A15 悪魔になる
別ルート編です。
早朝、いつも通りハズキを起こして朝食を取るために食堂へと向かう。
「あ、そうだ……マイカちゃんたちもお誘いします?」
「はい! 喜びますの!」
おそらくは一緒の部屋にいると思われるマイカの友達に挨拶も兼ねて朝食を誘おうかと思い立った。
部屋の前まで来ると、微かにマイカの声が聞こえてきた。
「あ……良かった。ちゃんといた」
「……え?! えぇえええええ?!」
どうやら起きたばかりみたいだ。
会話をしているんだろうけど、マイカの声しか聞こえない。
だけど、一緒にいるのは確かみたい。
『またにすっか』
『そうやな』
そういうとアタシらはご飯を食べて校舎へと向かう。
今日からまた魔動兵団の人らと実戦訓練だ。
その日、昼食を取っていると3年生の話し声が聞こえてきた。
「おい、知ってるか? あのポンコツ令嬢が生きてたって話」
「あぁ。ビックリだよな。いきなり高等部に入れたんだろ?」
「そうそう。やっぱりポンコツでも勇者の娘っていうだけで優遇されるんだなぁ」
「でもあいつ噂のDクラスらしいぜ?」
「ははっ、あの平民しかいないDクラスかよ。そりゃ人生終わりだな」
それを聞いたアタシとハズキは同時にむせた。
「す、すいません! その話詳しくお聞かせ願えませんか?」
そう先輩にお願いしてDクラスについて聞いた。
まず、アタシらはDクラスという存在があること自体知らなかった。
聞くところによると、そのDクラスは唯一平民でも入ることができるクラスであり、優秀であれば魔動兵団へ入隊することもできるという。
しかし、その実態は隔離された校舎や訓練場でひたすらに体を鍛えるだけのクラスらしい。
仮に魔動兵団へ入隊したとしても、位は一番下で壁役。
壁役とは戦争などが起こった時に、最前列で己の体を肉の壁として味方布陣を守る役目のこと。
いわゆる特攻隊のようなものだ。
そう聞くと聞こえはいいが、ほぼ確実に命を落とす役目でもある。
戦争には絶対的にそういった役目が必要であるため、この国ではそれを平民にさせているのだ。
それを育成するためのクラスがDクラスだという。
まさか、そんなところに自分たちの友達が放り込まれているなんて思いもしなかった。
この国の貴族に対する平民の憎しみは小さい時からなんとなく感じていた。
身分の違いで逆らうことができず、理不尽な扱いを受けていた平民をたくさん見てきたからだ。
だからこそ、そのDクラスの人たちも貴族に対する憎しみが強いのではないかと心配になる。
しかも、聞くところによるとDクラスは全員が男だという。
この国だけがそうなのか、この世界全部がそうなのかわからないけど、男女間の関係がちょっとおかしいと思っている。
前世みたいに保健体育などの授業がないため、お互いの体の違いをあまり知らないのだ。
だから男子に何食わぬ顔でおっぱいに触われても、その子は平気な顔をする。
その子にとっては手や肩に触られるのとあまり変わらない感覚なんだろう。
男女間の恋愛感情とか、ドキドキする感情とか、触られるのが恥ずかしい感情とか、キスをしたい欲情とかそういったものがない。
この国の貴族の結婚も、親同士が勝手に決めるしね。
そんな男女間でも、一応は馴れ馴れしく触れられたくないといった感覚はあるようだから、そこら中で変な光景を目の当たりにすることはないんだけどね。
それでも、そんな男どもしかいないところに、あんなかわいい子が放り込まれているだなんて可哀想すぎる。
その日、訓練が終わった後すぐにアタシとハズキはマイカの部屋へと向かった。
「マイカちゃん! 無事ですか?! まさかDクラスだなんて聞いていませんでしたよ?!」
「大丈夫ですの?! なにか酷いことをされていませんの?! 辱めを受けてはいませんの?!」
部屋に入るなり、アタシとハズキはマイカを問い詰めた。
「ちょ……お、落ち着いてください、お2人とも! 特になにもございませんでしたわ」
「本当ですか?! Dクラスの授業は体を鍛えるものしかないとお聞きしましたよ?!」
「え、えぇ……確かに一日中筋トレという授業でしたけど」
「それはあんまりですの! しかも男の方しかいないとお聞きしましたの!」
「え、えぇ……確かにDクラスには男の子しかいらっしゃらなかったです。でもアタクシの大切なお友達もご一緒ですし」
そういえば、そのお友達はいないんだな。
てっきり一緒にいるかと思っていたのに。
「そんな場所に女の子お2人なんてあんまりです! この国の男の方は、女の子の扱い方がわかっていらっしゃらないのです!」
「いえいえ、そんなこともなかったですわよ! 放課後には強さの秘密を教えてくれってアタクシの体に触りながら熱心に調べておられましたし……みなさんとても向上心があっていい方たちでしたわよ!」
それを聞いた瞬間のアタシは、おそらくひどい顔をしていたはずだ。
だって、ハズキがそうだったから。
「あ、あら?! アズサちゃん?! ハズキちゃん?! どうしてそんな邪悪なオーラを放っておられるのですか?! と、とても怖いのですけれど……」
アタシらはとりあえず、笑顔でその場を後にすると一目散に走り出し平民が寝泊まりしている宿舎の場所を使用人に聞き出して、その場所へと向かった。
「失礼いたしますの!」
「1年のDクラスの方々はどちらですか?」
「おいおい、貴族のお嬢様がこんなところにくんじゃねぇよ。うせ……ぐはっ?!」
そいつが言い終えるよりも先にアタシの手が出ていた。
「ひぃ?! 1年はあいつらだよ!」
「そう、どうもありがとうございます」
それを聞くとアタシらはスタスタとそいつらの元へ近寄った。
「な、なんだよおまえら……」
「どうも、マイカ・カミキ様のお友達ですの」
「今後、マイカ様に指一本でも触れましたら……殺しますわよ」
「あぁん? ふざけん……なっ?!」
「おい! いいかげん……おぅ?!」
それからはよく覚えていないけど、気が付いたらその場の全員をハズキと2人でボコボコにしていた。
アタシらが立ち去る時、遠くから「あれは悪魔だ……」という声が聞こえた気がした。
明日は更新できなかったらごめんなさい。
なるべく頑張ります。
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