38.よかった、動いた。生きてる。
宴もたけなわ、俺たちはへべれけ、というところで、村長さんが言う。
「風呂の用意が整いました、女性の方からどうぞ」
「あ、ありがとうございます!」
シャーリーが立ち上がった。
が、ハッと立ち止まってこちらを振り返る。
じっと俺たちの顔を見た後で、村長さんに向き直った。
「あ、あの、お湯って……」
「ご安心を。たっぷりご用意しておりますぞ」
「必要があれば僕が沸かし直そう」
べろんべろんで呂律が怪しいレオンの言葉に安心したのか、シャーリーが小さく息をついた。
俺たちのお湯まで使い切るんじゃないかと心配したらしい。どんだけ使う気なんだ。
まぁ髪とか長いとそれだけ手間暇かかるんだろう。
それにしたって女の子って風呂長いよな。中で何やってんだと思うくらい。
「服は脱衣所に置いておいてくだされ。こちらで洗っておきましょう。明日の昼には乾きます」
「何から何まで、すみません」
「いやいや。勇者様ご一行をおもてなししなかったとあっては、先祖に顔向けできませんからのぅ」
にこやかに言う村長さんに向かって、シャーリーがぺこりとお辞儀をする。
素晴らしく歓待してくれている。本当にいい村だ。こんな村があったなんて知らなかった。
こんなに冒険者に優しい村なら、どっかで噂になっててもよさそうなもんだけど……
割と危険な魔物も多いとはいえ、ベテランの冒険者なら全然出入りしてるだろうし。
……もしかして、冒険者がたくさん来たら今みたいなもてなしを受けられなくなるから内緒にしてる、とか?
こんだけ小さな村だし、大人数で押し寄せたら迷惑だよな。料理も手が込んでるし。
この鶏肉と芋焼いたやつとかめちゃくちゃ美味い。カリカリになるまでじっくり焼いた鶏皮がたまらない。酒のつまみにぴったりだ。
これをじっくり焼いてもらえなくなるかもしれないと思ったら、人に内緒にしたくなる気持ちもわかるかも。
シャーリーが着替えやら何やらが入ったリュックを抱えて風呂に向かおうとした……が、村長がそれを呼び止めた。
「よければそちらのメイスもお預かりしましょう。職人に預けて手入れをしておきますぞ」
「え?」
「入浴の際は使いませんじゃろ」
「そ、それもそうですね」
シャーリーがメイスを村長に預ける。すかさず村長のところに男が駆け寄ってきて、それを受け取った。きっとあの人が職人さんなんだろう。
その様子を横目に、村の人が注いでくれた酒を飲む。
俺も風呂には入りたいけど、このままだとその前に潰れそうだなぁ。
量をセーブしようにも、みんながよってたかって酒を勧めてくれるもんだから、なかなかそうもいかない。
シャーリーの長風呂が終わった頃には全員寝る寸前だった。武器を職人さんに預けて、よろよろしながら順番に風呂へと向かう。
最近切れ味悪くなってきてたし、研いでもらえるならありがたい。聖剣なのにそのへん融通効かないんだよな、あの剣。
俺とロックとハヤシさんはさっと風呂を済ませて……レオンはいつも長風呂だが、あんまり出てこないので見に行ったら風呂場で寝ていた……村の人にお礼を言って、もう休ませてもらうことにした。
別宅に着くや否や、誰がベッドを使うかという取り合いをするまでもなく、シャーリーが倒れ込むようにベッドにダイブする。待っている間ずっと船漕いでたし、限界だったみたいだ。
俺たちも担いでいたレオンをもう一つのベッドに放り投げて、残り3人は床に敷かれた布団で寝ることにした。
あー、3日ぶりのちゃんとした寝床だ。
さすがにもうだいぶ慣れたし、野営じゃぐっすり寝られないとか言うつもりはないけど……やっぱちゃんと屋根のある建物で布団使って寝られるのは全然違うよな。瞼が重い。
この日はハヤシさんも日報だけ済ませて寝ることにしたらしい。
ギリギリ俺の意識があるうちに、ハヤシさんが布団に潜り込むのが見えた。
よかった、ハヤシさんちゃんと寝てたんだな。
あんまりにも寝てるところを見ないからもしかして夜寝られないとかあるのかなと思ってたんだ。
早く寝ないとロックの高鼾が始まる。俺もさっさと寝よう。
まぁ、今日はそんなの気にするまでもなくすぐ寝るだろうけど。
そんなことを考えているうちに、俺の意識はあっという間に夢の中に沈んでいった。
◇ ◇ ◇
ふと、何かの気配を感じて目を覚ます。
何だろう。前もこんなことがあったな。もしかして、ハヤシさんがまた起き出してるのか?
やっぱ夜寝れないのかな。そういうの、ストレスが原因なんじゃないの?
そう思って薄目でタブレットの光を探すが、それらしいものは見当たらない。何だ、気のせいか。
そう思って視線を自分の正面に戻した、その瞬間。
目が合った。
眠っているはずのハヤシさんが、目を開けてこちらを凝視していた。
「っ〜〜〜〜!!!!?????」
怖すぎて声も出なかった。
ハヤシさんただでさえでも生気がないのでそうして目を見開いていると死体かゾンビにしか見えない。
心なし目にも光がないように見える。夜だから当たり前か。
「な、な、なに、ハヤシさん!」
何とか声を絞り出すと、ハヤシさんがそっと人差し指を立てて、俺に静かにするように促す。
よかった、動いた。生きてる。
「……少し、おかしい気がして」
「な、何が?」
「この村の方たちが、です」





