A18 落とし前
別ルート編です。
あの不審な日本人たちがマイカの命を狙って襲撃してくると言っていた当日の夜。
「あら? これはこれは、お姉さまではございませんか! それにあなたがたは……」
マイカの妹であるメイナ・カミキがやってきた。
「お初にお目にかかります、メイナ・カミキ侯爵様。アブリエル伯爵家の長女、アズサ・アブリエルと申します」
「同じく、イエスタリ伯爵家の長女、ハズキ・イエスタリですの」
年下とはいえ、爵位が上であるこの妹にはきちんと挨拶をしなければならない。
だからアタシとハズキはすぐに立ち上がり、挨拶を交わす。
「まさかこの学園で天才と名高いお2人を従わせているだなんて、お姉さまも隅におけませんことね」
「ち、違いますわメイナ! このお2人はアタクシの大切なお友達です!」
「お友達? アハハハハ、まったく冗談はやめてくださいな。我々カミキ侯爵家以下のものは全て捨て駒ですわ。平民しかいないDクラスに行ったことで、遂に頭までポンコツになりましたの? 全く同じ侯爵家の人間とは思えない発言ですわ。あなた方も自分が従う者はきちんと選んだ方が良くってよ?」
まぁ聞きなれたような貴族の戯言だ。
ハズキもすげぇ引きつった顔してらぁ……まぁアタシもだけど。
「メイナ様、そろそろ参りましょう! ここはあなた様がいるような場所ではございませんことよ」
「そうね……そこのお2人さんはいつでもウチに来なさいな。そこのポンコツよりも有効活用してあげてよ?」
「まぁ、メイナ様お優しいことですわ」
「えぇ、本当に。カミキ侯爵家の次期跡取りであられるメイナ様にそんなことを言っていただけるなんて、とても幸せ者ですわ」
「それではお2人とも、ごきげんよう」
アタシらはとりあえず頭を下げてその場をやり過ごした。
こういう会話は本当に肩が凝るし苦手だ。
どうして姉のマイカはこんなにもいい子なのに、妹の方はあぁなるんだ?
全くわけがわからない。
まぁ日常ではネコを被って思いやりのあるお嬢様を演じていることをアタシらは知っている。
だからこそ、あの子の支持者はかなり多いしね。
マイカが亡くなったとされてから、カミキ家の正式な跡取りがあの妹になった。
それは、マイカが生きて戻ってきた今でも特に変わっていないらしい。
それほどまでにあの妹が自分の勢力を拡大させてしまったからだ。
ここで急に跡取りをマイカに変えてしまうと、反乱や暴動が起こってもおかしくないところまで来ている。
しかし当の本人であるマイカは、貴族として誇りとか威厳とかそういったことに全くの無関心だから特に心配していない。
だからこそ、アタシらは友達でいられるのだから。
思わぬ人の訪問でどっと疲れが出てしまい、思わずアタシとハズキは同時に大きなため息をついた。
とりあえず一息付こうかと思って飲み物に手を出すと、サクちゃんがそれを止めてきた。
この子が自分から動き出すことはあまりないから本当にビックリしてしまう。
「どうかしましたか、サク?」
おそらくこの子がドリンクから視線を外していないところを見ると、このドリンクになにかされていると思ってしまう。
「このドリンクがどうかしましたの?」
「まさか……ですわよね?」
「サクが止める以上、これはもう飲まない方がよろしいでしょう。アタクシ、なにか代わりのものを取って参りますわ」
「え、えぇ……」
「それでは、お願いしますの」
マイカは立ち上がって、スタスタとドリンクを取りに行ってしまった。
多分あの妹がなにかしたと感づいているはずなのに、それを表に出さないのだ。
「はぁ……マイカちゃんはあんなにいい子なのに、どうして姉妹であぁも違うものなのでしょうか」
「アズサちゃん、それは違いますの。あれが、普通の貴族ですの」
「そう……ですわね。マイカちゃんが特別なだけなのですね」
「はいですの……」
わかってはいるつもりなんだけどな。
どうしても愚痴を言わずにはいられない。
それにしても本当にこの子は何者なんだろうか。
信用はしているんだけど、この子とマイカの関係性を一度はっきりさせたかった。
「あの……サクちゃん? あなたはどうしてマイカちゃんを守ってくださるのですか?」
「あなたはマイカちゃんが貴族だからとか、カミキ家の人間だからとかいう理由で一緒にいるんですの?」
ハズキもアタシの考えを読み解き、すぐに合わせてきた。
「……」
しかしやっぱり返答はなかった。
まぁ想像はしていたんだけどね。
アタシらが諦めかけたその時、ふとその子は紙とペンを取り出してそれに【友達だから】と書いて見せてきた。
アタシはそれを見ると涙が出そうなほどにうれしかった。
こんな世界でもアタシらと同じようにマイカを友達だと思ってくれている子がいる。
それだけでもう安心できると思った。
アタシとハズキが顔を見合わせて喜びを分かち合っているところにマイカが戻ってくる。
「お待たせしましたです! お2人とも笑顔ですけど、一体なんの話をしていたのですか?!」
「ふふふ、秘密です!」
「そうですの! 秘密ですの!」
「そんなぁ、秘密事なんてひどいですぅ……」
そんなことをいいながらも無邪気にサクちゃんへ抱き付いているその微笑ましい姿をアタシとハズキは見ていた。
――そしてその夜。
『準備はええか? アズサ』
『あぁもちろんだ、ハズキ』
アタシらは今、寮の正面玄関の門から少し離れた場所にいる。
そう、アタシらがあの不審者たちの会話を聞いた場所だ。
今日ここにあいつらは来る。
アタシらの大切な友達に手を出そうとしている。
相手がもと同じ日本人であるなら、アタシらがきちんと落とし前を付けるべきだ。
『来たな……あの辺で人影が動いたわ』
『あぁ、アタシにも見えた』
アタシとハズキはすぐにギアメタルを起動させた。
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