10.ようしじゃあアミュレットを作ってあげよう!
エルフのおじさんについていくと、集落の真ん中あたり、一番賑わう通りから一本入った先の窯場が備え付けられた家にたどり着いた。
見たところ普通の民家だが、ドアの上には金属で作られた看板が下がっている。
あの形は、蝶だろうか。それとも、妖精とか?
おじさんがドアを叩く。
ドアの中から、いかにも気難しそうな顔をしたおじいさんが現れた。
エルフで「おじいさん」ってことは、もう何百年も生きているんじゃないだろうか。
おじさんの方のエルフがこっちを振り向いて、おじいさんを指し示す。
「我が里でも腕利きの職人だ」
「……余所者を里に入れるとは、珍しいのう。族長」
「仕方なく、だ」
おじさんエルフは族長だったらしい。もしかしたら門番のエルフは俺たちを不審者だと思って、偉い人を呼んできたのかもしれない。
さすがに。いくらハヤシさんのボディーランゲージ能力が高くても。
職人のおじいさんに案内されて、家の中に入る。
床が草を編まれた絨毯で覆われていて、族長は靴を脱いで中に入っていた。俺たちもそれに倣う。
「現代語が出来る方を紹介してくださったんですね。ありがとうございます」
「……一定の年齢より上の者は大抵話せる」
お礼を言うハヤシさんに、族長がつんとそっぽを向いた。
そして部屋の奥に陣取って、腕を組んで壁にもたれかかる。
これ以上は手出し口出ししないぞという、これもある意味ボディーランゲージのようなものだろう。
俺はおじいさんに向き直って、言う。
「俺たち、このドラゴンの鱗を使って、ハヤシさんが装備できるアミュレットを作ってくれる人を探してるんです」
「……ほう。地竜の鱗か」
ハヤシさんが差し出した鱗を、おじいさんがつまみ上げる。
顎に手を当ててしばらく竜の鱗を眺めた後で、ちらりと俺たちに視線を向ける。
「どうしてこの里に来た?」
「え?」
「この周辺にはいくつかエルフの集落がある。他を当たるのだな」
おじいさんが俺たちに鱗を差し出した。
族長ほど厳しい口調ではないものの、俺たちを歓迎している様子ではないことが分かる。
だが俺たちもここまできて、成果が一角ウサギの角だけでは帰れない。
「ええと、でも、」
「近くの街で、こちらの里には魔力を使った加工に長けた職人の方がいらっしゃると伺いまして、まずはこちらにと思いまして」
食い下がろうとした俺の言葉にかぶせるように、ハヤシさんが言った。
あれ。鍛冶屋のおやじさん、そんなこと言ってたっけ。エルフの集落とは言ってたけど……いや、言ってたか?
ぴくりと、エルフのおじいさんの眉がわずかに動いた。
「こちらの里から出荷されたという、魔力を込めた宝石を使ったアクセサリーも拝見しました。私は素人ですが、店のご主人から評判を伺いまして。どれも地金から丁寧な細工が施されていて、魔石のカットも魔力の伝達効率を高める素晴らしい仕上がりだと」
「ああ、あそこの街か」
おじいさんが顎の髭を触りながら、頷く。
どうやらハヤシさんが話した内容で気分が良くなったらしい。少し雰囲気が和らいだ気がする。
作ったものを褒められて喜ぶのは、人間もエルフも変わらないみたいだ。
今度はおじいさんの方から話しかけてきた。
「では、あれを見たか?」
「あれ?」
「ルビーを使ったペンデュラムじゃ。あれは数か月前にあの街に卸したが、高価だからのう。まだ残っているはずだ」
おじいさんが、細めた目でちらりとハヤシさんを見た。
ハヤシさんはニコニコの愛想笑いを崩さずに、まっすぐにおじいさんと向き合って、そして。
「……いいえ」
首を横に振った。
……あ、あれ?
ハヤシさん?????
予想と違う返事に、隣のハヤシさんを凝視してしまう。
ここは、「もちろん見ましたよ」とか言って、さらに会話がいい感じに弾んで、なんか最終的に「ようしじゃあアミュレットを作ってあげよう!」みたいな、そういう流れじゃないの?
俺の視線はおそらく横顔に突き刺さっているはずだが、ハヤシさんはまったく気にする様子もなく、ただまっすぐにおじいさんと向き合っている。
ハヤシさんは少し首を傾げながら、やや困ったように頭の後ろに手をやって、おじいさんに答えた。
「私が拝見したのは、アメジストを使ったペンデュラムでした。こちらの里で作られたものと伺いましたが……私の記憶違いでしたら、申し訳ございません」
「……いや」
ふっと、おじいさんが口元を緩めた。
見ていないと言われたはず、なのに、どこか満足げな顔をしている。
「わしが記憶違いをしていたようだ。そうだった。あの街に卸したのは、アメジストで作ったものだったな」
そう言ってくつくつと笑う。
ハヤシさんもおじいさんに合わせて「はは、そうでしたか」とか言いながら笑っていた。
なに? そんなにウケるところあった??