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第1話

 「スメラギぃッ!」

 美月龍之介が職員室に入るなり耳に飛び込んできたのは、生徒を怒鳴りつけている生徒指導の角田の大声だった。唾を撒き散らす勢いの角田の前に、後ろ手に直立不動の姿勢を保つ少年がいた。

ブレザーの制服の袖は取れかけ、肩口からほつれ糸が垂れ下がっている。ネクタイなどはどこかへいってしまって行方不明、ボタンの弾け飛んだシャツの襟もとは、血とおぼしき赤茶けた染みで汚れている。

その視線は角田を通りこし、まっすぐに窓の外に向けられている。空はオレンジと水色の縞模様に染まっている。夕焼けの柔らかい光が差しこんで、その頭がオレンジ色に燃えている。

 富士見坂中学1年2組、すめらぎ拓也が職員室に呼び出される風景はもうおなじみだ。連日のようにどこかで喧嘩しては角田に呼び出され、説教されている。入学して1か月、ほぼ毎日のように続いて、スメラギと角田の日課と化していた。

 喧嘩の原因はスメラギにあった。生まれつきの白い髪、紫色の丸メガネを鼻先にかけ、睨むような目つきで誰とも口をきこうとしない。大人びてみえるのは何も背の高さのせいだけではない。邪気とはいわないまでも、何か得体のしれない冴えた空気をその身にまとって、他の子どもたちにはそれが怖くてたまらない。

 鬼の毛だの、妖怪だのと、スメラギは、その白い髪やメガメをからかわれ、からかわれては相手につかみかかっていき、毎日のように誰かと諍い事を起こしていた。

 中学に入学してすぐ、美月龍之介は、スメラギがあの時の少年だと思い出した。

 あれは2年前。父親同士が知り合いだというスメラギの父が美月家をたずねてきた。その時、父親の背中に恥ずかしそうに身を隠していたのが、11歳のスメラギだった。当時からくらべたら今は背もだいぶ伸び、顔も大人びてきていたが、見事な白髪だけは今もかわらず、銀色に光り輝いている。

 美月の家は、代々にわたって富士野宮神社の神主をつとめている。スメラギの父がたずねてきたその日、美月の父は、神社裏の洞穴で採れる紫水晶を削り出し、丸く磨いてメガネをつくった。興味深そうに父親の手元を覗きこむ美月にむかって父親は

「これはね、あの子にとってとても大事なものなんだよ。いつかはお前がこのメガネをあの子のために作ってやることになるだろうからね。よく見ておくんだよ」

 と言った。

 父の大きな手のなかで、メガネはキラキラと紫色の美しい光を放った。子ども心にもキレイだなあとおもったのを美月は覚えている。

 その時に父によって作られたものかどうか、紫水晶のメガネをスメラギは、入学以来かけ続けている。

 美月の方はその出会いを思い出したが、スメラギは覚えているのかどうか、同じクラスだというのに、目があっても声をかけるわけでもない。入学してから1か月がたとうとしているというのに、美月はスメラギと口をきいたことがなかった。

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