おうちにかえれない
森を進みながら思う事がある。
ここはどこなのか?一体なにが起こったのか?
このおじさんは信用できるのか?
アドレナリンが引くにつれて色々と考えが浮かんでくる。
そんな考えてる間に、おじさんの動きが止まる。
『ありました!! ありましたよ旦那!!』
声が大きい!!こいつ、ワザとしてるのか?
どつきたくなったが、グッと堪えて大きいな声で注意する。
『静かに!!』
おじさんがお前もなって顔で見てくるが怪物がいる気配はない。
幸い、荷馬車は無事で馬も落ち着いている。
荷台に回ると、もの凄い光景があり俺は思わず声が出てしまった。
『これは……人間の血?』
荷台には大量の血痕と破れた服が散乱しており血痕は、森の方に続いていた。
おじさんの方へ目を向けると顔を手で覆い、うな垂れている。
恐らくは、身内の誰かだろう。そっとしとこう。
俺は、こんな中年のおじさんには興味ないが少しばかり親近感が湧いていた。
『辛いのは分かるよ…でも移動しないと…』
おじさんに声を掛けるとおじさんは涙を拭い、馬の手綱を握った。
『行きましょう…とりあえずは近くに村がありますので、そこまで全速で駆け抜けます』
おじさんの隣に座るとムチを打ち荷馬車が動いた。
次の瞬間!!オオカミの様な遠吠えが鳴る。
次から次へと……
やはり血の匂いで寄ってきたか。
いや、これは待ち伏せに近いかもしれない。
タイミングが良すぎる…敵は知能がある。
逃げ切れるだろうか。そう考えながらも荷馬車は高速で走っている。もしかしたら逃げ切れ……
『旦那!! 前からベアウルフが来る!!』
見事に待ち伏せを食らってしまった。俺は木刀を手に取り、席を立つ。前からは2匹。後は…2匹、いや3匹!!
前の2匹はどうにか払いのけるしかない。
後はどうすれば……荷台になにかないか…
荷台に移ろうとした時、ヌメッとした感覚が手に伝わる。透明に近く液体みたいだが…おじさんに聞いてみる。
『このヌメッてした液体はなんですか⁈』
おじさんは振り向きもせず、答える。
『オリーブ油ですが? 旦那?そんなの今聞いてどうするんですか?』
やるしかない。派手にぶちまけてやる。
『この先に狭くなる道はありますか⁈』
その手があるかと瞬時に理解したかおじさんが答える。
『少し先に狭い石橋があります!』
『そこまで全速で走って下さい!前の2匹は何とかします!』
猛スピードで2匹が迫る時、片方のベアウルフが少しスピードが落ちたのが見え、直感的に体が動いた。
片方が騎手のおじさんに飛びかかるとおじさんの頭スレスレを木刀でフルスイング。
見事にベアウルフの顔面を捉えた。
ヤツらはフェイントを入れて襲ってきたのだ。
恐るべき……
2匹同時ではなく、そう思わせて片方が騎手を狙う。毎回のパターンだったのだろう。
運良く前の2匹を処理した時、橋が見えた。
後ろのベアウルフはグングン迫る。舌を垂らしヨダレも気にせず向かってくる様は、恐ろしく狂気に満ちた顔だった。
橋に掛かる前に素早く荷台に移り、準備する。
おじさんが情けない声で合図する。
『今です!! 旦那、お願いします!!』
合図を聞いてオリーブ油を撒き散らす、ベアウルフは派手に転けて泣き喚いてるのが、ちょっと可愛らしいと思ってしまった。
なんとか切り抜けたと、助席に座るとおじさんが
鼻水を垂らしながらぐちゃぐちゃな泣き顔で言う。
『おうちにかえりたい』
酔いなのか、おじさんの顔のせいか、思いっきし道に吐いて安堵した。