163.入城料取るんだ、魔王城。
「さて、ここに魔王様が現れてからの大気中の魔素の含有量の変化を示したグラフをご用意いたしました」
「がんゆう……?」
「これによると、魔素が濃くなっているのはこちらの魔王城から半径50キロメートル以内にとどまっており、それ以上の距離では測定値に変化がないことが分かります」
ハヤシさんが地図の真ん中あたりが赤くなっている画像と、何か棒状の絵が色分けされた図形を交互に見せてくれる。
ええと、その赤いところがこの魔王城で、――棒状のが、空気中に何が入ってるかを色分けした図、なのかな。
「そして魔王様が現れてからの魔素の上昇量を仮に範囲をこの大陸全土まで広げて平準化した場合、この数値の上昇は理論上ほぼ無視できる範囲に収まることが確認できました」
何か映しだされていた地図の色が変わって、さっきまでの青から緑、黄色、赤みたいな色じゃなく、全体が緑と青の中間くらいの色になっている。
何なんだ今の、なんかすごい、自動的に動くみたいなやつ。なんか地図も立体的だし。
ハヤシさんの手元のタブレットを、魔王が真剣な眼差しで覗き込んでいる。
俺は「何かすごそう」ぐらいしか分かってないけど――魔王はちゃんと分かってる、んだよな?
「そこでご提案するのがこちらのプランです」
タブレットの中で、ページをめくるように画面が切り替わる。
「まずこちらの魔王城は居住地としては放棄していただきまして――こちらは新たに旧魔王城跡として観光地化いたします」
「は?」
「この後ご説明する新たな村の建設等に資金が必要ですので――その資金源として活用できればと」
ハヤシさんがいつの間に準備したのか、魔王城の前に看板を立てたり屋台を出したりしている絵を出してきた。
入城料取るんだ、魔王城。
魔王せんべいとかのぼりが立ってるけど、そんなんで本当に観光客来るのかな……と考えて、思い出した。
俺、地元で勇者の剣のとこめちゃくちゃ遊びに行ってたわ。
たまに遠くから人が来たりもしてたし。意外と行ってみたくなるもんなのかもしれない。
「そして魔王様には居を移していただくのですが」
「余に人間どもと暮らせと申すか」
「はい。転職の神殿で暮らしていただきます」
ハヤシさんがタブレットの表示を切り替える。
そこには転職の神殿の画像と、それが大陸の地図上を進んでいくルートが示されている。
「神殿はこの大陸全土を周期的に巡回しております。これにより、魔王様の魔力が一つ所に集中するのを防ぐことが出来ます。またこちらはまだ実測値がありませんので効果が未知数ですが、魔素を各地に分散させることで農作物の育成を促進する狙いもあります」
ハヤシさんの言いたいことが、俺にも少し分かってきた。
そうか。魔王が一つの場所にいるから魔力が濃くなりすぎるなら、一つの居場所に留まらないようにして分散させようってことだな。
魔力が濃いほど野菜とかが育ちやすくなるって言うのは俺も聞いたことあるし、魔物が強くならない程度に効果が出るなら皆喜ぶかもしれない。
「神殿には魔力や呪力の制御に長けた神官様がお住まいですから、おそらく魔王様の魔力の影響も最小化できるかと」
「よ、余が……神殿に……?」
さすがの魔王も戸惑った声を出している。
確かに神聖な神殿と邪悪な魔王って、完全に対極に位置するもので……それを一緒にしてしまおうなんて、多分普通は考えない。
でもハヤシさんは異世界人だ。そのあたりの先入観がないからこその提案なんだろう。
だろうけど……いいのかな、神殿。
魔王が入った瞬間対消滅したりしないかな。





