136.ハヤシさんのハヤシさん
「異世界リーマン、勇者パーティーに入る」の2巻が本日5/19に発売となりました! やった~!!
(※ 岡崎は寝るまでは「今日」が継続するシステムを採用しています)
今回は表紙にレオンとロックと、そして帯に専務を描いていただいています! 専務めちゃんこかわいいのでぜひご覧ください~!
さらに今回は巻末に書き下ろしSSを入れていますので、そちらも楽しんでいただけたら嬉しいです。
「今日は休日にしよう!」と言われたハヤシさんのお話です。お手に取っていただけますように!
「ど、どうしたらいいんだよ!」
「簡単じゃ。目覚めさせればよい」
「目覚めさせるったって……」
肩を掴んで揺すってみても声を掛けても、微動だにしないハヤシさん。
生きてる?
本当に生きてる!!??
動かなさ過ぎて不安になってまた呼吸を確認してしまった。生きてる。よかった。
「……もうちょっと強く小突いてみるか?」
「死んじゃうだろ」
「弱めのファイアーボールで」
「死んじゃうって」
「ひ、瀕死までなら、回復魔法で何とか」
「永眠の可能性があるのは怖いよ!」
皆でうんうん唸って頭を抱えた。
ハヤシさんの防御力は一般人並みだ。俺たちはどんどんレベルが上がって攻撃力も上がってるから、そのあたりすごく気を遣う。
だいたい淫魔の夢を見てるにしては、ハヤシさんの顔が「無」すぎる気がする。
誘惑されてるならもっとデレデレしたり、精気を吸われてるならもっと苦しそうにしていてもおかしくないのに。
はっとハヤシさんのハヤシさんを確認する。
こっちも「無」だ。微動だにしていない。
もしかしてハヤシさん、夢の中でもあれなのか。アレがアレしないのか。
正直俺何かは淫魔とか1回くらい襲われてみたい、って気持ちがないではないけど……肝心のナニが臨戦態勢にならないなら、ただただ精気を吸われて辛いだけなんじゃ……
「何をしておる。意識の中に入って目覚めさせるのだ」
「え。そんなこと出来るのか?」
「魔法が使える人間ならば可能だろう」
言われて、レオンを振り向く。
さっと視線をそらされた。何でそんな速攻で目そらすんだよ。その素早さは戦闘の時に発揮しろよ。
「僕は戦闘魔法以外は専門外だ」
「そんなこと言ったって緊急事態なんだから」
「加減が分からない。最悪の場合お前の意識とハヤシさんの意識が入れ替わるどころかハヤシさんの意識が亜空間に放り出されることになる」
「シャーリー、よろしく」
「が、頑張ります!」
シャーリーがぐっとメイスを握りしめた。
魔法使いほどじゃないけど、僧侶も魔力の使い方は得意なはず。頼むぞシャーリー。
専務の指示に従って、ハヤシさんが寝ているベッドの横の床に寝転がる。
俺の額とハヤシさんの額にそれぞれシャーリーが指を添えて――あ。何か魔力の流れを感じる、気がする。
シャーリーが専務の後に続いて、呪文を唱える。あんまり聞き馴染みのない言葉だ。
もしかしてこれも古代語? とか思うか思わないか、そのうちにすとんと意識が落ちて――次に気が付いたときには、俺は見慣れない空間にいた。
何だろう。狭い部屋……田舎の俺の部屋くらいの広さだ。
ベッドがあって、窓にはカーテンがあって、ローテーブルがあって……逆に言えば、それ以外には何もない。
いや、部屋の隅には何か袋がいくつか並んでい……
「うわ!? い、淫魔!?」
袋の隣に、膝を抱えてうずくまっている魔族がいて、思わず声を上げた。
頭に生えた角に、俺でも分かるくらいの強い魔力。
まるで羊のような角に、燃えるように赤い髪。背中ががばっと開いている大胆なドレスに、思わずごくりと息を呑む。
ハヤシさんから聞いていた情報と一致する。おそらくこれが、魔王軍四天王――淫魔イライザ。
そのイライザが、部屋の隅っこで膝を抱えてうずくまっていた。
見るからに何ていうか、その……意気消沈しているというか、落ち込んでいる。
……何で?
どういう状況????