後日談 ザラキ
コミカライズ版「異世界リーマン」、本日(2/12)2巻が発売です! やった~!
記念にオマケの後日談を置いていきます。
コミックスの告知は活動報告に置いてありますので、ご興味がおありの方はぜひそちらをご覧ください。
「おーいザラキ、卵の殻剥いてくれ」
「やれやれ、仕方がありませんねェ! 」
ザラキがロックから手渡されたゆで玉子の山を持って戻ってきた。
手慣れた様子で殻を剥いていく。
……もう俺たちもだいぶ見慣れちゃって疑問に思わなくなってるけど、よく考えたら元魔王軍四天王が何やってるんだよ。
時々ふらっとやってきては一緒に飯食っていくんだよな、何故か。
「まったく、隷属の首輪さえなければワタクシがこんな雑用など……」
「……お前、もう隷属してないぞ」
「え?」
通りかかったレオンがぽつりと言った。
その言葉に、ザラキを見る。でもほら、ちゃんと隷属の首輪、嵌まってるし。
だけど俺には違うものが見えていたらしいザラキがぎゃっと悲鳴を上げた。
「く、鎖が消えていますねェ!?」
「ど、どういうこと? レオン解除したの?」
「僕が解除できるはずがないだろう」
レオンが胸を張って答えた。
威張るなよお前そんなことで。
「発動させるのは簡単だが、目的を達成しないと術者にも解呪は困難だ。呪術の厄介なところだな」
「え? じゃあ、ハヤシさんの呪いが解けたってこと!?」
慌てて冒険の書を取り出してハヤシさんのステータスを確認する。
相変わらず貧弱な一般人のパラメータだ。そして燦然と輝く、雷みたいなマーク。
「……麻痺してるじゃん」
「麻痺と隷属の呪いは別物だ」
「別なんだ……」
別だったんだ……
じゃあ呪いが解けても麻痺、治らないんだ……
魔法では治らない、でも呪いでもない。
どうすれば治るんだよ、麻痺。
呆然とする俺を無視して、ザラキが近くでジャガイモの皮を剥いていたハヤシさんに寄っていく。
モノクルをカチャカチャと調節して、ハヤシさんの服をまじまじと調べていた。
「アッ!? た、確かにこの防具から、呪いの気配が消えていますねェ!?」
「どうして……」
異世界からこっちに来ても消えなかった呪いが、突然消えた?
ザラキの様子から言うと絶対こいつが解いたわけじゃなさそうだし……ハヤシさんの身に、いったい何が。
俺もレオンも理由が分からずに、ザラキと同じような顔でハヤシさんを見つめてしまう。
しばらく「いえいえそんなそんな」のポーズをしていたハヤシさんが、はたと何かに気が付いたように「ああ」と声を上げた。
「王様にお願いして、前の会社……異世界のギルドに退職願を提出しておりまして。そろそろ2週間が経過する頃かと」
「に、2週間たつとどうなるの?」
「法令上は退職が成立することになります」
「????」
ハヤシさんが何を言っているのかよく分からなかった。退職願、は分かる。ギルドをやめたってことだよな。2週間経つと、成立?
……異世界のルール、ややこしくてよく分からない。
よく分からない、けど。
「つまり、ハヤシさんが、前のギルドの呪縛から解き放たれた、ってことだよな?!」
俺の言葉に、ハヤシさんが頷いた。
わっとハヤシさんに駆け寄って、その手を握る。
「おめでとうハヤシさん!!」
「ありがとうございます」
ハヤシさんもいつものニコニコ愛想笑い、よりも嬉しそうだ。
いや、俺が嬉しいからそんな気がするだけかもしれないけどさ。
いいじゃん、嬉しいんだから。
「こうなったらお祝いだな! ザラキ、ほら卵剥いて、卵」
「わ、わたしもやりますよ!」
「シャーリーは黙って座ってて」
腰を上げかけたシャーリーが頬を膨らませて椅子に座り直した。
その様子を見て、フンとザラキが鼻を鳴らす。
「指図をしないでもらいたいですね!! 隷属していない以上、もうワタクシには貴様らの言うことを聞く道理はないのですよォ!」
「え。じゃあお前の分のハンバーグ焼かなくていいのか?」
「焼いてくれないと困りますねェ」
厨房から問いかけてきたロックに、ザラキが当たり前みたいに答えた。
何でだよ。今完全に食べていかない流れだっただろ。
指図するなとか言ったくせに、ザラキは手際よく卵を剥き続ける。
「魔王軍は実質解体、魔族も人間との共生に向けて準備中。となればワタクシには貴様らの言うことを聞く道理もありませんが、魔王に従う義理もないのですよォ!」
「だってさ、魔王」
「そうか」
食堂の隅に座っていた魔王がぽつりと呟いた。
ガション、と鎧が音を起てる。
何か俯き加減なところとか、ちょっとしょんぼりしている感じが伝わってきた。
それを察したのか、ザラキが魔王に向かって手招きをする。
「ほら、アナタも卵を剥いてください」
「こうか」
魔王が卵を殻ごと粉砕した。
ていうか籠手取って食べ物触れよ、ばっちいだろ。
「黙って座っていてくださいねェ」
早々に戦力外通告をされた魔王がシャーリーの隣に腰かける。寂しい席だ。
黙々と卵を剥いているザラキを見て、ぽつりと言う。
「なんかてっきり俺たちのこと恨んで、徒党を組んで勝負とか挑んでくるかと思った」
「お前たちのせいですよォ!」
ザラキが俺を睨みつける。
睨んでも、ハンバーグ食べてくんだろ、お前。
「隷属の首輪のせいで、朝日と共に起きて3食食べて適度に体を動かし人助けなどという善行を積む生活を強いられた結果……」
「結果?」
「合わないんですよォ……ほかの魔族と……生活リズムが……!!」
「あー……」
何かちょっと納得した。魔族って割と夜型だもんな。
吸血鬼とかいるし。
「ま、もとより徒党を組む知り合いなどいませんがねェ」
「なんかごめん」
「勘違いしないでくださいよォ!? 低俗な魔族連中とは頭脳レベルが合わないだけですからねェ!」
負け惜しみを言うザラキ。
どっからどう聞いても負け惜しみだった。
「もう不健康な生活には戻れなくなったんですよォ!」
「いいことじゃん」
「歩いても息切れしない、膝も腰も痛くない、手足も冷えない、風邪もひかない、ひいても1日休めばすぐ治る、朝すっきり目が覚める、思考もまとまりやすくなって研究に集中できる……何なんですか健康ってやつはァ!! ワタクシ史上最もコンディションの良い日々が続いておりますよォ!?」
「いいことじゃん……」
確かに会うたびに顔色とか肌ツヤとかよくなってる気がしてた。
やっぱ大事なんだな、しっかり寝て三食食べて、って。
ザラキがふと、隣のテーブルで芋の皮を剥いているハヤシさんに目を向けた。
そして憐れむような口調で言う。
「アナタも健康的な生活を送るといいですねェ……多少は血色がマシになりますよ」
「もっと言って」
本当にハヤシさんにはもっと言ってあげてほしい。
魔王討伐が終わったのにまだまだこれからと言わんばかりに働きづめのハヤシさんに。
寝てって。
頼むから寝てって。
魔族より顔色悪いのヤバイって。
「どうせ共生するならばワタクシはワタクシが最も得をするやり方を模索するとします」
「卵剥けたか?」
「剥けましたよォ!」
「もうお前料理人になったら?」
「お、いいんじゃないか。王城の食堂とかでよ」
ロックが他人事のように笑いながら卵の入った皿を回収していく。
卵ざくざく刻んでサラダに混ぜるやつ、うまいんだよな。
芋の皮を剥いていたハヤシさんが、ふと顔を上げた。
「王宮魔術師、というご職業があると聞きましたが……王宮呪術師はいないのでしょうか?」
「そういや、昔いた国の魔法騎士団には呪術の部隊があったな」
「呪術はエルフや妖精には適性がないからな。この国のようにエルフ式の現代魔術が主流な場所では優秀な指導者が育たない」
「指導者か……」
呟きながら、何気なくザラキに視線を向けた。
目が合うと、ザラキが何やら自慢げにニヤニヤと笑い始める。
「何です? 確かにワタクシは優秀ですが……まさか人間に呪術を教えろというつもりじゃありませんねェ?」
いや別に優秀とは思ってないけど。ハヤシさんの呪いも結局解けなかったし。
でも、呪術が出来るってだけで貴重な人材ってことだよな。
「どうする? 王様のとこ連れてってみる?」
「いやー……どうだろうなぁ」
ちらりとロックを見れば、ロックも微妙そうな顔で頭を掻いた。
何か魔王より裏切りそうだもんな、こいつ。
その時、ぐうう、と音がした。
どう聞いてもシャーリーの方から聞こえてきたが、ハヤシさんがニコリと微笑んで手を上げる。
「すみません、私です」
「一旦食ってから考えるか」
「だな」





