070 はいぼく
岩石地帯に作られたバトルスタジアムに立っているマイカと相手選手の子。
「審判は魔動兵団の軍隊長様たちが行ってくださいますので、両選手は思う存分戦ってください。それでは、開始!」
「数多の光を浴びて咲き誇れ、ピコアルゴン!」
ロドリグ学園の生徒は、大声で大変恥ずかしいことを叫びながら、両腕に装着する大砲のような見た目のギアメタルを起動させた。
『あいつなに言うてんねん、アホちゃうか?』
『おい! 日本語で突っ込むなよバカ!』
まぁそう言いたくなる気持ちもわかるわね。
でも観客たちは大盛り上がりだ。
それに対してマイカは微動だにしない。
「おいおい、もう戦意喪失かぁ? くっくっく、そんじゃ軽く終わらせてやるぜ!」
「ロンド、いっけぇ! そんなへなちょこさっさとぶちのめしてやれよ!」
「おうよ! 我99番目の奥義をとくと見よ、鳴り響け咆哮! 轟け衝撃波! エクスブラインドマジカルブラストブレイカー!」
またしても恥ずかしい言葉を惜しみもなく披露するロドリグ学園の生徒。
両腕の大砲型のギアメタルから放たれた金色の波動がマイカへ迫る。
「おおっとこれは凄い! ロンド選手の凄まじい魔法だぁ! さぁ、マイカ選手はこれをどう切り抜けるのかぁ?!」
それに対して、大盛り上がりの実況席と観客たち。
「フレイム……バレット」
マイカは杖のギアメタルへ魔動力を流し、火球魔法を放った。
「そんな初級魔法でこの奥義が……へ? はっ? ぎゃぁああああああ?!」
ロドリグ学園の生徒が放った波動はマイカの火球魔法であっさりと消え去り、そのままその生徒を直撃してウグイス嬢が座っていた実況席の目の前まで吹き飛ばす。
その勢いでガラスに小さくヒビが入り、ウグイス嬢は驚いて後頭部から地面へ落ちることになった。
「それまで! ロンド選手、戦闘不能! 勝者、マイカ・カミキ選手!」
歓声が上がる中、マイカは何も言わずにスタスタと私たちの元へと戻って来た。
私が座っている隣の椅子に座り、なぜか私を自分の膝に座らせる。
「お、お疲れ様ですの……マイカちゃん」
「はいです! ちょっとだけスッキリしました!」
「初級魔法に見せた中級魔法……お見事でしたわ」
「どうもです! でもちゃんと威力は抑えましたよ?」
「アハハ……そうじゃなかったら今頃相手の方は帰らぬ人になっていますの」
マイカの本来の力を100%にすると、今は60%くらいに制限されている状態かな?
それでもあの威力の魔法が撃てるのか……あれ?
これって、私よりも強くなってきていない?
「凄まじい威力の魔法を放ったマイカ選手の勝利によりマキシム学園が一歩リードしました! さぁ、ロドリグ学園はその後を追うことができるのかぁ? 第二試合の対戦は、こちらです!」
実況のおじさんがそういうと、観客たちが後ろの掲示板へと視線を移す。
「マキシム学園、メイナ・カミキ選手対、ロドリグ学園、タカシ・ヤマモト選手です! お2人はバトルスタジアムへとお入りください!」
ウグイス嬢が目を回しちゃったから、あのおっさんが一人で喋っているわね。
それにしてもタカシ・ヤマモトなんてメッチャ日本人っぽい名前だわ。
というか、妹っ子いたのか……存在感がなさすぎよ。
「メイナ……」
「メイナ様、頑張ってくださいね!」
「応援しておりますの!」
「……」
おいおい、無視ですか。
もうちょっと愛想よくしてもいいんじゃないの?
《それをサクヤ様がおっしゃるのですか?》
「それでは両社揃いましたので、第二試合を開催いたします! はじめっ!」
「くそロンドのやつ、気を抜きやがって……さっさとやろうぜ? 時間がもったいねぇ」
「えぇ、そうですわね。それでは……」
「ほう? それがお前のギアメタルか? いかすじゃねぇか!」
「それはどうも。そちらも早く起動させてくださいまし、撃ちますよわ?」
やっぱりアンタは銃のギアメタルなのね。
久しぶりに妹っ子にしかけた盗聴器をONにしたから会話が良く聞こえる。
「ははっ! すでに起動して攻撃されてんのにも気が付かねぇのか?」
「なんですって?! あがっ?!」
相手は一歩も動いていないというのに、いきなり妹っ子がその場に倒れた。
アイレンズでスキャンしてみると、過呼吸みたいな症状に陥っている。
「メイナ?!」
「一体どうして?!」
「何が起こっていますの?!」
あの砂埃……まさか?!
《サクヤ様の推測通りです》
なんてこと……一見目に見えないような砂埃が実は相手のギアメタルで発生させていたものだった。
その小さな砂の粒子は妹っ子の体の内部へと侵入して肺を覆い尽くし、呼吸をできなくしてしまったんだわ。
こんなギアメタルもあるのか……これじゃあ人間である以上は太刀打ちできないじゃん。
「メイナ……もういいですの! 早く降参してください!」
「……ゴホッ……」
そう叫ぶマイカに対して、睨み付けながら必死に口をパクパクさせる妹っ子。
呼吸ができないから、しゃべることもできないのね。
でもあれは、余計なことを言うなって顔だわ。
妹っ子は立ち上がると、魔動力をふんだんに銃のギアメタルへ注ぎ込んで、思いっきり引き金を引いた。
その拳銃から放たれた炎の弾丸がロドリグ学園の生徒へと迫る。
だが、無情にも相手の肩を掠めるだけに留まった。
「おわっ?! その状態で動けんのかよ! あっぶねぇ……んならもう容赦はいらねぇな? 死んでも恨むなよ? サンドデトネーション!」
「っ?!」
妹っ子は一際大きく痙攣して血を流し、倒れてしまった。
まずい!
妹っ子の体の内部に入り込んだ砂の粒子が爆発した?!
砂一粒の爆発は小さくても、体の内部組織で起こった爆発だ……表には見えないけど、もう妹っ子の体の内部はズタズタになっている。
早く治療しないと取返しのつかないことになってしまう!
私が動き出すよりも早くマイカが既に飛び出していた。
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