A19 転生者の宿命
別ルート編です。
徐々に迫りくる人の気配。
正確な人数は全くわからないけど、2人だけではなさそうだ。
『おい……これまずくねぇか?』
『せやな……ウチら勝手にあの2人だけがやってくるもんやと思うてたけど……』
『何十人っているような気がするのは、アタシの気のせいか?』
『残念ながら気のせいやあらへん。こりゃあ、ウチらも覚悟決めなあかんな』
『あぁ、この後ろにはマイカとサクがいる。それにアタシらにも死ねねぇ理由がある』
『その通りや! いくで、アズサ!』
『あぁ、ハズキ!』
アタシらは暗闇の中で蠢く影に向かって先制攻撃を仕掛ける。
「フレイムブラスト!」
ハズキは自身のギアメタルであるバクエンでドデカイ拳の形をした炎を放った。
「ぎゃぁああ?!」
「なっ?! なんだ?! なにが起こった?!」
「おい! まさか襲撃がバレているんじゃねぇのか?!」
「そ、そんなはずは……あ! あそこに2人います!」
「なんだ学生か? さっさと始末しろ。時間がない」
「はっ!」
向こう側は思わぬ逆襲撃にうろたえている。
ハズキの炎のおかげで、敵の位置はある程度把握できた。
後は私が流れる水のごとく刃を振るうだけ。
「アクアトーレント」
アタシが自分のギアメタル、スイリュウに水を纏わせてそれをもの凄い勢いで回転させると、刀身に纏わせた水がどんどん激流を生んでいく。
そして、敵が見えた位置まで突っ込んでそのスイリュウを振るう。
それに触れた者は水の激流で吹き飛ばされることになる。
「ぐぁああああ」
「ぎゃぁあああ」
「こ、この! がぁあああ?!」
今のアタシのスイリュウはギアメタル同士の接触でも負けない。
このアクアトーレントはスイリュウを回転させればさせる程に激流を生んで強靭になるのだ。
アタシはそのまま止まることなく、流れるような剣捌きで次々に相手を吹き飛ばしていく。
「調子に乗り過ぎだ」
「くっ……」
そのアタシのスイリュウを、同じ剣型のギアメタルで真正面から受けた者がいた。
この声は間違いなくあの時に会話をしていた日本人のうちの一人だ。
スイリュウが止められたことで水の激流がなくなってしまった。
無防備になったアタシへ一斉に飛び掛かってくるたくさんの人影が見えた。
「フレイムピラー!」
そこへ私を中心に炎の炎柱が立ち上がり、飛び掛かってきた人たちをけん制する。
「ハズキちゃん!」
「えぇ! いきますの!」
「ちっ! おい、ここはオレたちでなんとかする。お前たちはターゲットを殺せ」
「はっ!」
「あ、待ちますの!」
「おっと、いかせねぇよ!」
「くっ?!」
「おまえらはオレらと遊んでもらおうか? くっくっく」
「よく見ると、おまえら2人とも上玉じゃねぇかよ」
「アズサちゃん! このままではマズイですの!」
「えぇ、不本意ですが今はマイカちゃんの命が優先です!」
「フレイムバーン!」
ハズキが地面に拳を叩き付けて爆炎を上げる。
その隙に寮の方へと全力で走り出す。
「あ、コラ!」
「待ちやがれ!」
それに気が付いてアタシらの後を追って来る2人。
「アズサちゃん、あいつら足が速いですの! このままでは……」
「……ハズキちゃん、マイカちゃんをお願いします!」
「アズサちゃん?!」
「行って下さいまし! 絶対にマイカちゃんを救って下さい!」
アタシは立ち止まり、2人を待ち構える。
「くっ……絶対に戻ってきますの! 必ず無事でいますの!」
「はい!」
「ちっ……1人行っちまったかぁ」
「まぁ大丈夫だろう。オレたちはターゲットを殺せればそれでいいんだ」
『なぁアンタら、なんでこんなことをやってんだ?』
アタシはわざと日本語でそう問いかける。
『はぁ?! おいマジかよ!』
『おまえ、日本人か?』
アタシはハズキが戻るまで絶対に生き残る必要がある。
戦っても勝ち目がないことはさっき剣を交えてわかっていた。
だからこそなんとか時間を稼ぐ必要があると考え、日本語で喋りかけるという方法を取ったのだ。
『あぁ。アタシはもと日本人だ』
『バカな……おまえ記憶が残っているとでもいうのか?!』
『まさかこいつもてんし……いや、そんなはずはありえない……だとすると、バグか?』
記憶が残っていることがありえない?
バグ?
なにをいっているのかいまいちよくわからない。
『アンタらも前世の記憶があるんだろ? なにを不思議がっているんだ? 向こうからこっちに来た人間は全員がそうなんだろ?』
『そんなことはありえねぇんだよ! 普通は全員記憶を消されているからな』
『な……なんだって?!』
それじゃあ、もしミサキやホノカを見つけたとしても記憶が無かったとしたら……
『じゃあなんでアンタらは記憶があるってんだよ!』
『それはオレたちが神に従える使徒に選ばれたからだ』
『神に従える使徒だぁ?! なんだよそれ、バカにしてんのか?!』
『まぁ普通はそう言いたくなるよな。ちなみに俺らが従える神とは違うが、この世界にも神はいるんだぜ?』
『オレたちはその神の封印が解かれないようにいろいろとこき使われてんだよ』
『まぁ転生者もその封印の糧とするためのただの生贄だしな』
この世界に神?!
アタシらはただの生贄?!
いきなり話がぶっ飛んでいて、とてもついていけない。
確かにこの世界を作った神がいることは小さい頃に神話として聞いている。
でもそれは前世でも同じようなことだったし、その程度のものだと思っていた。
『生贄ってどういうことだよ! その神が今、封印を解こうとしているっていうのか?』
『あぁ、現に7つある封印のうちの1つはもう破壊されているからな』
ヤバい……頭が破裂しそうだ。
でもアタシが聞いた神話では、この世界を作った神は平和を願うとてもいい神だという内容だったはず。
『本当にその神が存在していたとして、その封印が解かれればこの世界は平和になるんじゃないのか?!』
『それだと困るんだよ。この世界は破滅と殺戮に狂ってなきゃオレたちもいろいろと楽しめねぇじゃねぇか』
こいつら……やっぱり狂ってる。
『おい、なんでおまえにこんな話をしたかわかるか?』
『っ?!』
『おまえをあの方のもとへ連れていくと決めたからだ!』
アタシは完全に気を抜いていた。
というよりも、内容が衝撃的すぎて唖然としてしまっていたのだ。
その無防備なアタシへ、2人がすぐそこまで迫っていた。
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