表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

真実の愛のため下した愚かな王と愚かな王妃の選択

作者: つむぎ

覗いて下さりありがとうございます。

ランキングへ入っており、非常にびっくりしております。これも、皆様が読んで評価して下さるおかげです。ありがとうございます^ ^



 「我が息子よ、私の昔話に少し付き合ってはくれぬか」


 この国の国王である、ルシウス・フォン・アラスターは、息子である第一王子のエリック・フォン・アラスターと向き合い言う。その表情は真剣そのもの、そして、どこか哀愁漂う雰囲気があった。

 エリックは黙って国王である父のグラスへ酒をつぎ、話を聞く姿勢に入った。そして、国王は話し出す、過去の愚かな自分を、苦い苦い後悔だらけの話を――。

 

 「あれは、私が17歳の時。私には5年ほどになる婚約者がいてな、この婚約は政略であったが、私はその婚約者を大事に思っていた。その婚約者も私のことを少なからず思っていたはず。しかしだな、ある時、それはそれは可憐で可愛らしい令嬢に出会い、私は一目で恋に落ち、その令嬢の貴族らしからぬ自由な行動に夢中になった……そうだな、例えば、何気なく腕や肩に触れたり、私の些細なことも褒めてくれたり、私が自分を卑下するとそのままで良いと、全力を尽くす姿が素敵だと、微笑みながら囁いてくれた。私は夢中だったよ。恋とは愛とはこのことだと。

 すると、あらぬ噂が耳に入った。婚約者が私の想い人を虐げていると。私への嫉妬ゆえにな。なんて、卑劣なことよ、と私は怒った。だから、婚約者の彼女を皆がいるパーティで断罪した。婚約者をエスコートもせず、その代わりに私の腕の中に、その可憐な令嬢を抱えてな。

 その時の感情といったら、私は正義のヒーロー気取りであったな。卑劣な婚約者をしかと罰して、このか弱い令嬢を守らねば、真実の愛ゆえの行動だと、なんとも悦に入った世間知らずの愚か者のことよ」


 はぁぁ、とルシウスは重い溜息をつく。息子のエリックはその眉間に皺を寄せ、とても険しい顔をしていた。無言で酒をつぐ。


 「これで私は愛する令嬢と一緒になれる、真実の愛はここにある……とそう宣言する私に待っていたのは、父上の鉄拳だった」


 あんな父は見たことがなかった、とその時を思い出したのか、酒を飲みすぎて身体が冷えたのか、ルシウスはぶるっと震える。


 「怒りに狂う父は言ったのだ。廃嫡だ、と。一国の王ともなろう者が、噂に翻弄され感情のまま動くとは何事か、王に相応しくないと。私の頭は真っ白になり、真実の愛を求めて何が悪いと反抗したのだよ」


 真実の愛ね、とエリックは呟く。ルシウスは息子の呟きに大きく頷き酒を煽る。


 「そして、廃嫡は納得できない、真実の愛は諦められない、そんな愚かな私に婚約者はこう告げたのだ。では、真実の愛も貫き、国王にもなれば良いのだと」


 ルシウスは、理解できない…というように頭を振る。グラスに酒がない、エリックはまたも酒をつぐ。


 「婚約者は、私に真実の愛のために令嬢を側妃とし、どんな状況でも彼女を愛する覚悟を見せよ、と。そして、令嬢には正妃でなく側妃でも、真実の愛ならばどんなことでも耐えられるだろう、と投げかけた」


 「令嬢は、側妃では納得できない、私だけ見てほしいから正妃にしろと泣いた。そして、婚約者はそんな令嬢に、ならば、真実の愛のため王子が廃嫡後に平民のように夫婦として暮らすか、側妃となり王子を支えるか、国のため王子を諦めるか……真実の愛があればどれを選んでも耐えられるでしょう、本当に愛しているのであれば、どんな状況、条件でも愛してみせよ。そう告げたのだ」


 ルシウスの目が朧げだ。グラスを揺らしそれをじっと見る。

 

 「結局、令嬢は側妃も平民も嫌だと言い、私も廃嫡となり平民の生活をする覚悟はなかった。正妃になれぬのならと、令嬢はあっさり身を引き、私に残ったのは愛に溺れた愚かな王子という名だけだった」


 ルシウスがグラスに口を付けようとしたが、その手が止まる。


 「いや……残ったのは婚約者のミリアンもか」


 其方の母であるな、と酒を一口飲む。エリックが再び酒をついでどうぞ、と勧める。ルシウスの目が半目だ……あともう少し。


 「其方の母は、ほんとに強くて優しく心広く、そして残酷な女性よ」


 「父上はもう少し、母上に感謝すべきです」


 「勿論、それはそうだ。感謝してもしきれない恩をもらった。しかしだよ、私にはたまに妻が、聖女のようにも天罰を下す女神のようにも見えるのだ……美しく……聡明で………優しいが………」


 すーと静かに寝息が聞こえた。エリックは寝たか?とルシウスを覗き込み、寝入っているのを確認すると、深く息を吐きながら椅子の背もたれに寄りかかる。はぁ、とその漆黒の髪を掻き上げ、天井を仰ぐ。端正なその顔には、呆れの表情が見えた。


 「まったく…今日は寝るまで長かったな」


 エリックの婚約話が上がってから、もう何度目かの昔話に付き合っているのである。始めは父が語る話が新鮮で大人しく聞いていたが、それが数回続くと飽きてきたので、酒を勧めて寝落ちさせるのが、最近のお決まりである。何気なく寝落ちした父の顔を見つめていると、黒髪の女性が扉から現れた。


 「あら、寝ちゃってるのね……エリック、最近、泥酔して寝落ちしてることが多かったけど、あなたの仕業ね」


 母のミリアンが窘めるように見る。


 「仕方ないじゃないですか。酒に呼ばれる度、昔話といって過去の断罪事件を語られるんです。最初は母上から聞いていた話と視点が違って面白かったんですけど、こう何度も聞かされると飽きもします」


 「本当に困った人ね」


 とミリアンはルシウスを呆れた表情で見つめるが、その目は柔らかい。

 私の母、ミリアンは本当に賢く寛大な女性だと思う。父の断罪後も婚約を続け王家のために尽力しているのだ。私だったら、婚約者に裏切られても尚、婚約を続け結婚するなんて、そんな決断はできない。


 「母上は本当に尊敬します。父上の話を聞く度、そう思いますから」


 「あら、それじゃあお父様に感謝しなくてはね。あなたに尊敬されるのは嬉しいわ」


 ミリアンはくすくす笑いながら嬉しそうにエリックを見つめる。エリックは父親の話を聞き、疑問に思っていたことを口にした。


 「母上は、父上を許しているのですか?」


 ミリアンが首を傾げ、先を促す。


 「父上の話から、父上はあの事件のことを反省し後悔して母上に感謝しています。でも、こうやって、ふと思い出しては後悔の念に苛まれて……きっと、生きているうちは、母上が横にいるうちは変わらないでしょう。廃嫡され平民として生きるのも辛いでしょう。けれど、今のように、愚かな王として王座に座り、それを補佐する妻が聡明で寛大だと、正妃あってこその王だと囁かれている。それは、王としてはとても屈辱的ではないかと思ったのです。これが、母上の考えた罰だったのであれば、母上は未だに父上のことを許さずにいるのではないかと」


 ミリアンはルシウスを見つめながら口を開く。


 「許す、許さない、それをはっきりできるほど私も分かってないわ。あの時から、ルシウスを許したくない気持ちが強かったし、裏切られたショックも勿論、強かった……確かに、ルシウスを廃嫡にせずにそのまま婚約を続けたのは、一生後悔させるつもりもあったわ。だけど」


 ミリアンが瞳を伏せ自嘲気味に笑う。


 「だけど、この人を愛していたのも事実。短絡的なところも愚かなところも、それを引いてもこの人を愛する気持ちが強くて、可愛いだけが取柄の女に取られたくなかった。復讐心がある反面、一緒にいたいとも思ったの……例え、私を愛していなくてもね」


 「本当は、あなたのお母様の方が、とても愚かな女なのよ」


 そう言ってミリアンは母の顔で笑う。お酒の匂いで酔ったかしら、余計なことを言ったわ、とエリックの髪を撫でるとミリアンはその場を後にした。




 「…………」


 「父上、寝たフリは卑怯ですよ」


 ルシウスが、おずおずと目を開ける。その表情は嬉しいのやら照れてるのやら後悔やら、色んな感情がこもっていて。一国の国王陛下が、口をへの字にして扉を見ている。


 「あれの本音を初めて聞いた……」


 そわそわと落ち着きなく手を組み直し、目が泳いでいる。身体を前後に揺らし何度か腰を上げようとしてはやめる、その姿は、妻の尻に敷かれた、ただの夫だ。


 「はぁ、父上。時間が経てば経つほど、言いたいことも言いにくくなります。行くなら今です」


 そう後押しすれば、ルシウスは立ち上がりグラスに残った酒をぐいっと煽って扉へ向かう。

 後は、二人の問題。


 「何年こじらせてんだか……」


 そうエリックは扉の向こうに行った両親を思い呆れながらも、口元を緩めるのであった。



───



 あれから一年半、今日はエリックの婚約式だ。相手は侯爵家の令嬢で、お互いに結婚に望むことをよくよく話し合い、彼女を好ましく思ったため決めた婚約だ。勿論、両親のあの事件に関しても伝えた上でよくよく将来について話し合っている。


 「それにしても、よくここまで、すれずに成長されましたね。婚約に関してもどこか客観的に見てるとこがありますよね」


 「自分の親の断罪劇を幼い頃より聞かされ、母親には、若いうちに恋を経験し婚約までにはその欲を満たせ、そしてもし浮気心ができても決してバレるな……なんて言われ続ければ、そりゃ冷静にもなるし、恋愛するのも恐ろしくなるよ」


 エリックは両親を見る。母上の腕には赤子が抱かれている……歳の離れた妹だ。母上は幸せそうに微笑み、父上に関しては今更ながら、母娘に溺愛だ。当人達が良いなら、外野があれこれ言わずとも良いだろう。やれやれ、とエリックは肩をすくめ、隣にいる側近に言った。


 「もし、僕が真実の愛やら、恋に恋した状態になっていたら、全力で止めてくれ」


 「承知しました。その手足切り落としてでもお止めします」


 彼の腰にある剣がキラリと光った気がして慌てて目を逸らした。全力で、彼女を大事にしようとエリックは心に決めたのであった。


 その教訓から学ぶべし

 

 そう言い聞かせながらエリックは生涯、彼女のみ愛した。



 真実の愛のために愚かな選択をしてしまった王と、真実の愛のために愚かな王を愛し続けた愚かな妃の話は、この先何年も語り継がれていったとさ。



完。

愛、憎しみ、悲しさ人の感情ってごちゃごちゃしてて、きっと騒動時の王妃はそんな感じ。王も若さゆえの愚かな行動、王妃の寛大さに脱帽、時が絶ちなんやかんや丸くおさまるのも、それもまた人生かなと思い書きました。妹ちゃんに関しては書くか、悩んだのです…思うことがある方、おおめに見て下さい。エリックは非常にできた子なので、両親のイチャイチャ割り切ってます!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
読むたびジワジワと沁みてくるお話ですよね。 噛めば噛むほど味の出るスルメの様な? とても好きなお話です。
真実の愛ちゃんは見切りが早いのだけは有能だった(笑)
わはは、真実の愛は素晴らしい。 長い時間を経たからこその王と王妃の現在なんでしょう。 苦労性の王太子は良い王でありいい夫であるのでしょうね。 横恋慕してきた令嬢が側妃にならずに引いていくタイプでよかっ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ