067 これはくんれん?
「お2人とも、どうなされたのですか? 早く始めましょう!」
「ア、アズサちゃんからお先にどうぞ!」
「えっ?! い、いえいえハズキちゃんの方こそお先にどうぞ!」
「い、嫌ですの! 絶対に嫌ですの!」
「そんなにアタクシとやるのは嫌なのですか……」
「い、いえ! そういうわけでは……」
「それではハズキちゃんはサクにお願いしますの! アズサちゃんはアタクシと」
「ひ、ひぃいいい……」
一体昨日の威勢はどこにいってしまったのやら。
まぁ心配しなくてもアンタらは強いから大丈夫よ。
明らかに周りとは違った魔動力量だもんね。
魔動力の総量だけでいえば間違いなくこの学園一番よ。
後はどれだけそれを出力できるかだね。
「正直サクちゃんが相手でよかったですの……まさかマイカちゃんがあんなにも強くなられているとは思いもしませんでしたの」
「……」
「え、えっと……よろしくお願いいたしますの」
「……」
ギギギ……
「ギギギッ?! な、なんかサクちゃんから人間からは決して鳴らないような音が聞こえますの! ちょっと、マイカちゃん?!」
「せぇいっ!」
「うぎゃんっ?! ぐへっ……」
「ふぅ……あ、今のサクはサクじゃないので、まだ優しい方ですよ!」
「アズサちゃん?! どうして頭から壁にめり込んでいますの?! それよりもサクちゃんがサクちゃんではないとは一体どういう……ぶっほぉおおお?!」
「あ、ちゃんと前を見ていなきゃ舌を噛んでしまいますから危険ですわよ? って、もう遅かったですか……ちなみにそのサクでも、私なんかより強いので気を付けてくださいね?」
なんだかマイカも友達が一緒だから今日は特に楽しそうだね。
準備体操にもいつもより気合が入っている感じだわ。
四方八方に人がはじけ飛んでいる光景を私は今、分身体を通して見ている。
私も自分の訓練をしなきゃだね。
その場を分身体のスマコに任せ、私は別の場所で忍気の出力を上げる訓練をしている。
まぁ訓練といっても忍気を限界まで引き上げて出し切るだけ。
一度、能力測定診断の時に95%のフルスロットルを超えてからは、体が徐々にいつもの調子へと戻っていった。
また前世の時みたいに体が動かなくなるような気配は今のところなくなったと思う。
でもまた無理をし過ぎたらわからないけどね。
それでも私は早く100%の出力を操れるようにならないといけない。
もうギアバトル闘技大会までの時間は迫ってきているのだ。
乙羽の命を守るため、この体が動かなくなろうと、この命が尽きようとしても、あの封印だけは絶対に壊してみせる。
バチッ!
おわっ?!
ビックリしたぁ……また電気でも流れたのかな?
ふと周りを見てみると、自分を中心に円状のクレーターができあがっていた。
ないわぁ――。
今はスマコがいないからよくわかんないし……。
ていうか、スマコも完全に私の分身体を使いこなしているわね。
というよりも、分身体をわが物顔で自分の体にしているのはどうかと思うよ?
なんか今ではAIっていうよりも、もう1人の人格として確立しちゃっている気がする。
いまだに腕が飛ぶのも動体が分離するのも首だけがクルクル回転するのも見ていて気持ち悪いけどさ。
あまり人の体の姿で好き放題にしないでほしいな。
あとでいろいろと噂されるのは私なんだからね?
《御意》
聞いてたんか――い!
そっちはイジメまくっていて楽しそうね。
《いえいえ、これも訓練ですから。あの方々は私が面倒を見ます。サクヤ様は安心してご自身の修行をお続けください》
まぁ確かに面倒を見てあげなくてもいいのは楽でいいね。
最近は男子どもが頑丈になり過ぎてちょっと鬱陶しくなってきたし。
まぁスマコなら上手くやるでしょ。
そんなことを思いながらも私は忍気を発動し続けた。
下校時間が近づいてきたこともあり、私は訓練場へと戻ってきた。
うわぁ……ないわ――。
としか思えない光景が広がっている。
クラスの男子や口悪先生もここ最近では上手く魔動力を使いこなしており、下校時間になっても気絶していることはなくなっていた。
しかし、今日はみんなの顔がボコボコに腫れあがり、体中に痣を付け、白目を剥いて倒れていた。
訓練場の壁や床は穴だらけで見る影もない。
結構頑丈な作りだったのに、まったく意味がないじゃん。
頑張れ、口悪先生。
「あ、おかえりなさい、サク。 今日は一段と充実した訓練でしたよ! やっぱりお2人が一緒だとアタクシもつい気合が入ってしまいましたっ!」
その2人はひどい有様ね……。
全身がズタボロなのは言うまでもなく、生気が抜けてしまっているかのような状態になっている。
でもいきなりこの訓練を最後までやり遂げたのはすごいと思うよ。
マイカなんて最初は気を失ってばっかりだったからね。
この子らがそうまでして探し出したい人って誰なんだろうね。
恋人なのか、それとも家族か……。
まぁなんにしても、この2人は本当に根性あるわ。
結構見直したよ。
「さぁ、帰りましょう!」
「……」
「……」
いやこの子ら全く喋らなくなってるじゃん!
死んだ魚のような目をしているけど、大丈夫なの?!
《大丈夫です。この子らはとても強い子たちでした。ここからです》
アンタは随分この子らのことを気に入っているみたいね。
まぁいいわ、とりあえず私も結構ヘトヘトだから帰りましょう。
その日、夕食の時間になっても2人が現れることはなかった。
心配になった私らが2人の部屋へ行くと、2人ともぐっすり眠っていた。
やっぱり今日は相当疲れたんだろうね。
アンタらが今までやっていた訓練の5倍は過酷だったもんね。
だからといって、裸で抱き合って寝ているのはどうかと思うよ?
この子らいつもこうやって寝ているの?
2人が幸せそうに眠るベッドの傍に、そっと食事だけを置いた私らはその場を後にした。
そして翌日、再びDクラスの訓練場へと2人は姿を見せたのだった。
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