123.何その罪。 知らない罪。
「ただいま無料キャンペーン中でして、名刺だけでも」
「うちは間に合ってる」
「まずはお試しで構いませんのでぜひご用命を」
「興味ない」
「これまでも多くの地域で実績を」
「そいつがいるんじゃなぁ」
連敗だった。
それはそれは惨敗だった。
ほとんどハヤシさんが話してくれて、俺たちは紹介されたときに愛想よくしてみたり、頼りがいのありそうなポーズを取ってみたりしただけだけど……それでも、気が滅入る。
完全に門前払いって感じだ。
ちらりと横目にバルバを見る。村の人たちはやっぱり、バルバの見た目を怖がって断っているのもあると思うんだよな。
でも、もっと早く「オデ飽きたど!」とか言い出すかと思ったけど……バルバも俺たちと同じでしょんぼりした様子だ。
単に飯だけが目当てなのかと思ってたけど……本当は、仲良くしたいと思ってたのかな。
気分は落ち込むわ、精神的なダメージが体にもどっとのしかかってくるわで、かなり疲れていた。みんなげっそりしている。
……ただ一名、ハヤシさんを除いては。
「次に参りましょう」
一番最前線で断られているはずのハヤシさんは、いつもと変わらぬニコニコ笑顔を浮かべている。
ていうか、やっぱり何か……生き生きしてる、ような。
いや、生き生き、というのはちょっと違うか。楽しそうってわけじゃないもんな。何て言ったらいいんだろう。
「は、ハヤシさん。断られてばっかで疲れない? 俺代わろうか?」
「いえいえ。これが営業の本分ですから」
ニコリと微笑むハヤシさん。
営業の本分って……断られるのが?
「新卒で入った1社目……最初のギルドが、BtoCの業界でして。飛び込みもそれなりに経験いたしました」
「し、死地に……?」
「結果としてその会社は事実上倒産いたしましたが、経験としては生かせるかと」
「死地に飛び込んだ経験を……?」
そこで、はっと気づいた。
そうだ。ハヤシさん、生き生きしてるんじゃない。
命を削って輝いてるんだ。ギラギラしてるんだ。
まずい。ハヤシさんの何かがゴリゴリにすり減っている、はずなのに、麻痺しているハヤシさんはそれに気づいていないっぽい。
し、死ぬ????
ハヤシさん、死んじゃう????
「ハヤシさん! やっぱり俺が代わ」
「はいよー」
「お世話になっております、わたくし勇者パーティーの営業をしております、ハヤシと申します~」
間に合わなかった。
だから早いんだよ、ハヤシさん。
何で素早さが高いはずの俺をぶっちぎれるんだよ。
次の家から出てきたおじさんは、訝しげな顔をしているが……渋々ながらドアを開けて、ハヤシさんと対峙した。
すかさず、ハヤシさんが名刺を差し出す。
「勇者パーティーねぇ。勇者様が何の用だよ」
「こちらの村に滞在する間、お役に立てることはないかお伺いして回っておりまして。力仕事などあれば何なりとご用命ください」
「力仕事ねぇ……」
おじさんがちょっと、考えるような仕草をした。
あれ、これなんか、イケるんじゃないか?
「まずは初回無料でお引き受けしておりまして、2回目以降も現金のみでなく食料等の現物支給でのご依頼など複数のお支払方法をご用意しております」
「ほぉー、現金以外でもいいのか」
「はい。業務は我々勇者パーティーが責任を持って遂行いたします」
おじさんがハヤシさんの指し示した俺たちに視線を向ける。俺とシャーリーがバルバの両腕にぶら下がって力自慢アピールをしてみた。
きょとんとした顔でこちらを見ていたおじさんが、はっと我に返る。
そしてくわっと表情を険しくして叫んだ。
「か、帰ってくれ!!」
「はい、それでは失礼いたします」
「えっ」
ハヤシさんが目にもとまらぬスピードで退却していった。
思わず俺も他の皆も、帰れって言ったおじさん本人もぽかんとしてしまう。
はっと気を取り直して、慌ててハヤシさんを追いかけた。
「は、ハヤシさん! 帰っていいの? あのおじさん、他の人より話聞いてくれそうだったのに」
「はい。不退去罪になってしまいますので」
「ふたいきょ……?」
何その罪。
知らない罪。





