071 しゅじゅつ
「一体なにが起こったというのでしょうかぁ?! 突然メイナ選手は倒れて動かなくなってしまったぁ!」
「試合終了! 勝者、ロドリグ学園のタカシ・ヤマモト選手!」
「あの……それはいいっすけど、その子もう死ぬ寸前っすよ? 結構強かったんで本気出しちゃいましたし」
「救護班急げ!」
マイカや私、アズサとハズキが妹っ子へと駆け寄る。
「メイナ! メイナ! 目を開けて? メイナ!」
「い、今救護班が来ますの!」
「一体なにが起こったというのですか?! あなたはこの子に一体なにをしたのです!」
「お、おいおい。一応オレは勝者だぜ? 突っかかるなよ。ただ、体の内部で砂を爆発させただけだ」
「なんですって?! それじゃあ、メイナ様の体は……」
「あぁ、結構ヤバい状態かもな! 運よく生き延びたとしても、長くは生きられねぇかもしれねぇなぁ」
「あ、あなたは!」
「はい、救護班です! 道を開けてください!」
やっと救護班が到着し、妹っ子の症状を見る。
「これは……おい、急いで運ぶぞ」
「はい」
妹っ子はタンカーに乗せられ、救急室へと運び込まれる。
私たちはそれに付いていく。
「サク……あの子大丈夫だよね? 死んだりしないよね?」
「……」
「マイカちゃん、きっと大丈夫ですの!」
「えぇ、きっと大丈夫です! 信じて待ちましょう」
「……メイナ……」
全く、今まで散々命を狙われてきたというのに……。
どうしてそんなに涙を流せるのよ。
でも、妹っ子が倒れるその瞬間に言った言葉……ぅぅん、声を出せない状態だったから唇が動いただけなんだけど、読唇術を身に付けていた私だけに伝わった言葉……「お姉ちゃん」
あの子本当は……スマコ。
《はい、サクヤ様》
私に力を貸しなさい。
《はっ、仰せのままに》
私は瞬時に分身体と入れ替わり、妹っ子が入った救急室へと入り込んだ。
それにマイカだけが気が付いていたけど、私の分身体の手を強く握りしめていた。
救急室へ入ると、医療班の人が頭を抱えていた。
「これは酷いな……」
「あぁ、ここにある最高級医療用のギアメタルを持ってしても、肺と喉の完全な復元は無理そうだ」
「ここで命があったとしても、数日の命か……」
この人たちの見立ては正しい。
他の体の内部はほとんどが綺麗に治療されているんだけど、特に損傷が激しかった肺と喉は壊滅的だった。
逆に言えば、よくぞここまで修復したとさえ思えるわ。
さすがは魔法がある世界。
非科学的なことも簡単に可能にしちゃうから、それができない私からしたら嫌になるわね。
でもこれだけ魔法が流通しているということは、本当の医療を知らないということ。
だから私は医療に頼る。
スマコという名医の指示のもとに、私が全力でそれに応えよう。
《それでは手術を始めます。メス》
メス?!
……メス
メスの代わりに、背中へ隠してあった雷丸を取り出して、鞘を抜く。
そしてゆっくりと妹っ子へと近づいていく。
「な、何者だね君は!」
「一体なにをするつもりだね?!」
「ひ、人殺しだぁあ!」
何やら外野がうるさいけど、私は今それどころではない。
すぐに私は転身機であるマフラーを妹っ子にもかけて、忍気を全力で発動させた。
細心の注意を払いながらスマコの指示のもと、妹っ子の体にメスを入れていく。
そして、ある程度は魔法で形が戻っている傷ついた肺に、特殊糸を通していく。
「ま、待て……これは」
「おぉ……」
さっきまで騒いでいた人らが、食い入るように見ている。
正直マジで鬱陶しい。
もっと離れてほしいのだけど。
《サクヤ様、集中してください。その位置からは0.1ミリメートルでも切除する場所がズレると妹っ子様の命はありません。さらに人口呼吸器や輸血設備がないため、時間との勝負です。今より1.3倍スピードを速めてください》
了解。
続けましょう。
スマコの指示した通りに私は全力で動くだけ。
転身機を通してスマコも補助を手伝ってくれている。
気が遠くなりそうなこの大手術をスマコと力を合わながらやっていく。
そして、峠は越えることができた。
「な……なんという」
「す、すばらしい」
そんなのいいから、もう一度回復魔法をかけろバカども。
私が息を切らしながら医療用だと思われるギアメタルを指さすと、それを察した医療班の人たちはすぐにまた回復魔法をかけ出した。
するとスムーズに呼吸をし始めた妹っ子。
《これで一安心です。少し眠れば、回復へ向かっていくでしょう》
そう。
さすがに疲れたわぁ……私も少し眠りたい。
分身体を通して状況を見てみると、すでに1回戦は終わっているようでこの部屋の扉の前で3人が心配そうな顔をして待っていた。
私は扉を開けて3人の前に姿を現すと同時に分身体を消した。
「サク! メイナは?!」
部屋の中を指さすと、すぐに3人はその中へと入って行った。
私はすぐ近くにあったベンチに横たわるとそのまま意識を手放したのだった。
ふと息苦しさを覚えて、私は目を覚ました。
どうやらここは私たちが寝泊まりしている宿泊施設のベッドのようだ。
どうして私はこいつの胸に埋もれているんだ?
窒息させる気か?
そのデカいのモグよ?
「あっ……ごめん。起こしちゃったかな?」
「……ぅん」
「サク……ありがとう」
「……ぅん」
まぁそんな顔を見せてくれるなら……私も頑張った甲斐があったわね。
なんとなく頭をナデナデしてみる。
《サクヤ様も随分と変わられましたね》
そう……なの?
自分ではよくわかんないよ。
「あ、あのぉ……イチャイチャしているところ非情に申し訳ないのですが……アタクシたちがいることをお忘れではありませんよね?」
「はっ?! ご、ごめんなさい……思わず……」
「もう見慣れましたの! サクちゃんも起きられたようなのでそろそろご飯に行きますの!」
「アハハ……はい、参りましょう!」
「「はい!」」
私は忍気を戻すため、いつもより多めに夕食を取った。
すると、裏の厨房でコックが2人ほど倒れたという事実を後から聞いたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
もしよろしければブクマや評価をしていただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。