A25 今日より強く
別ルート編です。
「お2人とも、どうなされたのですか? 早く始めましょう!」
笑顔で近づいてくるマイカに恐怖しかわかないアタシら。
「ア、アズサちゃんからお先にどうぞ!」
こ、こここいつ!
アタシを生贄にしようとしてやがる!
「えっ?! い、いえいえハズキちゃんの方こそお先にどうぞ!」
「い、嫌ですの! 絶対に嫌ですの!」
「そんなにアタクシとやるのは嫌なのですか……」
アタシらが拒否するもんだからちょっと寂しそうなマイカ。
「い、いえ! そういうわけでは……」
「それではハズキちゃんはサクにお願いしますの! アズサちゃんはアタクシと」
「ひ、ひぃいいい……」
思わず漏れる悲鳴。
この世界にきて、ここまでの恐怖を感じたことがあっただろうか
あのアトラス大迷宮で戦ったダニの魔物よりも今のマイカが恐ろしい。
本人には絶対に言えないが……。
正直ハズキが羨ましい。
サクなら手加減も上手そうだし、特に魔動力がゼロだという話だからギアメタルを使っての魔法も発動できない。
つまりは単純な肉弾戦のみ。
それならまだ魔動力をこの制服に流して防御ができる。
実はこの制服には特殊な細工がされていて魔動力を流すと、強靭な防護服になるのだ。
その強靭さは本人の魔動力次第。
アタシらはもともと魔動力総量が多い体質だから、結構これに助けられていたのだった。
「ギギギッ?! な、なんかサクちゃんから人間からは決して鳴らないような音が聞こえますの! ちょっと、マイカちゃん?!」
もうすぐ開始というところでハズキの叫び声が聞こえた。
それに気を取られてしまい、ちょっとだけよそ見をしてしまった。
「せぇいっ!」
その瞬間にはもう、マイカの掌底がアタシの胴体を抉っているところだった。
「うぎゃんっ?! ……ぐへっ」
今まで体験したことがない凄まじい打撃で、正直内臓が全部口から出るかと思った。
いや、もしかしたらなんか出ているかもしれん……その後、壁へと打ち付けられた衝撃でアタシは意識を手放した。
アタシが目を覚ました時には、横に寝かせられている状態だった。
隣を見るとハズキも同じだ。
「オラッ! オラッ! オラッ! はぁ、はぁ」
「まだたったの532回だよ?」
「うるせぇ! オラッ! オラッ!」
「フン! フン! フン!」
「後200で3万回だよ! 頑張れ!」
「うぉおおおおおおおおりゃ!」
「おぉ! ちょっと伸びたぞ! もう一回いけ!」
「うぉおおおりゃぁあああああ!」
周りを見てみると、さっきの男子どもがそれぞれに不思議な訓練をやっている。
それらはどれも並大抵のものではない。
同じSクラスの者たちでも耐えられる者などいないだろう。
だというのに、この男子どもはみんなすごく楽しそうなのだ。
準備運動で弾け飛んでいた時から嬉しそうにしていたから、正直ヤバい奴らなのかと思って見ていたけど……。
そしてそれはマイカも同じ。
一際騒がしい場所に目をやると、サクとマイカが戦っている。
アタシらでは目で追うのがやっとだ。
あまりの次元の違いにどんどん自身をなくしていく。
「……挫けそう……ですの」
「……はい……」
気が付けばハズキも体を起こしていた。
「おまえら、あれ……目で追えるか?」
そばにいた、感じの悪い先生がそんなことを聞いてくる。
多分嫌味でも言われるのだろう。
「ギリギリ……というのは強がりで、ほとんど追えていません」
正直に答えた。
「今何時だ?」
「……14時ですの……」
つまり4時間くらいは気を失っていたことになる。
「あいつらは……まだ全く追えてねぇ」
「え?! でも……」
そんなはずはない。
あいつらはマイカの攻撃に合わせて衝撃を減らし、きちんと受け身を取っていた。
だからこそすぐに立ち上がることができたんだと思う。
「それにだ……俺らはここ最近まで一日中気絶していることもザラにあった」
「え?! だって……」
じゃあ、この状態はなんだってんだよ!
みんなイキイキしてんじゃねぇかよ!
逆恨みもいいところだが、アタシは怒りが込み上げてきた。
「あれ、ピンピンしているように見えるだろ? おまえらが来たから焦ってんだぜ? 見え透いた見栄なんか張りやがって本当にしょうもねぇクズどもだ」
は?
アタシら関係あんの?
「昔あいつらの中にあったのはお前らのような貴族への憎しみだけだった。それがあいつらを支えていたんだ。でもな、あの2人が入ってきて変わったんだよ。知ってるか? あいつらの目標は魔動兵団に入ることでも、えらくなることでもねぇ。【あの2人を守れるような男】になることなんだぜ? 笑えるだろ?」
「ハ……ハハ」
圧倒的な力の差を知りながら、自分たちが教わっているその相手を守るのが目標だなんて……カッコよすぎだろ。
「ハズキちゃん……」
「えぇ、アズサちゃん! いきますの!」
アタシらは手を取り合い、2人のもとへと歩み寄る。
そして再び全力でギアメタルを起動させるのだった。
それ以降の訓練は無我夢中であまり覚えていない。
その日どうやって寮まで戻ったのか、いつベッドで横になったのかもわからなかった。
アタシらが目を覚ますと、食事がベッド脇に置かれていたことからおそらくあの2人が気を使ってくれたのだろうと思った。
『体いてぇ……』
『ウチ、おしりがヒリヒリするわぁ。サクヤのやつ叩きすぎやねんて……いや、今日のは違うサクヤか』
『今日のサクヤはあの時のサクヤだったな。あのフードは正体を隠すためのものなんだろうな』
『せやろ。そっちもオトハにボコボコにされてたやん』
『前世でもそうだったけど、アイツのかわいい笑顔がトラウマになりそうやわ……』
『サクヤに手を出そうとしたバカな男子がオトハの笑顔で失禁したらしいもんな!』
『『アハハハ』』
少し冷めた夕食を取りながら、そんな会話をしていた。
『明日はやったるで!』
『あぁ! 今日よりもっと強く!』
『ウチらの目標のために!』
それから毎日、地獄のようなDクラスの訓練をこなしていったアタシらは飛躍的にその能力を上げていった。
そして、ギアバトル闘技大会を迎える。
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