12.お気になさるよ!!!!
「ワシらエルフは自給自足の民だからのう。もとより金にはさして興味がないのじゃ」
ハヤシさんの作った書類にサインをしながら、エルフのおじいさんは本気なのか負け惜しみなのか分からない台詞を言っていた。
「完成には5日ほどかかる。それまでは族長のところで世話になるのだな」
「え。泊めてくれるんですか?」
それまで黙って部屋の隅に陣取っていたエルフの族長を見る。
族長はちらりとおじいさんの方を見て、そしてため息をついた。
「……狭くても文句を言わないならば泊めてやろう」
「やった! 助かります!」
「その代わり」
族長が俺とハヤシさんを見た。
そして後ろのロック、レオン、シャーリーに順番に視線を移す。
「宿代としてモンスター退治をしてもらう」
◇ ◇ ◇
近くの洞窟までやってきた。
宝石を採掘したり地下水を汲み上げるために掘り進められた洞窟に、厄介なモンスターが住み着いてしまったのだと言う。
ロックは「あいつら、これを見越して依頼を受けたんだな」とかぼやいていたが、モンスター退治なら俺たちの本領発揮だ。
一宿一飯の恩義というし、アミュレット作りも請け負ってもらえた。経験値も入るし、それで人助けもできるなら一石二鳥だ。どんどん倒していこう。
「ほらハヤシさん、あれがローパー」
「ああ、本当にナマコに似てるんですね」
「似てるんだ……」
本当にローパーに似てるやつ、食べるんだ……。
ハヤシさんと話したり、モンスターを倒したりしながら、洞窟を進む。
「ポイズントード、ドレインバット、パラライ鳥……状態異常系のモンスターが多いな」
「エルフが手こずるわけだ」
ロックが呟いた。
確かにさっきから、攻撃というより状態異常のスキルを避ける展開が続いている気がする。
シャーリーに回復してもらえば何とでもなるが、食らうと隙が出来て他の攻撃を受けやすくなってしまう。避けるのが一番だ。
「特にドレイン系は魔法使いと相性悪いからな。見ろよレオンの顔」
「うるさいぞ……」
レオンがげっそりやつれた顔をしていた。さっきマジックドレインを食らってごっそり魔力を持っていかれたのだ。
魔力をドレインされると魔法が使えないし、エナジードレインされるとただでさえ少ない体力が枯渇する。魔法使いには天敵だろう。
魔法による攻撃と弓術を得意とするらしいエルフにしてみれば、確かにここのモンスター討伐は他人に頼みたくなるかもしれない。
この狭くて見通しの悪い洞窟で矢なんて放ったら、すぐ仲間に当たりそうだしな。
ハヤシさんとシャーリーを庇いながら、洞窟の奥へ奥へと潜っていく。
「おわっ!!」
一際狭い道で、壁の穴からポイズントードが飛び出してきた。
慌てて飛びのきながら剣を振るうが、倒される直前のポイズントードが吐き出した毒の唾液が、こちらに向かって放たれて――
「ハヤシさん!!」
ハヤシさんの顔面に直撃した。
大慌てでハヤシさんに駆け寄る。
まずい、ポイズントードの唾液は攻撃力はないものの、ほぼ確実に食らった相手を毒状態にする。ハヤシさんの体力では、毒の状態異常で1歩でも歩いたら……死ぬ。
ハヤシさんの顔面を袖でごしごし拭きながら、シャーリーに呼びかける。
「シャーリー、早くクリアを、」
「はい、……あ、あれ?」
シャーリーが杖をハヤシさんのおでこのあたりに掲げて、そしてはてと首を傾げた。
どうしたんだ。もたもたしているとハヤシさんが死んでしまうぞ。
「ハヤシさん、麻痺してます?」
「麻痺? 毒じゃなくて?」
ハヤシさんの顔を見た。
毒状態だと顔色が緑になるのだが、ハヤシさんの顔はいつもの土気色だ。
不思議に思って、冒険の書を開いてハヤシさんのステータスを確認する。
ハヤシさんの名前の横に、黄色の雷マークが表示されていた。
「麻痺してる!!」
麻痺してた。
え? 何で? 毒じゃなくて、麻痺??
そういえば前、ドラゴンと相対した時にハヤシさん、麻痺がどうとか言っていたけども。
まさか状態異常の麻痺だと思わなかった。
「麻痺、ですか」
「ほら、ここに何かマーク出てるだろ」
「ああ」
ハヤシさんに自分のこめかみのあたりを差して示す。
他人には見えないが、状態異常にかかっていると自分自身には何の異常が現れているかを示すマークが見えるはずだ。
冒険の書にあるのと同じような雷のようなマークが、ハヤシさんの視界には常にチラチラしているはず、なのだが。
ハヤシさんはけろりとした顔で言った。
「これ、この世界に来た時からずっと出てるんです。ですからお気になさらず」
「お気になさるよ!!!!」
無理だよ。お気になさるよ。
超お気になさるよ。
じゃあハヤシさん、常にデバフかかった状態で生活してたの?
この世界に来てから今まで? ずっと????





