夏休み 2
「おう!遅かったな。」
「大丈夫か?」
「光弘悪い!朝っぱらから電話しちゃって・・・大丈夫だったか?」
駆けつけた俺たちは、自転車のヘルメットをはずしている光弘へ我先にと言い寄った。
俺たちを見た光弘は、涼やかな目元を嬉しそうに少しだけ細めたが、すぐに表情を堅くしヘルメットを自転車のカゴの中に入れると、勢いよく頭を下げて謝った。
「遅れてすまない。嫌な夢をみて・・・シャワーを浴びていたら遅くなった。」
「なんだよ、誰も怒ってねえって。だいたい、遅刻なんてくそくらえだ。俺なんてしょっちゅうやらかしてるっつーの。」
光弘の頭をクシャクシャとかき回しながら豪快に笑う勝の横で、俺と都古は大真面目な顔をしておおげさなまでにウンウンとうなずいてやった。
とたんに勝は情けない表情になる。
「お前らひでえのなぁ。」
勝のおどけた様子に光弘も笑顔になりかけたが、再び表情を曇らせてしまう。
「心配させて悪かった。ありがとう。」
それから光弘は、少しかすれる声で俺に言った。
「電話・・・・・助かった。」
俺は光弘の首に腕を回しそのまま強引に引き寄せ軽く頭突きをした。
驚き、目を見開いている光弘の顔を覗き込み薄茶色の柔らかな髪を指ですく。
「光弘。お前、気にしすぎ。」
そう言って笑顔を向けると、光弘は顔を赤らめてようやくはにかむような笑顔を見せた。
ちょうど小腹も減ってきたので俺たちは裏の畑に野菜の収穫に向かうことにした。
ビニールハウスの中央で真っ赤に熟れているトマトをプツリともぎ取り、Tシャツでぬぐってそのままガブリと豪快にかぶりつく。
口いっぱいにジュワリとトマトの香ばしい香りが広がり、たっぷりとした甘く爽やかな果汁が乾いた喉を潤してくれる。
「俺ちょっと、トマトにもこいつ食わせてくるわ。」
俺はよく熟したトマトを1つもぎ取ると、ニカリと笑って言った。
「おい!俺もつれてけよ?」
歩き出した俺に勝が慌ててついてくる。
「トマト」は俺の愛犬の名だ。トマトが大好物というちょっと風変わりで愛嬌のあるかわいいヤツである。
このトマトに、「共食い~」などというくだらないセリフを放ちつつトマトを与えるのが、最近の勝のブームだった。