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059 とらうま

 私が目を覚ますと、そこはいつもの寮の部屋だった。


 まだ、体中が痛くて動けそうもない。

 少し体を動かしただけでも悲鳴を上げそうになるほど全身に痛みが走る。


《無茶をなさるからです。回復は続けていますので、今日はゆっくり休んでください》


 はい……ごめんなさい。

 マイカは?


《先ほどまでずっと付きっきりで看病されていましたが、おそらくお食事を取りに行ったのでしょう。本日はマイカ様も学園をお休みされておりますので》


 そう。

 悪いことしたかな?

 勝手にあのクリスとかいうやつを殺そうとしたこと……怒っているかな?


《その答えはマイカ様本人しかわかりません》


 そうよね……。

 あのクリスってやつは?


《あれはもう即死でした》


 あの人、どうして転身機を付けていたんだろう。


《正確に申し上げると、あれは転身機ではありません。それに似せて作られたものであると推測されます》


 転身機が作られた?!

 一体誰が……。


《今は情報が少なすぎて解析不能です》


 そうね。


 それよりも、あのクリスのバックにいたのは妹っ子でもあのおっさんでもなかったのね。


 おそらくは後から出てきたあのヤバい男と同じで、向こう側の神の関係者なんだろう。


 あいつは自分を使徒だと名乗っていたし、それだけの強さを持っていた。


 私でも全く歯が立たなかったしね。

 てか……私って弱いなぁ。


 こんなんじゃあ、乙羽もマイカも守れないや。

 あいつとあのまま戦っていたとしたら普通に負けていたわ。


 命を削ってまで発動した忍気95%でもあの結果だもんね。


 体が万全の状態でもおそらくは……負ける。


「あ、サク! 気が付いたんだね! 大丈夫? どこか痛む?」

「……」

「ご飯……食べる?」

「……」


 食事を持って部屋へと戻ってきたマイカの顔を、私は直視することができなかった。


 なんか怖かった……のかもしれない。

 自分でもよくわからない感覚だった。


 それから私たちは口数も少なく、その日は寮で過ごした。


 その日の夕方、部屋のドアをノックしてあの2人がやってくる。


「マイカちゃん、サクちゃん、お邪魔します! 本日はお休みをされていたとクラスの人たちにお聞きしましたので、お見舞いに参りました」

「ご機嫌いかがですの?」

「アズサちゃんにハズキちゃん、昨日はどうもありがとうございました。おかげで助かりました……」

「いえいえ、ワタクシたちが勝手にやったことですの」

「そうですわ! 結局はサクちゃんに助けていただきましたしね!」

「お強いとはお聞きしておりましたけど、まさかあそこまでとは思いませんでしたの」


 多分スマコが操っていた私の分身体のことだろうね。


「はい! あんなに体が柔らかくて人間離れした動きは見たことがございませんでしたわ」

「あれはワタクシたち以上に、敵の方たちの方が驚いていらっしゃいましたの!」

「まぁだからこそアタクシたちは勝てたのですが……」


 あぁ……えっと、スマコさんや?


《一応人間の動きに似せる努力はいたしました》


 どうして急に機械音みたいな棒読みで喋り出すの?


「ま、まぁそれは置いておいて、ご飯でも食べに参りませんか?」

「そうですわね!」

「食堂へ行きますの!」


 私も普通に動けるくらいには回復していたので、食堂までやってきた。


 ご飯の途中、マイカが事の経緯を2人に説明していた。


 それを2人は黙って神妙な顔で聞いていた。



 それから数日が過ぎ、また合同の実戦訓練が開催された。


 無防備に拘束された私たちDクラスに魔法を放ち続けるだけの、圧倒的有利な立ち位置にあるはずのAクラスからCクラスの人たちが、なぜか鬼気迫るような表情をしている。


 まぁそれはそうか。

 このDクラスの子たちったら、もうほとんど攻撃を受けてもビクともしないんだもん。


 でもさすがに妹っ子の攻撃はなかなか効いているみたいだったけど、耐えられないほどではなかったみたい。


 それよりもあれから妹っ子の元気がめっきりなくなってしまった。


 まぁ刺客として送り込んだ50人の暗殺部隊は全員が全滅。


 その人らは、私の分身体やマイカ、それにあの2人が動けないように拘束して一箇所に集めていたはずなのに、後でスマコが見に行くと全員が殺されていたらしい。


 おまけに一番信用のおけるクリスまでも死んでしまって、頼れるものがいなくなった感じだね。


 あのおっさんと妹っ子の関係性もよくわからんわ。


 別に暗殺部隊を全滅させてしまってもお咎めはないし、全くの無関心って感じ。


 一応妹っ子も優秀ではあるんけど、強さでいうとあのクリスの方が強かったからね。


 だから、なにかしらの処罰があるかと思ったんだけど……。


 妹っ子もあのおっさんも大人しいまま月日は流れ、私は封印を破壊するための修行を続けていた。


 それにしてもこの封印……一体なにで作られているの?


 スマコにずっと解析させているというのに全くわからないままだ。


 今まで見たことも聞いたこともない未知の物質が複合されてできているらしい。


 その内部には膨大な未知のエネルギーが集められていて、さらにそれは今でも不規則に増幅し続けている。


 そういうことで、今は考えるより一刻も早く忍気を100%出せるようにした方がいいという判断なのよ。


 まぁ口で言うのは簡単なんだけどさ、あれから一向にその兆しが見えないてこないのよね。


 今はまだ90%がいいところ。


 前回命を削って95%を出してしまってからというもの、体の調子もかなり悪い。


 それはまるで、前世で感じていた体の弱体化する病気みたいな感じなのよ。


 あの時のトラウマは今でも私の心を締め付ける。


 これ以上忍気を使うと、また前世みたいに体が動かなくなってしまうかもしれないという恐怖が、どうしても私を躊躇わせてしまっていると思う。


 もしもこの世界で前世の時のような体になってしまったら、乙羽を守ることができないばかりか、もうこの世界で生きていくとこすらできなくなるだろう。


 私はこちら側に来て、自分の感情を少しずつ理解し始めている自覚はあった。


 それ故に、最近はその恐怖を感じない日がないのだ。

お読みいただきありがとうございます。

もしよろしければブクマや評価をしていただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。

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