A16 気になるあの子
別ルート編です。
その次の日の夜、いつも通りにハズキと夜の自主訓練をやっていた。
自主訓練はほぼ毎日続けていたおかげで、もう習慣付いてしまっている。
前世では、部活動でも朝練や自主練をしてこなかったというのに、自分でも驚きだ。
『はぁあ……今日も疲れたわぁ』
『おまえ本気出し過ぎやねんて』
前世のことを考えていると、ふと日本語が出てしまう。
この世界に来てからもう十数年経っていることもあって、今ではこの世界の言葉での会話も違和感なく普通にできる。
だけど、やはり日本語というものはどこか安心してしまう。
ハズキとアタシの2人だけにしかわからない言葉というのも特別感があっていいのかもしれない。
『そろそろマイカの友達も見てみたいよな』
『それな! ウチずっと気になってん! どんな奴なんやろか』
『でもさ、部屋に行ったらいつもマイカしかいないのは不思議だよな』
『たまたまとちゃうか? それか、恥ずかしゅうてトイレか風呂に隠れとるんとちゃう?』
『人見知りもそこまでいくとヤバいだろ。もしかしたらサクヤみたいな奴なのかもな!』
『そうかもしれんな! あの2人は……無事やったんやろうか』
『っ?! 待て……アタシ……死ぬ前にオトハが地面に落下するところを見たぞ……』
『なんやて?! それじゃあもしかしてオトハもこっちの世界に来とるかもしれんのか?!』
『わかんねぇ……一瞬のことだったし、今思えばそれがオトハだったのかも自身ねぇんだわ』
『そうか……あの時のことはウチもあんまり思い出したくないわ。どっちにしてもその可能性があるんやとしたら、ウチらは探し続けようや』
『あぁ、そうだな!』
そして、次の日の夜。
この日も魔動兵団との訓練を終えたアタシらは、マイカとマイカの友達を夕食に誘おうと、マイカの部屋までやってきた。
部屋の中から物音が聞こえたので、マイカたちが帰っていると思いノックする。
しかし、返事がなかったから仕方なくドアノブを回してみると、鍵が開いていたので中に入った。
「マイカちゃん! もう戻っていますかぁ?」
「よかったら一緒にご飯でも……きゃぁあああ?!」
「マイカちゃん?! マイカちゃん?!」
アタシらの目の前には全身がボロボロの状態でベッドに倒れているマイカの姿があった。
慌てて駆け寄り、体を揺らしてみる。
「うぎゃん?! もうサンドバックは嫌なのぉおお! ……ふぇ?! こ、ここは……お部屋?」
幸いにもマイカはすぐに目を覚ましたので、ホッとする。
「マイカちゃん?!」
「あれ? アズサちゃんにハズキちゃん? どうしてここに?」
「ご一緒に夕食でもどうかと思いまして、お誘いに来ましたの。それよりも大丈夫ですの?!」
「そ、そうでしたか。アハハハ、大丈夫ですよ! お恥ずかしい格好ですいませんでした。すぐにお着換えしますから待っていてくださいますか?」
「えぇ……」
そそくさと廊下に追いやれたアタシらは、静かに会話する。
「あれは一体なにごとなんでしょう」
「まさかあのDクラスの男どもに?!」
「もしそうなら……今度こそただではすみませんの」
「えぇ。後でちゃんとお話をお聞きしましょう」
そこまで話し終えると扉が開き、マイカと一緒にもう1人姿を現す。
「お待たせしましたぁ! 今日はアタクシのお友達もご一緒しますね!」
そうやって姿を現したもう1人の少女は、白いフードを深く被ったままで顔が見えず、ちょっと不気味だ。
身長はマイカより少し小さく細身であることはわかるけど、そんなことよりさっきアタシらが部屋に入った時は、マイカ以外に誰もいなかったと思っていたから、そっちの方に驚いた。
「あれ?! 先ほどお部屋にいらっしゃったのですか?!」
「気が付かなくて申し訳ございませんでしたの!」
「……」
頭をさげて謝罪をしてみるけど、その子は全くの無反応だった。
仕方なく、マイカの方に話を振る。
「えっとぉ……どうしてこの方はフードを被っていますの?」
「ちょっと恥ずかしがり屋さんなのです! かわいい方でしょ?」
あっけらかんとニコニコしながら、しかも嬉しそうに話すマイカの姿を見て、アタシは昔交わしたオトハとの会話を思い出していた。
あの時まだアタシらとサクヤの絡みがあまりない頃、サクヤがいつもマフラーで口元を隠しているのを不思議に思って、オトハにそれを聞いてみたことがあったのだ。
その時にオトハが「この子ちょっと恥ずかしがり屋さんなのぉ! とぉってもかわいい子でしょ?」と嬉しそうに話していた姿と、今のマイカの姿がダブって見えた。
「え、えぇ……とてもユニークなお方ですわね」
気が付いたら、あの時と同じような言葉でアタシは返していた。
それからアタシらは4人で食堂までやって来た。
食事を始める前にきちんと挨拶をしておこうと思って、立ち上がる。
「挨拶が遅くなってしまいましたが、アタクシはアズサ・アブリエルと申します! マイカちゃんとはお友達ですので、よかったら仲良くしてくださいね!」
「ワタクシはハズキ・イエスタリと申しますの! マイカちゃんの大切なお友達とお聞きしていますの。是非ともワタクシたちとも仲良くしてほしいですの!」
アタシと同じように、ハズキも自己紹介を始めた。
「……」
しかし、やはりこの子は無反応だった。
「この方は恥ずかしがり屋さんなので、ちょっと会話が苦手なのです! こう見えて実はとっても優しい方なんですよ!」
マイカが代わりに応えるけど、それはもうわかりきっていたことだった。
「折角なら、マイカちゃんがしきりにお可愛いと言われていたお顔を拝見したかったのですが、それはもっと仲良くなってからということにいたしましょう!」
「そうですの! たとえお顔を知らなくても、お話ができなくてもワタクシたちの関係性は変わりませんの!」
「マイカちゃんの命を救っていただいたというその事実だけで、アタクシたちはあなたを信用できますわ」
「お2人とも……アタクシはとても幸せでございます」
この子の姿をこの目で見るまでは正直不安な部分があった。
こんな世界の人間が本当に信用できるのだろうか。
本当は騙されてなにかに利用されようとしているんじゃないだろうか。
マイカを大切に想えばこそ、いろいろと不安な思いは積もるものだった。
でも、この子は多分安心できる。
この子はまだアタシらに対して警戒をしているようだけど、ここに来るまでの間でもマイカの傍を一切離れず、どこか守ろうとしているかのような素振りを見せていたのだ。
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