襲撃準備
準備と言っても、武器は森で拾った木の棒しかない…まぁ小さな村に武器屋などあるはずもないのでラジオ体操第一をゆっくり思い出しながらする。
普通は逃げ出す内容だが、意外と落ち着いている。
俺が習得した剣術【野太刀自顕流】は集団戦闘に特化した技で、一対一より集団の方が戦いやすい。
きっかけさえ掴めれば、イケるかもしれない。
実際に成人になり基本が整ってからは集団を想定した稽古しかしていない。稽古よりも【訓練】に近い。
人に見立てた棒を切り倒していく。【内回り】と言う稽古。これは棒を人にイメージして倒す。パターンを変えて、無駄な動きを修正し最短距離で次の相手に飛びかかる。足運びや身体の使い方を習得する稽古。
【内回り】の欠点も実はある。それは動きを止められると終わる事。一撃必殺を連続連結した動きが求められる。最初と2体目が1番肝心。そこの選択をミスすれば、あっという間に囲まれてタコ殴りだろう。
10体だろうが20体だろうが上手くいけば2〜3分で片がつく。あとは運次第だな……
納屋でゴロゴロしてイメージトレーニングをしているとハワードが尋ねてきた。
『ハヤトさん、この剣を使って下さい』
それは綺麗に手入れされたロングソードだった。
柄には金の細工があり切れ味も良さそうだ。
しかし……
『ありがとうございます!! でも大丈夫です!!なんかこの棒切れが手に馴染んで…意外と頑丈ですし!!』
ハワードはびっくりした様子で剣を納める
『実はその木はメルの木って言ってとても丈夫な木なんですよ 主に建築資材に使われる資材です』
なるほど。でも、真剣を使わない理由は他にもある。真剣なんて握った事もないし、取り扱える自信がない……上手く刃に当てる事も出来ないだろう。
それよりはどこに当たっても威力が出る木刀が今は合ってる気がする。
襲撃は日が昇る直前。荷馬車襲撃現場までは馬車で送ってもらえる。今は身体を休めよう。
少し早めに行って潜伏場所の特定もしないと……
なんか不安になってきた……
横になると自然に目が閉じた。
………
足音が聞こえる。
『ハヤトさん…時間です 出発しましょう』
ハワードさんの声で目を覚ますと自然と意識が変わって行く。身体も軽い。木刀を握りしめて馬車に向かう。
心は静かで冷たい。緊張はない。