表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】異世界リーマン、勇者パーティーに入る【書籍化・コミカライズ】  作者: 岡崎マサムネ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/174

20.10分前には自然と目が覚めて

 何となく目が覚めた。


 集会所に雑魚寝とはいえ、布団も貸してもらえたし野営よりはずいぶん快適だ。

 もうひと眠り、寝返りを打ったところで、寝ぼけた視界を「何か」が掠めた。


 何だろう、もう結構遅い時間だと思うんだけど、街の人が窓の外を通りかかった、とか?

 眠い目をこすりながら、何度か瞬きをして視界をクリアにする。

 浮かび上がった「何か」が徐々に視認できるようになる。


 ぼんやりと青白い光に照らし出された、生気のない男の顔が……


「ぎゃあ――――ッ!!!??」


 思わず叫んだ。

 近くに寝ていたロックが飛び起きて、武器を構える。

 俺も慌てて枕元の剣を手繰り寄せた。


 もう一度よく目を凝らして、男と対峙する。


 ハヤシさんだった。

 例のタブレットが光っているので顔のあたりが光って見えただけだった。


 ハヤシさんは困った顔で俺とロックを見比べて、おろおろと謝る。


「す、すみません。起こしてしまいましたか」

「いや、びっくり、しただけ」

「何だ、ハヤシさんかよ」


 ばくばくと跳ねる心臓を落ち着けながら答えた。

 ロックもやれやれとため息をついて武器を下ろした。

 シャーリーも起き出してきて目を擦っている。


「こんな時間に何やってんの、ハヤシさん」

「今日の分の日報をと思いまして」


 ハヤシさんがやや居心地悪そうに頬を書く。

 その手にはタブレット用のペンが握られていた。


「王様だって毎日じゃなくていいって言ってたじゃん」

「はぁ。ですがどうにも落ち着かなくて」

「……ハヤシさんさ」


 じろりとハヤシさんを睨む。


 日報だけではない。今日見せてくれたアンケートの結果だって、ハヤシさんがどこかで情報を集めて、時間をかけてまとめた資料のはずだ。


 でもハヤシさん、昼間は俺たちと一緒にクエストをこなして、街についたら宿の手配をしたり食事の手配をしたり、二次会三次会の店を押さえてくれて、そこにも一緒に来てくれたり。

 夜寝る前くらいにしか、タブレットに向かっている時間はない、気がする。


 もしかして、いつもこんな時間まで起きてる、とか?


「ちゃんと寝てる?」

「はい、もちろんです」

「でも今日は起きてたよね」

「たまたまですよ」

「そういやこの前俺が便所に起きた時もまだ起きてたな」

「私がお水を飲みに行った時も……」

「そんで、朝はいつも俺たちより早く起きてるよな」


 皆の視線がハヤシさんに集まる。

 ハヤシさんは胸の前で両手を広げて、「いえいえ」と笑っていた。


 前々から、顔色がよくないような気もしていたし、目も落ちくぼんでいるというか、クマみたいなのがあるなとは思っていた。

 まぁそういう顔つきの人もいるよねと思っていた。


 寝不足じゃん。

 ガチのクマじゃん。


 いえいえじゃない。

 全然いえいえじゃないから。


 俺はかぶっていた毛布を脱ぐと、ハヤシさんにひっかぶせた。


「寝て!!」

「わぶ」


 毛布に包まれたハヤシさんが、目を白黒させながら俺たちの顔を見回す。

 そしておずおずと口を開いた。


「あまり長時間寝ていられない体質でして」

「それは休む体力もないだけでは」

「前職でも、起きなければいけない時間の10分前には自然と目が覚めて」

「それ絶対ちゃんと寝れてないやつだよ」


 呆然とした。

 そりゃあハヤシさんは前線で戦うわけでも魔力を使うわけでもない。


 でも体力15である。

 普通に俺たちと一緒に歩いて移動して、それが出来ているだけで正直奇跡の域だ。

 だってほぼ病人なんだもん。具体的に言えば、昨日まで風邪で寝込んでいた一般人くらいの体力なのに。


「職業病でしょうか。片付いてからでないと、どうにも眠れなくて」

「……じゃあ、俺も手伝う」

「え?」


 ハヤシさんがぱちくりと目を瞬いた。

 ハヤシさんの手からタブレットとペンを強引に受け取って、そこに並んだ文字列を眺める。


 タブレット自体が光っているから暗がりの中でも文字を読むのには困らないが……正直数分で眠たくなりそうだ。

 でも、ハヤシさんだけに夜更かしさせるのは、やっぱ、嫌だし。


「一緒にやれば早く終わるだろ!」

「いやお前それは無理だろ」

「ハヤシさんの邪魔したらダメですよ」

「何だよみんなして!」


 ロックとシャーリーに窘められた。

 どことなく可哀そうな人間を見る目をされている気がする。


 何でだよ。かわいそうなのはハヤシさんだろ。


「ハヤシさんが心配じゃないのかよ!」

「そりゃ心配だけどよ」

「……あの、ハヤシさん」


 シャーリーがハヤシさんに声を掛けた


「ハヤシさんがエイギョウとしての職務を全うして下さるおかげで、私たちは今日も屋根のあるところで休めています。それにはとても感謝しています。私たちには出来ないことですから」

「ああ、いえ、そんな」

「ですが、私たちは仲間です。たとえば、何か――ハヤシさんが早く休めるように、私たちにできることはありませんか?」

「そう、ですね」


 ハヤシさんが顎に手を当てて、少し考えるような仕草をした。

 そして、あっと思いついたように、俺の手のタブレットを指さす。


「キーボードが使えたら、もっと早く文字が打てるので……早く終わると思います」

「キーボード?」

「これです」


 ハヤシさんがタブレットの蓋を指さした。

 薄い革のようだが、よく見ると何か文字が書かれたでこぼこがある。


 これがキーボード、か。

 タブレットは魔法で動いていると言っていた。ということは、これも?


「レオン!」

「もう食べられない」

「食べなくていいから」


 一人まだ寝ていたレオンを叩き起こす。

 みんなこんなにバタバタしてるのによく寝てられるな。もし夜に敵襲とかあったときに寝てたら置いてくぞ。


「これ、動くようにできるか?」

「……これは食べない」

「食べなくていいから」


 レオンがふらふらと体を起こして、ほとんど開いていない目でタブレットとその蓋を見た。

 枕元にあった杖を渡してやると、辛うじてそれを掴んで、タブレットの蓋をコンコンと軽く叩く。


 そして再びふらふらと横になると、毛布を鼻先までひっかぶった。


「黒トカゲが来たら起こせ」

「どんな夢見てんの? お前」


 あっという間に寝息が聞こえてきた。

 そもそもタブレットも城の魔術師が動くようにしたらしいが、その時にこのキーボードも動くようにしなかったのだろうか。

 まぁでも、言われなければ蓋にしか見えないか。


 タブレットをハヤシさんに返すと、ハヤシさんはやや戸惑いながらも、蓋を開けた。

 タブレットを斜めに立てかけるようにしてテーブルに置いて、手前に倒した蓋の部分に指を載せる。


「!」


 ハヤシさんがぱたぱたとせわしなく指を動かす。

 どれどれと思ってタブレットを覗き込むと、ハヤシさんの指のスピードと一緒に、すごい勢いで文字が浮かび上がってくる。

 ハヤシさん、文字を書くのも結構早いと思っていたけど、これはもっと早い。


「ど、どう? ハヤシさん」

「はい、これで早く終わりそうです」


 ハヤシさんがにこりと笑って頷いた。


 良かった。普通に止めてもあんまりやめてくれそうにないから、それなら早く済ませて、ハヤシさんもすっきりした状態で早めに寝てくれる方がいいよな。


「ありがとうございます、皆さん、レオンさん」


 ハヤシさんがレオンにも声を掛ける。

 レオンはもぞもぞと寝返りを打って、「マンドラゴラはまだ早い」と言っていた。


 どんな夢だよ、だから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍版1~3巻発売中!↓
i000000

もしお気に召しましたら、
他のお話もご覧いただけると嬉しいです!

後宮男装×お悩み解決ラブコメ↓
偽物帝の後宮暮らし ~暗殺寸前の帝の影武者になったけど、ついでだから後宮改革してみます~

悪役令嬢がガチ男装するラブコメ↓
モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました

異世界ハイテンションラブコメ↓
当て馬ヒロインは今日も「カワイイ」を突き進む!

なんちゃってファンタジー短編↓
こちら、異世界サポートセンターのスズキが承ります

― 新着の感想 ―
[一言] 最近はキーボードよりフリックパッド?(バーチャルボード?)の方が早い世代が現れてきたらしいっすねー。 今の20代にはパソコン分からないパッドでしょ、の人たちもいるとか。
2024/03/15 04:32 退会済み
管理
[一言] そりゃ手書きとキーボードどっちが早いかと言われたら確実にキーボードですよね。 素敵な仲間達に囲まれて本当に良かったですね、ハヤシさん。 安眠グッズ送れるなら一式送りたいくらいです。本当に。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ