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060 たいせつなひとになるとき

物語を動かします。

「サク、なんだか最近元気がないよ?」

「……」

「今日の訓練もなんか心ここにあらずって感じだったし……」

「……」

「どうしたの?」

「……」

「ア、アタシにも……あ……サク……」


 私は部屋から屋上へと逃げた。

 最近ここにいることの方が増えてきた。


 この場所は容易に人が近づくことができない場所であり、基本的には一人になれる場所なのだ。


 今日もなんとなくマイカから逃げて一人屋上で寝転がる。


 自分でもどうしてマイカを避けようとしてしまうのかよくわからない。


 マイカに対しての感情が変わっていることはわかっている。


 明らかに以前とは違ってどうでもいい存在とかペットみたいとか、そういった感覚ではなくなってしまっているのだ。


 それを認めたくない自分がいる。


 今まで私が信じられるものは乙羽だけだった。

 あの子だけが私の全てだった。

 他にはなにもいらなかった。


 それなのに……そのはずなのに……マイカ……。


《マイカ様、泣いておられますよ?》


 そう。


《どうしてマイカ様の耳に付いている花びら盗聴器のスイッチを切られているのですか?》


 なんとなくよ。

 聞く必要ある?


《いつもの、「ないわぁ――」というセリフが聞けるかと》


 アンタ……私の真似うまいわね。

 まぁ、どうせあの子泣いているんでしょ?

 なら私が聞く必要ないじゃない。


 ……と言いつつも、盗聴器をONにしてしまう。


「アタクシはあの子のことを考えると胸が締め付けられるようなのです……あの子の悲しそうにしている雰囲気がどうしてもつらいのです……あの子には……あの子には……」

「マ、マイカちゃん、もうわかりましたの……ですからどうか泣き止んでくださいまし。涙と鼻水でワタクシの服は大変なことになっておりますの……」

「あなたのお気持ちは十分伝わりましたよ? 本当にサクちゃんを大切に想っていらっしゃるのですね」

「はい……どうしてもあの方のことだけしか考えられないのです……」

「ア、アハハハ……なんだか懐かしいですわね」

「えぇ本当に。とても懐かしいですの」

「え? それは一体……」

「アタクシたちには昔、今のあなた方のようにとても仲が良いお2人のお友達がいらっしゃったのですよ」

「そうなんですの。今のマイカちゃんとサクちゃんがそのお2人にとてもそっくりなんですの」

「そのお2人が……とても羨ましいです。今のアタクシとサクは……」


 全くこの子は……どうしてそんなにまで私を。


《それは今のサクヤ様とマイカ様のお気持ちが同じだからではございませんか?》


 そんなわけない!

 ないったらない!

 絶対にない!


《私にはよくわかっておりますので》


 こ、こいつ……なんかバカにされている気がするのだけど。


 あぁ、もう!

 なんか考えるのがバカらしくなってきたわ……それになんか冷静になったらおなかも空いたし。


「……ということで行くよ」


 シュタッとマイカの背後に現れて、マイカにだけに聞こえる音量で話かける。


「あひぃいい?! サク?! し、心臓が口から出るかと思いましたよぉおお!」

「えっと……サクちゃん? 一体どこから現れました?! 今、扉開きましたっけ?!」

「ま、全くわかりませんでしたの! それに、あれだけ泣いていたマイカちゃんが一瞬で泣き止んでしまいましたの……ワタクシのこの服の犠牲は一体どこへ……」


「……」


 2人が驚くのはまぁいいとして、なんでマイカまで驚いているの?


 私の気配がわかるわけじゃなかったのかな?


 それから私たちはいつも通りご飯を食べに来ているけど、マイカからチラチラと視線を感じる。


 非情に鬱陶しい。

 あ、もう食べる分が無くなっていたわ。

 もう少し食べたいなぁ……。


「はい」


 あ、サンキュー。

 ハムハムハム……はっ?!

 私が今食べたいと思っていたものが自然と皿に追加されている……。


「そ、それにしてもサクちゃんの食欲はいつ見てもすごいですわね……」

「えぇ、毎回驚かされていますの。それに……マイカちゃんが当たり前のように追加で皿に盛っていく姿がもう……」

「……はわっ?! か、考えごとをしていたら無意識に体が動いておりました……」


「「……プッ、アハハハハ」」

「お、お2人とも?!」

「あなたたちは大丈夫ですわよ、マイカちゃん」

「えぇ、なにも心配ありませんの。そのままのお2人でいてほしいですの」

「え? え?!」


 私はおもわずマイカと目を合わせてしまったけど、すぐに視線を外す。


 すると、頬を寄せ抱き着いてくるマイカを……なぜか鬱陶しくは思えなかった。


 その日、胸の奥にあったよくわからないモヤモヤが少しだけ軽くなった気がした。



 それから数ヶ月が過ぎ、私たちは何事もなく高等部2年生へとなった。


 なにも代わり映えしない面子と同じ担任の口悪先生。


 校舎は2年生用に移されて、訓練場も2年生専用だ。


 訓練場は相変わらず汚いけど、1年生の時に比べて訓練用のギアメタルで実戦訓練がやれるようになっていた。


 それに壁や床の作りは厚く、少々無理をしても耐えられるレベルになっている。


 これで、あの担任が夜中に泣きながら床を張り替える回数は減らせるだろう……多分。


 あれからの私は相変わらず忍気を扱うことを恐れたままだ。


 全開では90%を出せるはずなのに、50%を超えると体が震えて無意識に力を抑えてしまっている。


 それでもこの学園で過ごすだけなら何不自由ない。


 なんだかんだでこのクラスメイトたちも私の訓練に耐えられるようになっていた。


 全員が14歳とは思えないほどの体つきをしているのはちょっとキモいと思う。


 顔だけ子供なのに体はマッチョ的なね。

 そのアンバランスがそう……キモいわ。


 あれから妹っ子も大人しいもんだ。


 相変わらず猫は被っているみたいだけど、たまたま廊下で私らとすれ違っても無視だしね。


 そういえば、これから行事も多いみたいね。


 まずは明日、能力測定診断があって、その後は例のギアバトル大会とやらに向けた選考会が開催されるらしい。


 そして、今回は特例として私らDクラスの2年生はその選考会への出場を認められた。

お読みいただきありがとうございます。

もしよろしければブクマや評価をしていただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。

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