、それだけで日本経済は成長する事になります。

 

 少子化による労働力不足で、移民の必要性を訴える声もありますが、“移民の受け入れ”は非常に難しい作業であり、成功させる事は困難でしょう。日本人にとっても移民して来る人達にとっても仕合わせな結末にはならないかもしれません。

 因みに、日本円は現在安くなっているので日本の魅力は低くなっている為、優秀な人材が来てくれないという懸念もあります。また、そもそも優秀な人材に来られると、「職を奪われる」と不安を抱き、日本側が積極的に招き入れようとしていないという話もあります(参考文献:『岩盤規制 誰が成長を阻むのか 原英史 新潮社 186ページ辺りから』)。

 恐らく国は、日本経済を犠牲にしてでも増税により現在の“国の借金問題”を乗り切り、既得権益を護ろうとしているのでしょう。

 ですが、今まで述べて来たような極めてシンプルな方法(と言っても、発想がシンプルなだけで、様々な困難が待ち受けているでしょうが)で、経済成長による解決・改善は可能なのです。

 僕は今まで、官僚を主犯とした既得権益団体の牙城を崩すのは不可能だと考えて来ました。日本人は政治経済に関心が薄いので、対抗する手段はないと思っていたからです。だから、経済成長するには「既得権益を失っても、新たな権益が得られる」と官僚達を説得する手段しかないと思っていました。

 ですが、最近の財務省解体デモで希望が出て来ました。もっと声を大きくすれば、官僚達を動かせるかもしれません。

 もちろん、その為には“正しい要求”をしなくてはなりませんが。減税だけでは、現在の日本の窮地は乗り越えられません。そして、その正しい要求は決して難しいものではありません。繰り返しますが、「中間マージンを取っている業者をできる限り減らし、その労働力をもっと有意義な事の為に使う」というだけです。

 少しでも声を上げていきましょう。

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