希望
主人と養母に連れられて病室に戻った私は、身体中の力が抜けたように
ベッドに座り込んだ。
主人も養母も無言のまま病室に座っていた。
養母の言うように、あの子のために立派なお葬式をあげてあげる事が
一番なのだろうか。
私の心の中には、もう絶望しかなかった。
この子はもう助からない、そんな気持ちがずっと渦巻いていた。
その時、養父が病室に入ってきた。
―あの子を別の病院に移すぞ。準備をしなさい!―
養父の言葉に私たちは驚いた。
主人が養父にどういう事か、と聞くと、
―知り合いの紹介で国立の小児病院に入れるように手配してもらった。
あそこなら、あの子を助けられるかもしれない。ー
そう言って養父はお医者さんのところへ向かった。
主人もその勢いにつられ、養父の後を追った。
私も一緒に飛び出したい衝動にかられたが、養母に止められ、
そのまま病室に残った。
それからの時間はとても長く感じられた。
時計の秒針が1秒を刻むのも、とても長く感じた。
30分程経った頃、養父と主人がお医者さんと一緒に私の病室に訪れた。
転院に際しての注意事項などを確認した後、お医者さんが手配してくれた
緊急車両で国立小児病院へと移動した。
移動の最中、私はか細く呼吸をする我が子をただ見つめるしかできなかった。
この子を見つめながら泣く事しかできなかった。
国立病院に到着すると同時に、緊急の手術が行われた。
我が子は自分の力で血液を作る事ができない状態だと説明された。
その為、新しい血液を輸血する手術が必要だった。
あの子がこの手術室に入って、どれだけの時間が経っただろう。
手術室からお医者さんが出てきた。
―血液が足りません。どなたかO型の血液を提供していただけませんか。―
すぐにでも血液を提供したかった。
必要な分だけ、使って欲しい。
しかし、私も主人も、養父や養母も全員A型だったのだ。
何故あの子に何もしてあげられないのだろう。
どうしてあの子の力になってあげられないのだろう。
私は再び絶望に襲われた。
その時、主人が私に声をかけた。
―誰かO型の人を捜そう!―
そう言って主人は外に向かっていった。
私と養父、養母もそれに続いた。
外に出て、私たちは必死で血液提供を呼びかけた。
しかし、なかなか血液を提供してくれる人はいなかった。
その時、一人の男性が私たちに声をかけてきた。
―あの、私で良ければ協力します。―
私も主人も、その人に頭を下げた。
これであの子は助かる。
私たちの胸に希望が見え始めた。