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7 横田と桃子4


 一方、桃子はその巨体に似合わず素早い攻撃で奈乃巴を圧倒していた。

 桃子の上段回し蹴りが奈乃巴の頭を狙う。


「ひっ」


 身を沈めて奈乃巴が避けると、唸りを上げて桃子の太い脚が空を薙いだ。その脚を素早く横蹴りにもっていく。奈乃巴は腕ごと蹴られ吹っ飛んだ。地面を転がりうつぶせで止まる。


「く、くそぅ、動けるデブかよ!」

「ぽっちゃりって言って」


 桃子はにこりと笑った。


「奈乃巴! 変われ!」


 天山が桃子に駆け寄った。奈乃巴は素早く立ち上がって蝶をまとう。桃子は蝶の幕を突き破って跳び蹴りを放ったが、そこに奈乃巴の姿はなかった。


「お前の相手は俺だ」


 天山が桃子を殴ってきた。桃子は上体をそらしてそれをかわし、そのままバク転して距離をとった。

 桃子と天山は対峙した。


「あなたの攻撃はわたしには効かないわよ」


 天山の歯がキリッと鳴った。


「それはどうかな」


 天山は素早く踏み込み鉤爪を振るった。桃子はスウェーでかわすと同時に前蹴りを放った。つま先が天山の腹に当たった。


「うっ」


 それほど強い当たりではなかったが天山の動きが止まった。桃子は軽いパンチを天山の顔に当てると胴体に回し蹴りを放った。いい音がした。


「くぅ」


 天山は煙玉を地面に投げつけた。


 ぼうん


「むっ」


 桃子は天山を追って前に出る。煙を抜けた先に天山の姿はなかった。


「あれ?」


 声を発したのと、後ろの殺気に気づいたのは同時だった。


「しまっ――」


 天山が横田の忍者刀を折ったのは左右から挟みこんだからだ。同じように天山の鉤爪が桃子の背中を襲った。


 ぼこん


「ぎゃあああああああ!」


 桃子の悲鳴とともに赤いしぶきが舞った。ぼとりと落ちた大きなかたまり。桃子は膝をつき、前のめりに倒れた。その背中は大きくえぐられている。桃子の体の下に赤い水たまりが広がっていった。

 それを見おろす天山の両手は真っ赤に染まっていた。


「残るはひとり」


 天山はくるりと振り返り、


「奈乃巴! そいつを逃がすな!」


 と叫んだ。




 横田にはなにがあったか見えていなかった。蝶の群れが邪魔をしていたからだ。

 天山の叫び声と同時に桃子との間に幕を作っていた蝶が横田に向かってきた。


――坂下はどうなったんだ?


 横田にその蝶は見えていたが、しかし、坂下が気になった。

 気をとられたのは一瞬だったが、忍者にとっては充分だ。横田は遠巻きに蝶に囲まれていた。


「ちぃっ!」


 横田が気づいたのと、天山が蝶の幕を突き破って襲いかかってきたのは同時だった。


「おらあああっ!」


 がいん!


 天山の牙吼拳は横田の忍法不動金剛によって弾かれた。


「くっそ、またかよ!」


 天山は横田の顔を軽く殴りつけたが、横田はびくともしない。


「天山!」


 奈乃巴が駆け寄ってきた。


「また硬化の術だ」


 天山はノックするように横田の頭を二回叩いた。しかし、天山に隙はなかった。横田が術を解けばすぐに殴りつけようと横田から眼を離さない。


「今度こそ!」


 奈乃巴が叫ぶと、横田の身体を無数の蝶が覆った。


「痺れさせて、八つ裂きにしてやる!」


 奈乃巴は自分を痛めつけた桃子の代わりに、横田をなぶり殺しにするつもりだ。


「ひひ」


 奈乃巴は笑った。眼を見開いた、狂気の宿った笑いだった。


 奈乃巴の後ろには、血溜まりの中に横たわる桃子の巨体があった。その背中が、もこりと盛り上がった。奈乃巴と天山は横田に気をとられていて気づかない。

 桃子の肉体は徐々に盛り上がりを大きくし、忍者スーツの背中が左右に開いた。白い桃子の背中が現れたが、それもまた左右に割れた。血は流れない。その間から音もなく、ぬるり、ぬるりとなにかが現れてくる。

 蝉が蛹からかえるように、桃子の背中から現れたのは、女だった。お腹と背中が大きく開いた、忍者スーツと同じ素材の競泳用水着にも似たものをまとっている。

 大きな乳房、引き締まったウエスト、形のいい大きな臀部でんぶ。すらりと伸びた脚は鍛え上げられていたが、太くはない。

 ゆっくりと奈乃巴に向けたその顔は、鋭利な刃物のような美しさを持っていた。

 忍法肉羽化蝉(にくうかせみ)! 太った肉体から骨格と筋肉、皮膚、その他もろもろを分離させる術だ。服を着ているのは、桃子が恥ずかしがり屋だからにほかならない。

 坂下桃子の中の人、いや、桃子本人が、太ももから腰、脇腹へと両手の指を滑らせると、その手にそれぞれ三本の苦無が現れていた。

 長い睫毛に縁取られた美しくも鋭い眼が、奈乃巴の背中を捉えた。

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