14 杉浦と辻村4
「へー、千早の技は忍術じゃなくて生まれつきの能力なのか」
辻村は千早と向かい合ったままだった。
「そうなの。だから、小さい時はいつもひとりぼっちだった」
「そうか。可哀想にな」
「でも、くノ一になって仲間ができたから。忍者だと誰もわたしを変な眼で見ないし」
「忍者には変な奴が多いからな」
千早は、ふふっと笑った。
「でも、時々間違って関節外しちゃって、痛い思いをさせちゃうの」
「それは困るな」
辻村は会話をしながらも、油断なく身構えていた。
門馬の棒が刀を横から叩く寸前、杉浦は手首をひねった。大太刀を振り下ろしながら門馬の棒を刃で受ける。
「なに!?」
そのまま振り下ろした大太刀は、刀身の側面で門馬の頭を叩いた。
がつん!
「ぐあっ!」
横から刀身を叩かれながらも頭に当てたのは、門馬の棒をあらかじめ予測していたからだ。幸い大太刀は折れなかった。
「ぐうっ」
忍者ヘルメットで受けたとはいえ、大太刀の衝撃は脳を揺さぶった。
ぼうん
門馬はたまらず煙玉を投げた。大きく飛び退る。
「千早! 助けろ!」
門馬は叫んだ。
「あ、辻村くん、ごめん。ちょっと用事ができちゃった」
「用事?」
「うん、すぐ戻ってくるから」
千早は身を翻すと駆け出した。辻村は、それが杉浦が戦っている方向だと、ちょっと遅れて気がついた。
「待て!」
辻村はあとを追った。やはり千早は杉浦のところに駆けていく。
「杉浦! 敵が行ってるぞ!」
「むっ?」
ヘルメットから聞こえる音で、辻村の叫んだ方向が杉浦には咄嗟にはわからなかった。おまけに千早が駆け寄るのは眼を閉じた方向だ。
杉浦の反応が一瞬遅れた。千早の手が杉浦の左肩に触れる。
ごき
「ぬうっ!」
杉浦の片手で横に薙いだ大太刀を跳んで躱し、千早は地面を転がった。すぐに起き上がって遠くへ駆けていく。
「待てっ!」
辻村がそれを追った。
「あれ? 来てくれたんだ」
千早が足を止めて振り返る。
「来てくれたじゃねえよ! 俺の仲間になにしてくれてんだ!」
辻村は千早と対峙した。
「だって、デスゲームだし」
千早はなんだかくねくねしている。
「そうだったな」
辻村は低く言って、苦無をどこかから取り出した。
「ま、待って、辻村くん。わたし、辻村くんと殺し合いなんかしたくない!」
「仕方がないだろう。俺たちは忍者だ」
辻村は腰を落とした。
「だ、だったら」
千早は辻村に真面目な顔を向けた。
「一緒に逃げよう!」
「え?」
辻村は二の句が継げなかった。
◇◇◇◇
「なにがどうなってるんだ、茜」
隼人は森に眼を向けたままつぶやいた。
「抜け忍は必ず捕まえられるのに。でも、あたし、あの子の気持ちもちょっとわかるな」
「どういうことだ?」
「ほら、あたしも子供のころ――」
「待て、そんな話は今どうでもいい」
「隼人」
「抜け忍が今出たらどうなるんだろうな?」
「知らねえよ」
「あ、なんだ、怒ったのか?」
「うるせえ」
ふたりは森を見つめた。




