足音
夜の帳が下りた町の大通りを歩いているのは、僕と僕と手を繋いでいる曾婆ちゃんだけ。
今日はクリスマスだというのに。
大通りに面する商店街の殆どの店が夜の帳が下りると共にシャッターを下ろしていた。
数年前、町の経済を支えていた工場が会社の方針で移転してから町はどんどん寂れて行く。
ボケてきて徘徊という名の散歩を楽しんでいる曾婆ちゃんはともかく、イルミネーションの灯りも無く雪が舞う寒い夜に大通りを歩くなんて嫌だ! 早く帰りたい。
「婆ちゃん、もう帰ろうよ」
僕の声が聞こえて無いのか、曾婆ちゃんは杖をつきヨチヨチヨチヨチと歩き続ける。
そんな時に僕の耳に沢山の人が歩くザッ、ザッ、ザッ、ザッという足音が聞こえて来た。
え、こんな時間に沢山の人の足音?
疑問に思い周りを見渡したら、車道を沢山の人……じゃ無い、背嚢と小銃を背負った沢山の将兵が歩調を整え行進していた。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ
大通りを大勢の将兵が昔兵営があった場所に向けて行進している。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ
将兵の顔は皆青白い、それに……それに……軍靴の音が周りに響いているけど、将兵の膝から下がぼやけてるっていうか……無い。
そう言えば昔戦争中、町外れにあった兵営から出陣して行った部隊が北方戦線で、クリスマス攻勢に出た敵の攻撃で全滅したと聞いた事がある。
そんな事を思い出していたら突然曾婆ちゃんが大声を発した。
「お父ちゃん! おかえりなさい」
曾婆ちゃんが行進する将兵の下にヨロけながら近寄ろうとしたので、後ろから抱きしめて止める。
将兵は曾婆ちゃんの「お父ちゃん! お父ちゃん!」という声を背に受けながら兵営のあった場所に向けて歩き続け、軍靴の音を響かせ雪が舞う闇の中に溶け込むように消えて行く。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ
闇の中に消えて行く将兵を見送った僕は、幼い子供のように「お父ちゃん、お父ちゃん」と呟き続ける曾婆ちゃんを抱きかかえ帰路についた。