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最終話

 目の腫れがようやくひいたので、美月はバスケ部の練習に復帰した。少し気になる痣は、母親のファンデーションを借りて、塗り隠した。

 スメラギの事件は学校中に知れわたっていて、練習に出れば周囲の雑音がうるさいだろうとわかっていたが、美月はあえて部活に参加した。

 おもったとおり、先輩たちが口々に美月に話しかけてきた。銀髪のヤツとケンカしたんだって? 殴られたんだろ、乱暴なヤツだよな、生意気な一年だ……。スメラギに何も言うなと無言で約束させられた以上、美月の口から事情を説明するようなことは何も言えない。そのかわり、普段と変わらない姿をみせることで、たいした怪我ではないと無言ながら強く主張し、一人歩きしているスメラギに関する噂を否定してみせるつもりでいた。


 その日の放課後、美月は体育館裏でのびているスメラギを発見した。

 地面の大の字になって寝ころび、シャツのボタンがはじけとんではだけた胸には青あざがいくつも浮かんでいる。シャツには自分の血だか相手の血だかわかったものではない血の飛沫が点々とついていた。

「派手にやったね」

「返り討ちにしてやった」

 スメラギの傷めつけられようからだと、相手はその3倍の傷を負っているだろう。

 美月は、スメラギのかたわらに落ちているメガネを拾って手に取った。フレームは四方八方に折れ曲がり、レンズは抜け落ちてしまっている。幸い、レンズは傷がついただけで、割れてはいなかった。

「父さんに頼んで直してもらうから、当分はこれで。僕があつらえたメガネなんだけど」

 美月はカバンの中から新しいメガネを取り出した。事件の後、父親に磨き方を習って作ったレンズをはめこんだものだった。

 寝ころんだままの姿勢で新しいメガネをかけ、スメラギは具合を確かめるかのように、しばらく瞬きを繰り返していた。

「なあ、バスケ部に入らないか?」

 入部を誘う言葉がふいに口をついて出た。スメラギはいつもひとりでいる。だから、その心の内が誰にも理解されずに、外見の異様さだけで誤解されたり妙な噂がたつ。部活動でもすれば、仲間ができる。苦楽を共にしていくうちに、複雑なスメラギという人間を理解してもらえるようになるかもしれない。本当は、見捨てられたウサギの面倒をみるような優しいところのある人間なんだ。学校のみんなにもっとよくスメラギを知ってもらえたらと、美月は熱くなった。

「うん、悪かぁない」

 入部の誘いが聞こえていなかったはずはない。しかし返事はなく、スメラギはメガネをかけたり外したりする行為を落ち着きなく繰り返すばかりだった。

「お前、バスケ部なのか」

 新しいメガネがようやく顔になじんできたようで、スメラギはメガネをいじっていた両手を再び地面に大の字に広げた。

「ああ」

「背、でけぇもんな」

「うん」

 背が高いのはお互いさまだと、美月は笑った。

「バスケかー」

 反動をつけて起き上がったスメラギは、何かをつかみとろうとするかのように大きく両手を空にむかって掲げた。

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