狩られる者 かるもの
暗く静かな夜に車輪の音が響く。
現場に到着すると素早く降りて、ハワードさんと無言の挨拶をする。
月明かりを頼りに血痕を探すと直ぐに見つかった。
追跡される心配などしていないのだろう。素人でも分かるくらい、木々が折れて道が出来ている。追跡は問題無さそうだ。
警戒しながら進む。待ち伏せはないだろうか…
闇から奇襲をかけられたら…
色々と考えてしまい、手汗と身体中から汗が出る。
ゆっくり確実に進むと煙が見えた…
ヤツらの集落だ。
このまま寝込みを襲えたら完璧だ!!日が昇る前に決着をつける!!
素早く動くと、まさかの光景が……
みんな早起きね〜
朝ごはんか?ほぼ全員が活動している。
………
見事に期待を裏切られた…仕方ない。
数を確認すると、そんなに大きな集落ではない。
全部で15〜20体ほどだ。その内、戦闘員は10対くらいか武器を持ち警戒している。
どうするか…誰から行くか…
密集してる方が戦いやすい。最初の奴が大事だ。
全体の動きを止めて、混乱させる。
俺は心を鬼にした。
標的は決まった。
集落のギリギリまで近づきタイミングを計る。
そうしている間に日が昇り始めた。
集落の近くでゴブリンの母親らしき姿が火の始末をしている。
俺は一気に飛び出し、最初の一撃を放つ。
座り込んで作業している母親ゴブリンの後頭部を捉え、辺りに肉片が飛び散る。
すかさず、2撃目を近くにいる子供ゴブリンに放つ。近くの戦闘員らしきゴブリンは何が起きたのか理解してない。
黒く赤い何かが動いてるとしか見えてないのか、唖然としている。
その隙を逃さない。
倒れる身体から一気に飛び出し1番近い戦闘員ゴブリンの脳天をカチ割る。
声も上げず、戦闘員だろうがそうじゃ無かろうが関係ない。近い奴から仕留める。
一体何が起きてるかわからないゴブリン達は、恐怖のあまり腰を抜かす者微動だにできない者が多い。
それもそうだろう。ついさっきまでご飯を食べていた仲間が次々に無惨な姿に変わっていく。叫び声も咆哮もない。
普通なら反撃するところだが、肉片が飛び散り次々に血吹雪が舞えば、反撃どころではない。何も出来ず、叫び声も上げさせない。
【恐怖】
躊躇もなく慈悲もない。座り込んでいようが、恐怖で動けなかろうが関係ない。何体仕留めたかわからないが、息が続かず一度、構えを解き体制を整えると残りのゴブリン達は逃げ出していた。
日が昇ると同時に姿が映し出される。
赤く黒い怪物か何かに見えただろう。
ほとんどが逃げ出したが深追いはせず、集落の奥に洞窟らしき所が見えた。ゆっくり息を整えながら近づくと、中から何か出てくる。
身長は180〜190センチぐらいだろうか。
筋肉ムキムキのゴブリンが出てきた。おそらくコイツがボスだろう。
手には青龍刀に似た日本刀にも近い武器を持っている。刀身は太く全体の長さは80〜90センチ位だろうか。
瞬時にお互い緊張感が走る。
意識の共有なのか、お互いに考えている事がわかる。
勝負は一瞬でつく。
ボスゴブリンがゆっくりと上段に構える。
俺はゆっくりと構えを解き、木刀を左手に持ち替える。腰の位置に木刀を置き少し腰を落とした。
【抜刀術】の構えでゆっくり息を整え。肩幅に足を開いた。
ゆっくりと近づいてくる…
声も上げず、ゆっくりと近づいてくる…
次の瞬間、上段から咆哮と共に放たれた。
腰を落とし一気に間合いを詰める。
ボスゴブリンの刃が俺の肩に触れて熱さを感じる。
ギリギリまで待って俺は、下から上に孔を描く様に放つ。
ボスゴブリンの両手首を捉えると骨が砕ける感触が伝わってくる。
振り抜くと同時に手首を返して、上から下にボスゴブリンの首を軸に右斜め45度から叩き込む。
首の骨が折れたのがわかった。ボスゴブリンは膝から崩れ落ちる。
3撃目を放つ。
左斜め上から脳天めがけて渾身の1撃。砕け散るのを確認して息を吐いた。
紙一重の戦いだった。肩から血が出ている。
幸い、触れただけで骨までは達していない。
木刀もボロボロだ…木刀を杖代わりにして、洞窟に向かう。