065 かみなり
逆さまに吊られるっていうのはこういう感覚なんだね。
ごめんよ、芋虫シリーズの人たち。
自分がやられて初めてその辛さがわかったわ。
もうあの人らの顔も名前も全く覚えていないけどね。
さて、困った。
今にも私はやられそうだ。
あぁあ、みんな簡単にポンポン魔法を使えてせこいと思うわけよ。
私なんか七つ道具の力を借りないとなにもできないっていうのにさ。
私もあんな風に炎とか水とか風とか出してみたいと思うよ。
はぁ……なんか私っぽくバレずに魔法が使えればいいのになぁ。
おっと、やばっ?!
こうなったら一瞬だけフルスロットルで……『忍気発動、95%!』
私はいつも通りに両手を合わせて人差し指同士を立て、忍者独特のポーズを取った。
バチィッ!!
ふぇ?!
な、なになになに?!
なんでみんな倒れてんの?!
《緊急事態発生、緊急事態発生》
突然のことに会場がシーンと静まりかえる。
私はスタッと地面へ降り立ち、倒れた子をアイレンズでスキャンしてみた。
《スキャン完了。全ての方が感電状態で気を失っております》
感電?!
なんで?!
一体どうして?!
なにがあったというの?!
《原因はわかりませんが、サクヤ様の体の内部から突然高圧電流が流れました。あの方のギアメタルにより全員が繋がっていたため、そこから電流が流れて全員が感電したものと思われます》
え――――?!
「えぇえええええ?!」
会場のみんなも私と同じ反応しているし。
「な……なんということだ」
先生も膝を付いちゃったわね。
「しょ……勝者…………この者」
うわぁ……そんな言いたくなさそうに言わなくても。
大ブーイングの中、私は闘技場を降りる。
「おかえりなさい、サク! やりましたね!」
「お、お疲れ様ですの、サクちゃん。一体なにをされましたの?」
「お疲れ様です。本当になにが起こったのかアタクシたちにはさっぱりで……」
大丈夫、私にもなにが起こったのかさっぱりわかっていないからね。
それからすぐにマイカの試合も行われ、結果は圧勝。
試合が始まる前は大ブーイングが起こっていたけど、一瞬で静かになってしまった。
その後もアズサ、ハズキと同じように試合が行われていく。
2人の試合は、私らと違って大盛り上がりだった。
さすがはこの学園一番人気の2人の試合は人を惹き付けるような魅力があるわね。
そして最後に行われたのが妹っ子のいるブロックだった。
ていうか、いたのか妹っ子!
存在感なさ過ぎて気が付かなかったよ?!
まぁやっぱりあの子も人気は高いからそれなりに盛り上がっている感はあったけど、さっきの2人の試合後だったからなんか地味ね。
一応妹っ子がそこのブロックの生き残りだけど、さっきの2人には敵わないしね。
やばい、なんか少し可哀想になってきたかもしれない。
頑張れ、妹っ子。
そんなこんなで選考会は終了。
この学園の代表はアズサ、ハズキ、妹っ子、マイカ、そして私の5名となった。
なんか閉会式? みたいなものがやたら長かったからしんどかった。
まぁその間、なぜか妹っ子がずっと私の足を踏んでいたり、笑顔のままナイフで背中を刺そうとしたりして絡んできたから、それなりに暇は潰せたけどね。
なにはともあれ、これでギアメタル闘技大会に出ることができるわ。
後は、魔族の襲来と使徒の暗躍の阻止か……。
仕事が重過ぎよ。
「とりあえず4人で出場できてよかったですわね!」
「えぇ、とてもうれしいですの!」
「まぁまさかのDクラス2人の出場にいろいろと抗議がありましたが……」
「それでも最後はカミキ様が治められましたの」
「えぇ……マイカちゃんとしては複雑なのでしょうが」
「実は、お父様のことに関してはもう気にしていないのですよ。結果的にアタクシはサクと出会えましたし」
いつも通り寮の食堂でちょっとした祝杯を上げている。
「それにしてもサクちゃん、まだ不思議な力を隠し持っておりますの?」
「そうですわ! サクちゃんのことはもうある程度わかったつもりになっていましたのに……まだあんな力を持っていらっしゃったなんて」
「あれは魔法なのですの?!」
いやだから私も知らないんだって……。
一瞬だけ忍気を発動しようとしただけなのに、あんなことになっちゃったのよ。
スマコも全く原因がつかめていないようだし。
《その通りです》
「ふふんっ! あれはですね、カミナリの力というのですよ!」
はっ?!
こ、こいついきなりなにを言い出しているの?!
「カミナリの力ですか? それは即ち、あの雷ですか?」
「まだアタクシも詳しくはわからないのですけど、アトラス大迷宮で戦った白虎がそう言っていたのですよ! それに一瞬だけですが、あの時のサクと同じような状態でした!」
「びゃ、白虎?! それはあの、白虎ですの?!」
「えぇ! あの白虎ですよ!」
「このルドラルガの守り神である、あの白虎ですか?!」
「はい! その白虎ですよ! サクはその白虎と戦って勝っていますの!」
「「なっ……」」
おぅ……2人にすごい目で見られているじゃん。
あんた、いきなりとんでもないことをぶち込んでくれたわね。
《いえ、とても貴重な情報です。サクヤ様も、私もあの時の記憶が残っておりません。あの場を見ていたのはマイカ様しかおりません。事実、白虎を撃退したのはサクヤ様本人だとするならば、この情報は間違っていないと判断されます》
そ、そうなのね。
つまり、私はそのカミナリの力というものを実は持っていて、それがたまたま今日発動したっていうこと?!
《その可能性が最も高いかと》
うわぁお……。
まさか、私自身でもよくわかっていないことがマイカのおかげでわかるなんてね。
「ん? サク、どうかしました? もしかして違っていましたか?!」
「……」
いや、それが正解なのかも違っているのかも私にはわからないのよ。
「サクちゃん……」
「どうか聞いてほしいですの……」
ん?!
いきなりそんな神妙な顔をしてどうしたの?!
「どうかアタクシたちを……」
「弟子にしてほしいですの!」
え――――?!
「え――――?!」
私とマイカは同時に同じ反応をした。
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