062 たいりょくてすと
私らは共用の広い訓練場に集められている。
どうやら学年ごと、クラスごとに分かれて能力測定診断をやるみたい。
なんだか昔やった学校の体力テストを思い出すわね。
あの時は全ての科目でぶっちぎりのビリだったけど、今の私は昔とは違うのだ……フッハッハッハ!
「魔動力感知……0! 誰ですかあなたは? ゴミですね。早くおさがりなさい! 次の方!」
……あ、あれぇ?
「魔動力操作……0%! やる気あるんですか? 本当にカスですね。次の方!」
……あれぇえ?
「魔動ボール投げ……0M! アナタなんでここにいるんですか? 早く帰れば? 次の方!」
……あれれぇえ?
「魔動射撃……射撃数0! もうおまえ存在価値ねぇよ? はい、次の方!」
おかしい……何かがおかしい。
どうしてこうなった?!
なぜ私はずっとこの女に罵倒され、終いには存在価値まで否定されないといけないんだ?!
《それは、この体力測定は全てが魔動力を使った機器で測定されているためです。魔動力が皆無のサクヤ様には、確かにこのテストでの存在価値はないかもしれません》
いや、ひどくね?!
そんな言い方しなくてもよくね?!
そろそろ私泣くよ?
それに引き換え……
「魔動力感知、5万?! あなたはマイカ・カミキ様?! そんなはず……でもこの数字は……」
「魔動力操作、97%?! 本当にあのマイカ様なのですか?! しかし数字に偽りはございませんし……」
「魔動ボール投げ、530M?! はぁ?! こんな数字って……」
「魔法射撃、全て命中?! あぁ、マイカ様ですね。さすがでございます。はい、次の方!」
私の測定の後に続くマイカの評価だけがうなぎ上りだ。
ひどい……不公平だぁ。
《このままでは夕食が抜きになってしまいますが、よろしいのですか?》
はぁ?!
あれ私も入ってんの?!
《もちろんでございます。サクヤ様もDクラスの一員なのですから》
えぇ……スマコさんや、アンタそんなキャラだったっけ?
しかしこれは一大事だ……スマコやこの口の悪いお姉さんの言う通り、魔動力を使う機器のテストに私の存在価値はない……。
なにか他に方法は……あ、普通に50M走もあるんじゃん!
これなら魔動力関係ないしね!
よし、ここでいい成績を取って、ビリを免れなければ!
「それでは4名ずつ位置についてください。よ――い、ドンッ!」
いや、口で言うのかよっ!
はっ?!
いけない、思わずツッコミ入れたら少し出遅れたわ。
『忍気発動、80%!』
私はその状態で強く地面を蹴り、一瞬でゴールの線まで駆け抜けた。
結果はもちろんぶっちぎりの一位!
多分3秒台を切ってんじゃないの?
「はぁ……はぁ……はぁ……サク、早いよぉ」
フハハハ。
遅いわアホ――め。
「あれぇ? いつの間にゴールしていたのですか? まぁいいか、ストップ!」
うぉおい!
こいつ今ストップウォッチ止めやがったよ?!
いや、おかしくね?!
ぶっちぎりの一番だったのに、最下位なのっておかしくね?!
「またあなたビリですか? まだ恥を晒す気ですか?」
「……」
「サ、サク! 大丈夫だよ! アタシは真実を知っているからね!」
うるさ――い!
結果を残せないんじゃ意味ないじゃん!
このままじゃ私の夕食が……。
「次はこの線を横跳びで飛んでください。その回数を数えます」
反復横跳びね。
これも単純な肉体運動だ!
さっきは忍気を80%で出力しちゃったから、今度はちゃんと目で追える速さに抑えなきゃ……。
『忍気60……いや、50%!』
「それでは、よーい……ドンッ!」
やっぱ口で言うのかよ!
と、今回はゆっくりツッコミも入れてから動き出す。
よし、よし……ある程度は他の人たちと同じ速さだね。
これなら目で追えるはず!
「ハクシュン……ハクシュン……ハクシュン! あれ? 何回でしたっけ? ハクシュン!」
お――い!
ふざけんなよおまえ!
なんの嫌がらせ?!
そんなに私のこと嫌いなの?!
ここまでバカにされると……さすがに少し怒ったよ。
「ひぃ?! サク?! だ、ダメだよ?! 本気はダメだよ?!」
小声でマイカがなにか言っているけど、知らん。
『忍気発動、90%!』
凄まじい勢いで横から横へと反復移動する。
その勢いで地面は抉れ、あまりの風圧で竜巻が起こり、次々に生徒が巻き込まれていく。
「ひぃいい?! サク、サク! ストップストップ! 時間! もう時間だから!」
私はピタッとその場に止まる。
ふと周りを見渡すと、近くにはマイカ以外に誰もいない。
すぐさま危険を察知して距離を取っていたDクラスの生徒が、ドン引きした顔でこちらを見ている。
それよりも私は、自分でも無意識にフルスロットルを出せていたことに驚いた。
最近は力を開放するのも怖かったはずなのに、思わぬところで吹っ切れたみたい。
「サク……あれどうするの?」
マイカが指さす空には、竜巻に巻き上げられた他のクラスの生徒たちが舞い上がり全員が目を回していた。
その中にはさっきまで私を罵倒していた子もいる。
ちょっと大人げなかったな……てへっ!
『忍法、桜華乱舞の術』
私は透明な花びらを大量に舞いあがらせて生徒たちをキャッチし、泡を吹いて気絶している全員を地面へと降ろした。
ふぅ……なんか心も体もちょっとスッキリしたわ。
あ……記録……。
――そうして一日をかけて行った能力測定診断は終わった。
「……それで、あの竜巻騒ぎだったわけですか」
「サクちゃん……恐ろしい子ですの」
「そうなんですよぉ、それで最終的には最下位を免れたのですが……」
「まさかのDクラスの方々がほとんど中位を占めてしまっていて、クラス内ではサクちゃんが最下位だったと……」
「だからといって……ご飯抜きだなんて……」
「誰も止めていないのに、頑なに食べようとしないのですよぉ。まさか先生もサクが最下位になるだなんて想像もしていなかったようで……必死にあれは冗談だって言われておりました」
「あの……サクちゃん? みなさんもこう言っておられますの! 食べないのは体がもちませんの!」
「そうです! ご一緒に食べましょう?」
「……」
その後もギュルギュルと私の豪快なおなかの音だけが室内に鳴り響くのだった。
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