A23 ド・ゲ・ザ
別ルート編です。
アタシらが目にしたあの桜色のマフラーは、前世でいつもサクヤが付けていたものと多分一緒だったと思う。
よくよく考えれば名前も「サク」だし、性格や雰囲気などとてもよく似ている。
しかし、アタシらの知る「サクヤ」は病気で体がとても弱く、少し動いただけで小さく息を切らしているような人物だ。
でもあのマフラーは……気が付けばアタシとハズキは食い入るようにサクに見入っていた。
もしかすると、あのフードが脱げて顔が見られるかもしれない。
まぁアタシらもこっちで顔が変わっているから、もしサクヤだったとしても分からないかもしれないけど。
それにおそらく記憶もないと思っている。
それでも見られずにはいられなかったのだ。
そんなアタシらの期待も虚しく、一瞬で勝負はつくことになる。
突然サクを囲っていた人たちが全員倒れてしまったのだ。
サクが何かをしたようには見えなかったけど、髪の毛が一瞬だけマフラーと一緒の桜色に光ったような気はした。
シーンと静まり返る会場の中、何事もなかったかのようにサクは戻って来た。
顔は無理でも、せめてマフラーを見せてもらえないか聞いてみようかと思っていたけど、すぐにアタシらが戦う番になってしまった。
まぁ選考会は軽く勝利して終わったけど、アタシらの頭はサクのことでいっぱいだった。
『なぁ、あれやっぱりサクヤだと思うか?』
『もうそうとしか思えへんねん……』
『だよな……それに加えてあのサクとマイカの雰囲気』
『あぁ。まんまサクヤとオトハやねん』
『やっぱりアタシが前世で最後に見たあれはオトハだったのかもな……』
『そうなんやろな……普通上階から真っ逆さまに頭から落ちたら助からへん。あの状況でオトハが死んでもうたなら、体の弱いサクは確実に生き延びれへんやろ』
『だな……つ~と、やっぱり今のマイカとサクは……』
『オトハとサクヤなんや……』
そう思うといろいろと合点がいく。
状況は違うけど、時頼見せるこの2人の雰囲気があの頃の仲睦まじい姿とかぶって見えるのだ。
でも2人には記憶がないはず。
その証拠にマイカやサクの前で日本語をしゃべっても無反応だったし、逆にマイカに日本語を教えたくらいだ。
アタシとハズキはもう2人をオトハとサクヤだと確信付けた。
そう思えるとなんかもっと親近感が湧いてきた。
その日の夜、ギアバトル闘技大会への出場を祝って軽めの祝勝会を開いていた。
「とりあえず4人で出場できてよかったですわね!」
「えぇ、とてもうれしいですの!」
「まぁまさかのDクラス2人の出場にいろいろと抗議がありましたが……」
「それでも最後はカミキ様が治められましたの」
そう、サクのことで頭がいっぱいだったけど、実は2人の出場決定にいろいろとクレームが出たのだ。
でも勇者カミキが登場し、一瞬でそれを静めてしまった。
さすがは全国にある魔法兵団の頂点に立つ男は格が違う。
「えぇ……マイカちゃんとしては複雑なのでしょうが」
それでもマイカは一度、その勇者にハメられて殺されかけていた。
その事実を初めて聞いた時のショックは正直大きかった。
「実は、お父様のことに関してはもう気にしていないのですよ。結果的にアタクシはサクと出会えましたし」
笑顔でそう言えるマイカは本当に凄いと思う。
それほどまでにサクの存在は大きいということだろう。
「それにしてもサクちゃん、まだ不思議な力を隠し持っておりますの?」
「そうですわ! サクちゃんのことはもうある程度わかったつもりになっていましたのに……まだあんな力を持っていらっしゃったなんて」
「あれは魔法なのですの?!」
まぁ聞いてみても想定通りに無反応なのは知っているけど。
だってサクヤだし……。
「ふふんっ! あれはですね、カミナリの力というのですよ!」
そして、決まってサクヤのことなら嬉しそうに口を開くのはオトハのいつものパターンだった。
覚えていなくても本当に変わらないんだな、この2人は……。
「カミナリの力ですか? それは即ち、あの雷ですか?」
「まだアタクシも詳しくはわからないのですけど、アトラス大迷宮で戦った白虎がそう言っていたのですよ! それに一瞬だけですが、あの時のサクと同じような状態でした!」
「びゃ、白虎?! それはあの、白虎ですの?!」
「えぇ! あの白虎ですよ!」
「このルドラルガの守り神である、あの白虎ですか?!」
「はい! その白虎ですよ! サクはその白虎と戦って勝っていますの!」
「「なっ……」」
またいきなりとんでもないことをぶっこんできやがって……
白虎っていったらこの国では誰もが知る守り神だぞ?
その存在を見たというだけで、誰も信じられねぇってのに……
ましてや戦った?!
そして勝った?!
とても信じられないことだけど、この子は前世から嘘はつかない。
ということはこれが全部本当だということだ。
この子らなら……今のアタシらを変えてくれるんじゃないだろうか。
そう思ったのはアタシだけじゃなかった。
「サクちゃん……」
「どうか聞いてほしいですの……」
気が付いたらアタシらは伝家の宝刀「ド・ゲ・ザ」をぶちかましていた。
「どうかアタクシたちを……」
「弟子にしてほしいですの!」
そして弟子入りを祈願した。
「このポーズは今のアタクシたちにできる全力の敬意の表明です!」
「これ以上のお願いのやり方をワタクシたちは知りませんの! ですが、この気持ちは本物ですの!」
両足をピッタリくっつけて、親指をピンと真っすぐ張る。
そして背筋を伸ばして胸を張り、両手は三角の形に合わせて肘は直角90度。
さらにそのままの姿勢で地面に額を付け、最後に額を地面に擦り付ける。
これぞアタシらの伝家の宝刀「ド・ゲ・ザ」だ!
これをやるとだいたいのことは許されるのだ。
宿題を忘れた時も、部活をサボった時も、門限を守らなかった時も、困ったらこれをやる。
これ以外に全力のお願いの仕方をアタシらは知らない。
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