072 うごきだすかげ
そろそろ第二章も終盤です。
残り数話で第三章に入っていきます。
私が妹っ子の大手術をしている間、ギアバトル闘技大会は何事もなく通常通りに行われた。
大会中のケガや重症は珍しくもなく、過去には死者を出したこともあるらしいからそこまで騒ぎ立てることもしないのだろう。
1回戦はマイカが勝ち、妹っ子は負けて1勝1敗の状態だったけど、第3試合と第4試合をあの2人がそれぞれ連続で勝ち抜けマキシム学園は一回戦を勝ち上がった。
因みに妹っ子のように負けてしまうと、もう次の試合に出場することはできないシステムらしい。
だから私たちは今後4人で戦っていくしかない。
それでもまだ4人残っているのはいい方だ。
他の学園とか、最終試合までいっちゃって残り1人しかいないとかいう学園もいるからね。
このバトル闘技大会は先に3勝を勝ち取るか、もしくはメンバーを全滅させるかで勝敗が決まる。
だから1人しか残っていなかったら、最悪3人と戦わなければいけないパターンもあるわけよ。
そんなん無理ゲーじゃんということで棄権する人もいたみたいだけどね。
そんなこんなでとりあえず1日目は終了。
大会は決勝まで勝ち進むと5日間ある。
あのクズ神の予言が本当なら事が起きるのはその5日目。
それまではこの大会に勝ち残っておく必要があるのよね。
大会で敗れると、その学園の生徒は全員この広い選手エリアにはいられなくなって、一般エリアに移されてしまうのよ。
そこからだと距離が遠すぎて、事が起こった時に対処しきれないからね。
全くめんどくさいったらありゃしない。
それから私らは順調に2日目、3日目と試合を勝ち進んでいく。
その間誰も試合には負けていない。
妹っ子も3日目には病院から退院して、宿泊施設へと戻って来た。
自分だけが負けて惨めな思いをしているかもしれないとマイカが心配していたけど、多分あの子は大丈夫だと思う。
一応私が命を助けたというのをあの医療班の人たちから聞いたらしく、引きつった笑顔で足をグリグリ踏まれながらお礼を言われた。
どうしても私のことは気に入らないらしい。
妹っ子が試合に出ることはできないけど、どうやら会場には入れるみたいでまるで監督のような風貌でベンチに座っている。
そして4目の夜。
ついにあの魔族の子2人が動き出す。
それまでは一切目立った動きがなくて、私も困っていたところだった。
盗聴や監視も続けていたんだけど、試合が終われば宿泊施設にすぐ戻るし、会話もただの日常会話しかしなかったのよ。
魔族が一斉に攻め込んでくることはわかっていたから、夜通し分身体で辺りを捜索していたというのに、全くそれらしき痕跡もなかった。
おそらくこの国のどこかにアトラス大迷宮への入り口があるはず。
そこからじゃないと大量の魔族がやってくることはできないはずだからね。
しかもそれには重大な制限があるはずだったけど、それは今私の目の前で崩れ去った。
今、この夜中に魔族の2人が来ている場所はこの王国の国王がいる城。
どうやらここで会談をするようだ。
『本当にいいんだな? 絶対に後悔しないんだな? 今にも後悔しそうなヤツならここに約1名』
『後悔してるよぉ~! さっきのケーキ、やっぱりあっちにしておけばよかったよぉ~!』
『そうではない! 明日のことだ! そしてその大量の鳥たちはどこから連れてきた?!』
『なんかピヨピヨって鳴いてみたら~ついて来ちゃったぁ。てへっ』
『呆れてなにも突っ込めないやつがここに約1名』
今日は日本語で会話してんのね。
頭にたくさんの鳥を乗せてとても楽しそうだわ。
それにしても……まさかこいつまでやってくるなんてね。
「おいおい、バカ女ども。ノロノロすんなよ、殺すぞ?」
その威圧で一斉に鳥たちが羽ばたいて逃げてしまった。
城の方からやって来たそいつは、クリスを一瞬で殺し、私が忍気95%の状態でもまるで歯が立たなかったとんでもない化け物のあいつだ。
あいつは自分のことを使徒だと名乗っていた。
そいつらは3人で城の中へと入っていく。
後を追いたいけど、あの使徒にはこれ以上近づくとおそらくバレる可能性が高い。
だから、あの魔族の子に仕掛けた盗聴器で話を聞くだけしかできなかった。
「よっ、早速始めようか。国王さんよ」
「は、はい。よろしくお願いします」
「ぶ、無礼であるぞ! もっと言葉の使い方を……ぎゃああ?!」
「ひぃいい?!」
「うるせぇ、いちいちうろたえんな。黙ってオレのいうことを聞け。そしたら悪いようにはしねぇんだ」
「も、もちろんでございます! 我々テンガラスはあなた様に逆らうつもりなどございませぬ!」
「それでいい」
なるほど……会話を聞いた限りの内容をまとめるとこうだ。
明日の決勝戦前に作戦を決行する。
決勝の前にこの国の国王がデモンストレーションという名目でイベントを起こす。
その時、一斉に魔族が攻め込んできて人族を殺す。
ただし、この国の国王や国民は魔族側に協力する代わりに殲滅の対象から外されている。
まぁだいたいそんなところね。
会談を終えた3人はまた入り口へと戻って来た。
「ん? おまえら、なんか妙な匂いがすんな……これか?」
「きゃっ?!」
「おまっ、なにをするのだ! 気安く触れるな!」
「騒ぐなよ、これだ」
「え? 桜……の花びら?」
まずい……桜飾がバレてしまった。
「ひっひっひ……楽しみだな」
「え?! それはどういう……」
「なんでもねぇよ。これはオレがもらっとくぜ!」
「どうしてこの世界に桜の花びらが……」
「そんなもんはどうでもいいんだよ。それよりもおまえら、自分の仕事を忘れんなよ」
「わかっている……決勝戦セレモニーの開始と同時にあの国王を自分たちが殺せばいいのだろう?」
「それができなかったらあの2人を殺す。そういう約束だ」
「……」
「まぁいいさ。そのあとはオレがうまくやる。おまえらは適当に逃げろよ? じゃあな」
あの化け物はどっかにいったみたいね。
発信機の位置が遠くに離れていく。
つーか、あいつどんなスピードしてんだよ。
『本当にいいのか? 自分は……』
『大丈夫だよ。あの2人のためなら……それにホノカがいるじゃん』
『ミサキ……』
この子らにもいろいろと事情があるんだろうね。
でも申し訳ないけど、これを聞いた以上は私も全力で阻止させてもらうよ。
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