表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編小説(ゆんちゃんのお話)

とんかつ〇〇〇なんて許せないっ!

作者: 歌池 聡


※ しいなここみ様主催『とんかつ短編料理企画』参加作品です。



『パパが出張から帰ってくる日の晩ご飯は、パパの大好物のとんかつ』

 これがゆんちゃん一家のお約束です。


 もちろん、ゆんちゃんもとんかつ大好き。

 せっかくなので、今日はママにちょっとしたお願いをしてみることにしました。 


「ママ、前にお店で食べた『梅シソとんかつ』がおいしかったんだ!

 ゆんちゃん、ママの『梅シソとんかつ』を食べてみたいな」

「あ、じゃ僕は『チーズとんかつ』で」


 かずや兄ちゃんも横で手を上げてます。


「うーん、作れないわけじゃないけど──」


 あれっ? ママは腕組みをして、何だかむずかしい顔です。

 いつもなら『あら、それもいいわね!』なんて言ってくれそうなものなのに。

 もしかして怒らせちゃった?


「あ、無理ならいいの! ママ、わがまま言ってごめんなさい」

「ああ、別に怒ってるんじゃないわよ」


 そうは言うものの、ママはまだ腕組みのままです。


「無理じゃないけど──何て言うか、それって『邪道』な気がするのよね」

「『じゃどう』?」


 よくわからないけど、どうもいい意味ではなさそうです。


「ほら、梅シソとんかつとかにすると、一枚全部がその味になっちゃうでしょ?

 それだと、とんかつ本来の味が楽しめないわよね。

 味変(あじへん)で一切れ食べるくらいならいいんだけど、全部がそれになっちゃうってのが、ママ的には許せないのよ」


 うーん、ゆんちゃんにはよくわからないけど、そこはママにとってゆずれない()()()()なようです。そういえば、ソースもあまりつけないんですよね。


「そっかー、ざんねんだけどあきらめるね」

「いーや、まだあきらめるのは早いぞ、ゆん!」


 ──え? かずや兄ちゃん、何そのドヤ顔?


「いつもママは4枚揚げるよな。そのうちの1枚を梅シソ、1枚をチーズにして、ぜんぶ4つずつにカットするんだ。そうしたらどうなる?」


 算数はちょっぴり苦手なゆんちゃんですが、食べ物のことなら話は別です。すぐに答えにたどりつきました。


「あっ、そうか! みんな梅シソ一切れ、チーズ一切れ、ふつうのが二切れ食べられるんだ!」

「正解。これならママのこだわりからも外れないし、僕たちの希望も叶うだろ?」

「すごい、お兄ちゃん天才っ!」

「──はいはい、わかったわよ。今日はそれでやってあげるわ」


 ママはあきらめたようにため息をつきました。


「うちの子たちって、変なところで頭が回るのよね。誰に似たのかしら」






 パパが帰ってきて、いつもの4人の晩ご飯です。

 ゆんちゃんがかずや兄ちゃんの天才的アイデアを説明するのをニコニコしながら聞いていたパパが、ふと思い出したように言いました。


「そういえば、3日前に松山でかなり珍しいとんかつを食べたぞ。ちょっとこれは、絶対に当てられないと思うな」

「ああ、どうせ間に何かを挟んだやつでしょ?」


 ママが面白くなさそうに答えて、かずや兄ちゃんが考え始めます。


「松山ってことは愛媛県──伊予柑(いよかん)のピューレとか──?」


 その様子を楽しそうに見ていたパパは、スマホを開いて写真をみんなの前につきだしました。


「じゃーん! これが松山名物『()()()()()()()』だっ!」






 からん──。


 ママの手から(はし)が落ちました。顔がホラー映画を見た時みたいにこわばってます。


「──い、いやぁねぇ。そんな、食べ物で遊ぶようなことをするなんて」


 パパが見せてくれた写真は、抹茶パフェのまわりにカットした薄めのとんかつが花びらみたいにささっている──まさに『とんかつパフェ』としか呼べないものです。


 これってたぶん、ママ的にはぜったい許せないメニューだよね。


「ど、どうせあれでしょ。写真映えとか受け狙いの、ネタみたいなメニューで──」

「いや、それがな。パパもそう思ってたんだけど、食べてみたら普通に旨かったんだよ」

「えっ、本当!? どんな味だったの?」


 おいしかったと聞いて、ゆんちゃんは興味しんしんです。


「ほら、甘いものを食べてる時に塩気のものを食べると、また甘さが引き立つだろ? とんかつがちょうどいいアクセントになるんだよ。

 食べ方にも決まりがあってな──」


 パパとゆんちゃんの会話が盛り上がってますが、ママはもう聞きたくないといったふうに渋い顔でもくもくとご飯を食べてます。

 すると、かずや兄ちゃんが何だかいたずらっぽい顔で言い出しました。


「あ、これって材料さえ揃えたらウチでも作れるんじゃない?」

「お、そうだな。ママに、ちょっと薄めの肉でとんかつを作ってもらって、あとは──」


「イ ヤ で すっ!」


 ママが泣きそうな声でさけびました。


「そんなの絶対作らないし、作っても絶対に食べないわよっ!」

「あれ、そんなこと言っていいのかなー?」


 ──あっ! かずや兄ちゃん、()()()()()をいうつもりなんだ!


 ゆんちゃんたちがママによく言われるセリフ──ゆんちゃんも一度言ってみたかったんです。

 それに、ママには悪いけど美味しいものには挑戦したいし。


 そこでゆんちゃんとかずや兄ちゃんは、息を合わせてママにこう言いました。


『ママ、()()()()()()()()()()()!』



松山名物『とんかつパフェ』は実在します!

(『桃〇郎電鉄』で初めて知りました)


実食したことはないので、味については実食した方々のブログなどを参考にさせていただきました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とんかつ短編料理企画←企画概要 ↓作品検索
9ylhi7kmbrbc1kmd23bmhqdyhyfi_4pq_dc_6o_4f0.gif バナー作成/ アホリアSSさま
― 新着の感想 ―
[良い点] 食べ物はもちろん玩具でもありますよね(*´艸`*) ママの主張もわかるけど、食の冒険なきところに進歩はありませんっ!(๑•̀ㅂ•́)و✧ とんかつパフェは食べたことないけど、絶対うまい…
[良い点] 相変わらず子ども達の頭の回転が早いですね。 私も成る程と思ってしまいました。 ほっこりとして和みました。
[良い点] とんかつをめぐるホームドラマ、ほっこりしました。 色々な味を楽しみたいという気持ちも、“邪道”という気持ちも分かってしまいます。 [一言] とんかつパフェ、検索してみたところなかなか強烈…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ